何気ない日常から溢れ出た言葉たちを、鳥のように自由に歌として紡いでいく――ナチュラルな姿勢でいま感じることを汲み上げた4年ぶりのソロ作!

稲葉浩志が『Hadou』(2010年)以来、約4年ぶりとなるソロ・アルバム『Singing Bird』をリリースした。フォーク・ロックのスタイルを採り入れた“ジミーの朝”、ブルース・ロック系の濃密なグルーヴが印象的な“oh my love”、豪快にドライヴしていくロックンロール・ナンバー“Cross Creek”など、稲葉のルーツでもある70〜80年代のロックからの影響を反映した本作。その中心は、彼自身が紡ぎ出した〈言葉〉にある。日常生活のなかで生まれる何気ない感情、社会に対する疑問や葛藤、そして、みずからの人生観、恋愛観の変化――つまりこのアルバムには、稲葉浩志という人間がありのままに刻み込まれているのだ。B’zのヴォーカリストとして日本を代表する存在でもある彼の、その生身の姿をしっかりと感じられる作品だと思う。

稲葉浩志 『Singing Bird』 Being(2014)

 

少しずつ自然な気持ちに

――4年ぶりのソロ作『Singing Bird』、稲葉さん自身の生々しい感情をダイレクトに感じられる作品だと思います。制作はどういうスタイルで進められたんですか?

「何気なく始めたんですよね、最初は。3〜4年くらい前から、メモというか、まずは言葉だけをバーッと書いて、それにメロディーをつけるという作業を日常的にやっていたんです。アルバムをリリースするということが決まってから、それを楽曲としてまとめた感じですね」

――どうして言葉を書くことから始めてみようと思ったんでしょうか?

「理由がわからないんですよね、自分でも。最初にそういうふうに始めて、ずっとそのやり方を続けたっていう。やりやすかったんじゃないかと思うんですけどね、それが。そのときに思いついたことを殴り書きのように書いていた言葉ばっかりだから、そういう意味ではリアルというか、出所がハッキリしてる感じもあるし」

――言葉にメロディーをつけていく作業はどうでした?

「同じ言葉であっても、人によってつけたいメロディーは変わってくるだろうし、そこには自分のクセというものが出てるとは思いますけどね。言葉を見ながら、ああでもない、こうでもないっていう感じで……まあ、非常にお遊戯的な作業ですよね。〈○○ちゃん、これを歌にしてみて〉っていうか(笑)、子供にでもできるような」

――(笑)その時点ではアレンジ、サウンドのことは考えてなかった?

「うん、何も考えてなかったですね。レコーディングに関しても、その時々で思いついたメンバーといっしょにいろんな場所でやってたんですよ。LAで録った曲もあれば、東京で録ったものもあるっていう感じで。だいぶ前に作った曲もあるから、〈そろそろ手放したい〉という感じもあったんだけど」

――自由度の高い作り方ですね、本当に。ソロに対する取り組み方、表現方法も当然、時期によって変化してると思うんですが。

「変わってるんじゃないですかね、それは。最初の頃はバンド(B’z)があるぶん、それとの違いというか、対比というものを強く出したいという気持ちが必要以上にあったかもしれないし。まあ、最初のソロから17年経ってますからね。ずっとやっていくなかで、少しずつ自然な気持ちになっていって、そのまま今日に至ってるという感じがしますけど」

――意識してB’zとの違いを出さなくてもいい、と。でも、あきらかに作風は違いますよね。

「そうですね。言葉として書いたものにメロディーをつけて、それに肉付けして曲を完成させるというやり方が、すごく自然だったんですよ。そういう意味では非常にナチュラルな作品になったと感じてますけどね、自分では」