ゴスペルライクなナンバーから優しい歌声のバラード、へヴィーなハード・ロックまで、稲葉の魅力がたっぷり詰まったアルバムを全曲解説!

稲葉浩志 Singing Bird Being(2014)

 

1. ジミーの朝
アコギの穏やかな調べを伴ってアルバムの幕開けを飾るのは、本文でも触れられているように、稲葉がサーフィン仲間の〈ジミーさん〉に触発されて作ったという楽曲。本人がアコギに加えてエレキ・シタールとジャンべを演奏しており、フルートやチェロも交えて、朝もやに包まれた海辺のように幻想的な音世界を作り上げている。

2. oh my love
ウェストコースト・ロック風のアーシーなサウンドが優しく響く、慈愛と昂揚感に満ちたミディアム・テンポのゴスペルライクなナンバー。後半のローリング・ストーンズ“You Can’t Always Get What You Want”を彷彿とさせる展開も遊び心が効いている。ドラムを叩くのは、本作を携えてのライヴ〈Koshi Inaba LIVE 2014 〜en-ball〜〉にも参加するFUZZY CONTROLのSATOKO。

3. Cross Creek
doaの徳永暁人やB’zのサポート・メンバーでもあるシェーン・ガラスら馴染みのプレイヤーがバッキングを務めた、ダイナミックに駆け抜けるロック・チューン。ポール・スタンレーやクリスティーナ・アギレラらとの共演歴があり、稲葉の前作『Hadou』にも参加していたラファエル・モレイラの吠え猛るギター・ソロも聴きどころだ。

4. Golden Road
夢を追う人に向けて〈信じた道なら行けばいい〉と力強く言葉を投げ掛ける、稲葉らしいストレートな熱唱が冴え渡るハード・ロック・ナンバー。ギターを弾いているSensationの大賀好修は、稲葉の2004年作『Peace Of MInd』やB’zのツアーでのプレイでも知られており、今回は“念書”“Stay Free”を含む5曲に参加する活躍ぶり。

5. 泣きながら
人と人の繋がりの大切さを優しく寄り添うような歌声で表現したバラード。小野塚晃(DIMENSION)のしとやかなピアノとオーケストラの優雅な調べが、涙の向こう側に希望を見い出そうとする主人公の気持ちを柔らかく包み込むかのよう。バラディアーとしても超一流であることは、稲葉の大きな魅力のひとつだ。

6. Stay Free
小野塚のオルガンをはじめ、初ソロ作『マグマ』(97年)にも通じるルーツ・ロック路線のバンド・サウンドがガツンと火を噴く。B’zやソロでの活動を通じて、より自由な表現を手にしてきた彼が、〈自由ってどんなものでしょう〉と問い掛けるリフレインが印象的だ。PVではバイクに跨って高速道路を疾走する稲葉の姿も。

7. Bicycle Girl
時折すれ違う〈自転車に乗った女の子〉のことを歌った、題材的にはロマンティックとも言えるナンバーだが、アレンジは極めてワイルド。乾いた響きのギター・カッティングとエキゾティックなソロ・フレーズ、蛇のように蠢くベースラインが、ラテン・ロックのようなノリを感じさせる。

8. 孤独のススメ
メディアや周囲の意見に飲み込まれることなく、自分自身の意志を持って行動することの大切さを高らかと歌い上げる、疾走感に溢れた一曲。“Bicycle Girl”と同様にラファエルとシェーンがパワフルな演奏で支えており、〈ウォーオーオー〉という雄々しいコーラスや行進の足音のようなSEも楽曲の熱を高めている。

9. 友よ
大切な友人への素直な気持ちが歌われたスロウ・ナンバー。絢爛豪華なオーケストラと、山木秀夫(ドラムス)や納浩一(ベース)ら敏腕ミュージシャンによるバンド・サウンドの豊かなハーモニーが、親密な空気を作り上げている。スライドなどを交えたカントリー・タッチの暖かなエレキ・ギターは、元バックチェリーで稲葉の2010年のツアーにも同行したヨギ・ロニッチによるもの。

10. photograph
思い出の象徴である〈写真〉をモチーフに、かつての思い人への忘れ難い気持ちを抱く女性を描いたホロ苦いバラード。抑制の効いた稲葉の歌声はもちろん、大賀、徳永、シェーンによるどこかセンティメンタルな演奏も、セピア色の物語を切なく演出する。

11. ルート53
稲葉の故郷に通る国道53号線をテーマに、彼の思い出も歌詞にしたためられたソロならではの楽曲。中期ビートルズのようなコーラス・ワークやストリングスを含む躍動感に満ちたアレンジ、本人のブルース・ハープなど、カラフルさはアルバム随一だ。

12. 念書
へヴィーなハード・ロックに乗せて〈後悔することなく自分の生き方を貫く〉という決意を歌った楽曲。終盤におけるロング・シャウトと暴れるハーモニカが壮絶だ。さまざまなタイプのナンバーがひしめくなか、本作中でもっともシリアスな歌詞と重厚なサウンドの楽曲にてアルバムを締め括るというのもおもしろい。