COLUMN

ダンスフロアも愛したフランツ・フェルディナンドー〈ニュー・エレクトロ〉との蜜月から予想する、2018年のさらなる飛翔

フランツ・フェルディナンド『Always Ascending』リリース記念特集:第2回

Photo by Jason Evans

 

フランツ・フェルディナンドの5年ぶりとなる新作『Always Ascending』のリリースに合わせて、彼らの独自性を多角的に検証していく特集企画。2004~2005年頃に起きたポストパンク/ニューウェイヴ・リヴァイヴァルを再考した第1回に続き、今回はそれと同時代のムーヴメントであった〈ニュー・エレクトロ〉とバンドとの関係を振り返る。『Always Ascending』がフレンチ・ハウスの才人、フィリップ・ズダールによってプロデュースされたことをふまえると、彼らがダンスフロアからも愛されていたことを思い出すには、いまが絶好のタイミングだろう。なぜなら、2000年代半ばのフランツは、時代の空気感を的確に捉えたリミックスによってフロア・ヒットを飛ばしていたからだ。そんな当時のシーンでの彼らの受容のされ方を回顧しながら、エレクトロ・バブルが散って以降のフランツの挑戦もふまえ、最新作における再飛翔の予兆を捉えた。

第1回:フランツ・フェルディナンドを生んだポストパンク/ニューウェイヴ・リヴァイヴァルとは何だったのか? 短命に終わったムーヴメントを再検証

FRANZ FERDINAND Always Ascending Domino/Hostess(2018)

ダフト・パンク、ジャスティス、エロール・アルカン……
〈ニュー・エレクトロ〉を彩ったフランツ楽曲のリミックス

フランツ・フェルディナンドの新作『Always Ascending』がフィリップ・ズダールのプロデュースというのを聞いて、まず思い浮かんだのは同じくズダールが手掛けたフェニックスの2009年作『Wolfgang Amadeus Phoenix』だった。翌年のグラミー賞において〈ベスト・オルタナティヴ・アルバム〉に輝いた同作で、このフレンチ・バンドはインディー・シーンのヒーローから世界的なロックスターに。その成功を導いた要因として、バンドのダイナミックな演奏とエレクトロニック・ミュージック的な音作りを融合させたズダールのプロダクションは大きかった。フランツも進化を遂げているのかもしれない――そんな期待に胸を膨らませつつ本作のリード楽曲“Always Ascending”を聴いたとき、その予感は強まった。彼らはズダールの力添えのもと、〈踊らせるバンド〉としてみずからをアップデートしようとしているのだ、と。

フィリップ・ズダールがもともとダフト・パンクらと共に90年代のフレンチ・ハウスを牽引した2つのユニット――モーターベースとカシアスの片割れであったことを知っていれば、フランツ・フェルディナンドの初期からのファンは、彼との相性の良さを想像できるかもしれない。というのも、2004~2005年頃のフランツは、彼らの楽曲をよりダンサブルに仕立て上げたリミックスにおいても傑作が多く、特にいわゆる〈フレンチ・タッチ〉のトラックメイカーたちによるバンギンな再構築が、当時のフロアで熱狂的に支持されていたからだ。

そして、その双璧は、ダフト・パンクが手掛けた“Take Me Out”(2004年)とジャスティスによる“The Fallen”(2005年)。特に後者は〈Remixed By〉でなく〈Ruined By(台無しにした)〉というクレジットがされていたとおり、ヴォーカルをめちゃくちゃに切り刻みタフなブレイクビーツにちりばめた、ある意味では問題作。フレンチ・エレクトロ・デュオの名前をリスナーに知らしめたそのリミックスの登場は、エド・バンガーやキツネ、インスティチューブスら仏産レーベルが牽引したニュー・エレクトロの勃興とも重なった。“The Fallen(Ruined By Justice)”には、ギター・バンド・シーンとダンス・カルチャーが混ざり合い(ハイプな面も強かったものの)闇雲な熱気がユースに蔓延していた、あの時代のムードが深く刻印されている。

また、上記の2リミックスと並ぶフランツ産のフロア・ボムとして、名前をあげておきたいのが、ロンドンのDJ/プロデューサー、エロール・アルカンによる“Do You Want To”のリミックス(2005年)だ。クラブ・パーティー〈トラッシュ(Trash)〉で、エレクトロクラッシュを経てニュー・エレクトロへと向かっていたダンス・カルチャーとインディー・ロック・シーンとの交差点を作り上げていたエロールだが、この“Do You Want To(Erol Alkan's Glam Racket)”は彼のリミキサーとしての手腕がもっとも発揮されたものの一つと言えよう。

ヴォーカルを一切使用せずに原曲のギター・リフをひたすらに循環させ、暴力的なブースター・シンセで煽りまくるこのリミックスにもまた、当時のロンドン・シーンの興奮が凝縮されている。特集記事の第1回で名前が挙がったニューウェイヴ/ポストパンク・リヴァイバル勢もまた多くのリミックスを発表していたが、ここで紹介したフランツの数曲のように、時代の空気感がパッケージされながらも、現在もリスニングに耐えうるものはきわめて少ない(その大半は、いまとなっては忘れてしまいたい髪型のように赤面モノである)。

 

エレクトロ・バブルの終焉を経て、
ダンス・グルーヴを独自探究した『Tonight: Franz Ferdinand』へ

ジャスティス、デジタリズム、シミアン・モバイル・ディスコ――当時〈ニュー・エレクトロ御三家〉と呼ばれていた3組がいずれも初のフル・アルバムをリリースした2007年。ブームに一区切りが打たれるとともに、ニューウェイヴ再評価を受け継ぎつつ〈エレクトロの熱狂〉とは相関関係にあったニュー・レイヴもまた急速に沈静化していった。それから数年、ヴァンパイア・ウィークエンドやジーズ・ニュー・ピューリタンズら多文化的なサウンド志向を持ったバンドが、インディーの新たな〈顔〉となる。そんななか、もはや中堅バンドに差し掛かっていたフランツ・フェルディナンドがリリースしたのが、4年ぶりのサード・アルバム『Tonight: Franz Ferdinand』(2009年)であった。

バンドの代名詞でもあったソリッドで性急なギター・サウンドは抑え目に、彼らが同作で前景化させたのは、艶やかなミッドテンポのグルーヴ。それは、多くのアクトが潮目の変化とともに淘汰されていったNW/PPリヴァイヴァル勢の数少ないサヴァイバーとして、次の時代においても覇権にリーチし続けるための挑戦であった。実際に、同作は彼らの変化をいとわないクリエイティヴィティ―が隅々にまで行き渡った傑作になっている。つまり、ダンス・カルチャーとインディー・シーンとの距離が徐々に離れていったタイミングで、彼らはバンドとして〈ダンス・ミュージックの官能〉を探究したのだ。その飽くなき実験精神は『Tonight』のダブ・ミックス盤『Blood』としても結実している。

しかしながら、従来のサウンドを期待していたリスナーは『Tonight』を歓迎しなかった。ボルチモア・ブレイクスやフィジェット・ハウスを通過しながらEDMが萌芽しはじめていたダンス・シーンではもちろん、チルウェイヴやサイケの気怠いムードが蔓延し、シーンの中心地がUSに移行しつつあったインディー界隈においても、『Tonight』の居場所はなかったと言えよう。それは、リミックスにおいてもしかり。件のエロール・アルカンがビヨンド・ザ・ウィザード・スリーヴ名義でリエディットした“Ulysses”などは、バンドのやりたいことを的確に捉えていたと思うが、同作から時代を象徴するアンセムが誕生することはなかった。

以降、UKロックは〈不況〉と呼ばれて久しく、フランツがリリースした2作――4作目『Right Thoughts, Right Words, Right Action』(2013年)、スパークスとの『FFS』(2015年)もクォリティーは決して低くはなかったものの、何がしかの存在感を示せたとは言い難い。また、バンドがかねてから持っていたパフォーマティヴな魅力を拡張できた後者はともかく、オリジナル・アルバムとして4年ぶりのリリースであった前者が、ジョー・ゴダードやトッド・テリエらダンス・ミュージック界の俊才が参加しながらも、さほどフレッシュさを感じさせない作品になっていたことは惜しい。フランツ・フェルディナンドは、初期のヒット曲を期待される〈懐メロバンド〉になりつつあった。

『Right Thoughts, Right Words, Right Action』収録曲で、トッド・テリエがプロデュースを担った“Evil Eye”

 

新たな5人編成となり心機一転、
グルーヴィーかつモダンなサウンドに拡がる飛翔の予感

だが、5年という過去最長のブランクを経て作り上げられた新作『Always Ascending』には、完全に生まれ変わりを遂げたフランツ・フェルディナンドの姿を期待できそうだ。オリジナル・メンバーであったギタリストのニック・マッカーシーが脱退し、新たに元1900sのディーノ・バルドーと若きキーボーディスト、ジュリアン・コリーが加入したことで、顔ぶれも編成も変化したことが〈転生〉を後押しした面もあるだろう。

“Always Ascending”“Feel The Love Go””Lazy Boy”という現在公開中の3曲を聴くと、まずダンス・ミュージック的なマシーナリーなリズムと太めのシンセ・ベースが耳を引く。そして、ふくよかなグルーヴを下敷きに、キャッチーさは残しつつも色気を増したギター・サウンドが連なる、端正なプロダクションが印象的だ。新メンバーのジュリアンによるシンセサイザーも大活躍で、全編に醸されたスペーシーなムードは、楽曲をきわめてモダンなポップ・ミュージックへとビルドアップしている。こうしたプロダクション面での特徴は、上記に挙げたフェニックスの『Wolfgang Amadeus Phoenix』にも共通しており、今作におけるフィリップ・ズダールの貢献はやはり大きいのではないだろうか。

なお、先日の東京公演でのパフォーマンスでは、“Do You Want To”や“The Dark Of The Matinée”といった過去曲もテンポダウンしたアレンジで披露され、ファンク的なねっとりとしたグルーヴが心地良かった。そして、そうした彼らの最新モードに、『Tonight』から演奏された数曲が、見事にハマっていたことは言うまでもない。

ここまで、ダンス・ミュージック的な側面からフランツ・フェルディナンドのキャリアを考察してきたが、これら視点をふまえても、新作『Always Ascending』が起死回生の一作になっている可能性は高い。この復活は、バンドを新たなスターダムへと上昇させるのかもしれないが、欲を言えば、かつての彼らが渦中にいたような巨大なバズの一端になることも願う。

とはいえ、LCDサウンドシステムでさえも昨年の復活作『American Dream』の収録曲から公式リミックスを一つも出さなかったことに象徴されるように、いまやインディー・バンドがダンスフロアから必要とされる時代ではない。しかしながら、エロール・アルカンの〈Trash〉が終焉して10年強が経過し、ファット・ホワイト・ファミリーやシェイムら新鋭の登場で〈UKロック再生〉の気運も高まりつつある今日。そろそろインディー・ロックとダンス・ミュージックをめぐる新たなムーヴメントが起きてもいい頃だ。その主役がフランツである必要はまったくないのだが、彼らの軌跡を辿ることは、何がしかのギアが上がる可能性もあるだろう。

関連アーティスト