もともとはイヴェント出演のための企画として結成されたはずだったバンドが、その気になってしまった。初の作品となるミニ・アルバム『CRCK/LCKS』を2016年4月にリリースしているが、CRCK/LCKS(〈クラクラ〉と彼らは自分たちを呼ぶ)がいよいよすごいと噂になりはじめたのは同年の暮れぐらい。彼らがそれまでいたシーンから飛び出しはじめ、日本のロック/ポップ・バンドと交わりはじめた頃だった。ジャンルの〈あっち側〉から来たCRCK/LCKSの存在が、今〈あっち〉と〈こっち〉の垣根を取り壊して、広い遊び場を作ろうとしている。
期せずして、昨年の暮れ以降のCRCK/LCKS周辺の流れは、にわかに活発になった。小田朋美がceroの新サポートとして加入し、石若駿『Songbook』、小田朋美『グッバイブルー』、井上銘『STEREO CHAMP』とメンバーたちの充実のソロ・リリースも続いている。そしてこの7月、約1年ちょっとのスパンで、CRCK/LCKSの2枚目のEP『Lighter』が届いた。全員が常に多忙な活動をしているなかで、〈バンドやろうぜ〉的な好奇心だったものが本気のバンド愛へと変化してゆくその過程と結果を音楽で表現したような本作は、ポップスとしての意識が明確化したことはもちろん、ある意味〈エモい〉ものになっている。制作直前には角田隆太(ものんくる、ベース)が自身のバンドに専念するために脱退し、新たに越智俊介(CICADAなど)を迎えるというメンバー・チェンジもあったが、どうやらその変化も彼らにとってはうまく作用したらしい。
今月開催の〈サマソニ〉への出演を前に、変化の時でありながら、むしろバンドとしてのさらなる好調を感じさせる新作について、メンバー5人に自由に語ってもらった。
取材協力:KAKULULU
〈みんなでがんばろう!〉みたいなことは、あんまりやってこなかったから
――ニュー・アルバム『Lighter』のポップさには驚きました。ファーストからセカンドに至るまで1年ちょっとでしたけど、メンバー・チェンジもあり、いろんなバンドやミュージシャンとの予期せぬ繋がりもあり、内外でかなりの変化があったように見えます。
小西遼(サックスほか)「バンドとしては〈もっと曲作りたいね〉〈もっとライヴ良くしたいね〉っていう気持ちだけでひたすら進んでいきましたね。ライヴして、反省をして、新曲を書いて、というサイクルで、自動的に更新されてきた感じなんです」
――ジャズ以外のシーンからの予期せぬ好反応や、対バン相手からのフィードバックもあったのでは?
小西「去年のMikikiのイヴェント※から、対バンの人たちとの繋がりがかなり強くなりましたね。あの日出演したTAMTAM、WONK、吉田ヨウヘイgroup、それだけでなくMUSIC FROM THE MARSさんなど、おもしろい繋がりが増えました」
※2016年12月21日、青山月見ル君思フで開催した〈MIkiki忘年会2016〉
小田朋美(ヴォーカル、キーボード)「いい対バンがすごく増えたよね」
小西「駿は、クラクラで共演する前に西田※と知り合ってたよね?」
※吉田ヨウヘイgroupのギター、西田修大
石若駿(ドラムス)「岡田くんのソロ・プロジェクト※のレコーディングで、去年の今頃、初めて会ったかな。西田くんは僕らがやってることにすごく興味を持ってくれて、(井上)銘くんともすごく仲良くなった。(西田は)探究心がハンパないからね。ジャズ・ミュージシャン以上にマニアックなジャズを知ってて、ロックも王道から最近のポスト・ロックまで把握してる。彼と話してると、すげえ勉強になります」
小西「結構意外だったのは、Mikikiのライヴの時に銘が他のバンドを観て、すげえ感動してたんですよ。僕もそれまでバンド・シーンとか詳しくなかったけど、俺たちも学ぶものがいっぱいあるって思うようになってから、そこから繋がりも出来ました」
――それまで単純に、ロックのライヴハウスに身を置くという環境は、みんなあまり経験していなかった。
小西「越智はバンドマンだったんですけどね」
――逆に越智さんに訊きますけど、越智さんはCRCK/LCKSに加入してみて、メンバーがどういうふうに見えました?
越智俊介(ベース)「みんな意外とバンドマンっぽいなと思いましたね」
小西「そうなんだ?」
越智「ひとりひとりの個性は強いけど、意外とバランスも取れてる」
――もっとテクニシャン同士の才能のぶつかり合いみたいに思っていた?
越智「そうですね」
小西「でも、ファーストを作ってる時も言ってたんですけど、銘ちゃんとか駿もジャズのバンドをやってるけど、固定メンバーでそのメンバーでしかできない音楽を作ることにこだわりがすごく強い人たちだから、そういう意味ではスタイルや色合いは違っても気持ちは結構通じてたんですよ。一番最初にみんなで合わせた時は譜面も用意して、仕事してる感はあったんですけど、今はもうそれが全然ない。普通に話したり、いじられたり。学校の友達が集まってやってる感じがすごくします」
――そこがバンドのおもしろさですよね。だんだんほぐれていくし、混ざり合っていく。
小西「そうですね。あとは集まったのがみんな、いいやつだった(笑)」
――さっき僕が取材場所に着いた時に、実は井上さんが遅刻してまだ着いてなくて、それを他のメンバーがたむろしながら待っていたじゃないですか。それがなんか、バンド感というか、予想以上に青春っぽい見え方だったんですよね。
小田「遅れてきた青春みたいな(笑)」
小西「それ、このバンドのテーマになりつつある! なんだろうね? 俺らにはそういう青春感が10代の頃にはなかったのかな?」
井上銘(ギター)「俺の個人的な話ですけど、10代の時はギターへの探究心のみで生きてた感じだったんです。そういうのを外に放出しなきゃいけないと思うようになった時期と、このバンドが始まった時期とが重なっていて。ちょうどいいタイミングだったというのはある」
――石若さんは日野皓正さんのバンドなどジャズのハードな現場で日頃活動されてきましたが、CRCK/LCKSに参加するというのは、どういう感じでした?
石若「そこは銘くんともすごく似てるんですけど、僕も同世代のバンドで〈みんなでがんばろう!〉みたいなことは、あんまりやってこなかったんですよね。普段はだいたい年上の先輩方とやることが多いですから。こういう感じでバンドをやるのは、初めてなんじゃないかな。そこが一番、自分のなかで大きいです」
――小田さんに先日インタヴューした時に、CRCK/LCKSの初ライヴの本番直後に、石若さんが〈でっかくやりましょうよ!〉と言ったと話してくれてましたよね。
小田「そう。その時めっちゃお酒を呑んでたというのもあるんだけど、〈先輩、でっかくやりましょうよ!〉って言ってた(笑)」
石若「その時はたぶんトモミンをまだ〈先輩〉って呼んでたね。実際、めちゃくちゃ先輩なので(笑)」
小西「〈小田朋美を何て呼ぶか問題〉ってあったもんね(笑)。でも、あのライヴ以来、楽しくやっていく方向になったよね。そのいい流れが起き続けてる限りは、バンドをやる意味はあるんだろうなと思う。そういうグルーヴがあると、音楽も淀みなく出てくるんだろうなという気がします」
――最初に言いましたけど、『Lighter』は、すごく素直にポップスに接近している印象があります。ファーストの時は、メンバーの〈対ポップス〉みたいな姿勢というか、距離感の持ち方のような部分がわりと大きかったように思うんです。
小西「今回収録した曲の半分くらいはファーストを出した頃にはもうライヴでやっていて、意図的に何かを変えたわけじゃないんですが、アルバムの作り方自体ではいろいろ実験したり挑戦したりしました。オダトモの歌声も前作とは結構違う録れ方になっていると思います。個人的には、そこが一番大きい変化かな」
小田「うん、そうだね」
――確かに、ファーストでは小田さんの歌に、わりと器楽的なすごさを感じていたんですけど、新作ではラヴソングが目立つということもあって、もっとぐっとくるというか、感情や色気を感じますね。
小田「うれしいです。去年の暮れぐらいかな、音楽ライターの花木(洸)さんにも、〈小田さん、人間になりましたね〉って言われたんですよ(笑)」
石若「もしサウンド面で変化したと言うのなら、俺は俊ちゃんの加入だと思う。曲のアレンジでも〈ここは伸ばしたらいい〉とか〈ここでブレイクしたらいい〉とか、ポップスをやってきた経験の多さからくるアイデアを提供してくれて」
越智「〈自分が思うポップスっていうのは、こうかな〉くらいの提案ですね。それをやってみて、良かったら採用、という感じではありましたけど」
石若「俺らにはすげえ新鮮なアイデアだったと思うよ」
小西「ライヴでセットリストを組む時も、越智は〈こことここの曲のつなぎ方は、こういうふうにしたほうがすごくスムーズにいく〉みたいなアイデアを出してくれたりした。僕らには全然思いもよらなかったことを、〈いや、普通にこうじゃん〉って正してくれる感じで。バンド感が出たとか、ポップスに近くなったという印象は、越智がバンドにもたらしてくれた変化がかなりデカかったかもしれない」
井上「角田くんがいた時は音楽が水平的だったのが、越智くんが入って、もっと音楽が垂直になった気がするよね」
小田「(越智の加入から)レコーディングまでぜんぜん時間なかったのにね。初ライヴから一ヶ月くらいだったので。〈前からいた〉みたいな感じがしてたけど、加入したのは今年の3月だもんね」
小西「角田がものんくるを本格的にやるのでバンドを脱退することになった時に、後任のベースは誰がいいのか考えたんですよ。その時に、角田と同じような方向のベーシストを入れると、僕らが角田を恋しがっちゃうかもしれない。だから、まったく毛色の違う人を入れようと思ったんです。その時に、今までも何度か僕がライヴに遊びに行ってた越智の存在がパッと思い浮かんだんですよ。それで、ドラムとベースは組み合わせが大事だから、駿に電話して〈越智どう思う?〉って訊いたんです。そしたら、2人はすごく仲が良かったみたいで」
石若「出身が同じ北海道で、学生の時から知ってたから」
小西「駿も越智にはずけずけ言いたいことが言えるし、それはいいかなと」
小田「そう、この2人の関係はすごくおもしろい(笑)」
小西「やっぱり音楽に対する愛があるというか、音楽的なボキャブラリーが違っても、ハートで繋がるものは繋がるんだなと思いましたね。そもそもクラクラのメンバーもみんなそうだし」
――曲が出来ていって、最終的に〈これがCRCK/LCKSの音です〉という判断は、今は誰が下すんですか?
井上「そこは、ぶつかり合いますね」
小西「最後の最後で出す決断は僕がしますけど、そのギリギリまではぶつかり合います。この間リハでオダトモと駿が新曲を持ってきたんですけど、〈これはあんまりクラクラっぽくないかも〉みたいな話になって。でも、〈とりあえずやってみようよ〉みたいなところから始めてみる。それで、ああだこうだと意見をぶつけ合う。〈ああ、そういうのね、わかった〉と、一歩引いて飲み込むというよりは、ちゃんとお互いのアイデアで衝突する。僕はそれはすごくいいことだと思ってるんです。今回のアルバムも作っていく段階でそういうぶつかり合いは増えたけど、深みや立体感が増した感じはしますね」
小田「作業していく中で、やっぱり〈あ、これが正解だな〉というのが漂う瞬間はあるよね」
小西「駿も、絶対に〈正解〉があるってよく言いますね」
石若「言ってるっけ(笑)?」
小西「でも、僕も〈正解〉ってあると思うんです。違和感がなくなる瞬間、すっと腑に落ちていく瞬間というか」
小田「そういう瞬間が増えてきた気がしますね」
小西「これからもアイデアのぶつかり合いはもっと出てくると思うし、そうじゃないといいものなんかできないとも思っているから。みんな〈おもしろいものを作りたい〉という部分は一致してるので。特に駿と話してると、〈いや、これもっとこういうふうに気持ち悪いほうがいい〉とか、いっぱいアイデアが出てくる。そういう時に、ただ奇をてらって複雑にするんじゃなくて、駿が言う、その〈おもしろさみたいなものを入れてくれ〉っていう瞬間は納得できるところがある」
――石若さんが言っていたその〈気持ち悪さ〉というのも、重要なワードだと思うんです。〈気持ちよさ〉ではなく、〈気持ち悪さ〉なんですよね?
石若「僕は気持ち悪いほうが好きなんですよ。芸術作品とかを見たりしていてもそうで、それを見た後何時間経っても〈あれキモかったなあ〉って心に残っているようなものが(笑)。〈何か足りないな〉と思った時には、何か気持ち悪い要素を足せたらいいなと思うというか」
――〈どうやったら気持ちよさと気持ち悪さのギリギリのバランスに音を置けるか?〉みたいな話は、最近、知り合いのミュージシャンともよくするんですよ。
小田「それは歌もそうかも。〈ここまでやっちゃうと引かれるかな?〉みたいなところまで行くかどうか、ギリギリのラインを探っていたり」
小西「そういう表現のほうが耐久力がありますよね。最近売れてる音楽は、ビート的にもコード的にも音像的にもものすごく整理されたものが多いから、ヒットはしても名作として残っていくものじゃないんだろうなと思うんです。やっぱり、過去の作品で今に残っているものって、どこかしらに気持ち悪さというか、エグみみたいなものがあって。インパクトのみが大事だとは思わないですけど、そういうエグみがないと、うねりやグルーヴが生まれないんですよね。そういう意味で、聴き流されるんじゃなくて、何回も何回も聴くことで〈あ、これおもしろいかも〉と気付いてもらえる耐久力のある作品を作りたいとは思っています」
――何年か前に、森は生きているや吉田ヨウヘイgroupをよくライヴで見ていた時期があるんです。彼らはその時点でも高い支持があったんですけど、本当に彼らがやりたいことはロックのフィールドではあまり理解されていない感じもあって、ちょっと孤独にも見えていたんですよね。今、CRCK/LCKSみたいなバンドがジャズのシーンから出てきて、クロスオーヴァーしながらいろいろつながり始めているのを見てると、むしろ今のほうがジャンルとか関係なく彼らの音楽が理解されるんだろうなと思えるんです。
石若「岡田くんは一人でずっと、ああでもないこうでもないって悩んでましたからね。今はまたすごくいい音楽を作っていますけど」
小西「僕らが思うおもしろいミュージシャンとおもしろい音楽を作って、おもしろいシーンを作っていけたら最高ですけどね。それでしかないというか。ジャズとかロックとか、ジャンルや名称は関係ない。僕らはそういうものを越えたところで、いい音楽をやっていいきたいです。駿のソロ・アルバム『Songbook』(2016年)もそうで、あれがジャズなのか? ロックなのか? ポップなのか?と言われても、作り手としてはそれはどうでもいい話で。ただ僕らの頭の中で流れている音楽を思う通りに形にしていくだけなんです」