INTERVIEW

ここから新しい歴史を築こう―フランツ・フェルディナンド、充実の新作『Always Ascending』を語る

フランツ・フェルディナンド『Always Ascending』リリース記念特集:第3回

ここから新しい歴史を築こう―フランツ・フェルディナンド、充実の新作『Always Ascending』を語る

フランツ・フェルディナンドが5年ぶりにリリースする新作『Always Ascending』と連動したMikiki独自の特集企画。第1回はデビュー当時のポストパンク/ニューウェイヴ・リヴァイヴァル・シーンについて、第2回は優れたリミックスによってニュー・エレクトロ・ムーヴメントとの蜜月を過ごした時代についてのコラムだったが、第3回はファン待望の本人たちへのインタヴューだ。「過去は過去だよ」と力強く言い切ったフランツの現在に迫った。 *Mikiki編集部

第1回:フランツ・フェルディナンドを生んだポストパンク/ニューウェイヴ・リヴァイヴァルとは何だったのか? 短命に終わったムーヴメントを再検証
第2回:ダンスフロアも愛したフランツ・フェルディナンドー〈ニュー・エレクトロ〉との蜜月から予想する、2018年のさらなる飛翔

FRANZ FERDINAND Always Ascending Domino/Hostess(2018)

2002年にグラスゴーで結成されたフランツ・フェルディナンドが2000年代のUKロックを象徴する存在であるという意見に異論はないだろう。アレックス・カプラノス(ヴォーカル/ギター)、ボブ・ハーディー(ベース)、ニック・マッカーシー(ギター)、ポール・トムソン(ドラムス)の4人は、ダフト・パンクがリミックスしたことでも知られる“Take Me Out”といったキャッチーなヒット・ソングを量産しつつ、サード・アルバム『Tonight: Franz Ferdinand』ではダブのアプローチを取り入れるなど、変化することも忘れなかった。こうした商業性とクリエイティヴィティーの両立は、どこかデヴィッド・ボウイを連想させるものだった。

そんなフランツに関する最近のニュースで驚いたのは、2016年にオリジナル・メンバーのニック・マッカーシーが脱退したことだ。正直に告白すると、シャープなギター・サウンドでバンドの屋台骨を支えてきた功労者が抜けることで、息の合ったバンド・アンサンブルを失ってしまうのではないかという疑念が生じた。それは、2017年5月にジュリアン・コリー(キーボード)とディーノ・バルドー(ギター)を迎えて5人編成になったというニュースを聞いても、頭の片隅にこびりついていた。

しかし、筆者の杞憂は鮮やかに吹き飛ばされてしまった。5人編成としては初のアルバム『Always Ascending』を聴いたからだ。フィリップ・ズダールにプロデュースを託した本作は、フランツ史上もっともカラフルな作品であり、多くのアイデアが最高のポップネスに結実した充実作である。フレンチ・ハウスを想起させる“Feel The Love Go”では今まで以上にダンサブルなサウンドを鳴らす一方で、“Slow Don’t Kill Me Slow”はしっとりしたバラード・ナンバーに仕上がるなど、多彩な音楽性が際立っている。

そんな『Always Ascending』はフランツの新たな船出を告げる盛大な祝砲にふさわしい、ポジティヴなエネルギーで満ちている。それは、アレックスとジュリアンに話を訊いた今回のインタヴューからも伝わるだろう。


ここから新しい歴史を築いていくんだ!

――最新作『Always Ascending』は、さまざまな要素が溶け合ったカラフルな作品になっていて、素晴らしいアルバムだと思いました。こうした作品になったのはなぜでしょうか?

アレックス・カプラノス「僕らは今、とても充実しているし、何か新しいことをしたいとも思っていたんだ。前作『Right Thoughts, Right Words, Right Action』は活動開始から10年のタイミングで作ったもので、ひとつの締めくくり的な意味合いもあったから、今回は新たな方向性を示したかった。ここから新しい歴史を築いていくんだ!という意気込みがあったからね」

ジュリアン・コリー「それには僕が新メンバーとして入ったことも関係していると思う。アルバム制作を通して、互いにできることを知っていく過程は楽しかったし、それがそのままアルバムに反映されているのかな。みんなで演奏することの喜びが表れている」

『Always Ascending』収録曲“Always Ascending”
 

――ディーノは『Always Ascending』レコーディング後の加入でしたが、ジュリアンはレコーディングにも参加したんでしたよね。

アレックス「ジュリアンはこれまでの僕たちになかった新鮮な視点を与えてくれる。彼がミャオ・ミャオ(Miaoux Miaoux)名義で残した作品も、僕たちは好きだったんだ。だから、ミュージシャンとして優れているのも知っていた。それに人柄も良いしね」

――今作ではプロデューサーにフィリップ・ズダールを迎えているのも興味深いです。

ジュリアン「フィリップは、今回プロデュースを任せたい人のリストで上位にいた。彼がミックスで参加したビースティー・ボーイズの『Hot Sauce Committee Part Two』や、プロデュースを手掛けたフェニックスの作品群は僕たちも好きだからね。フレッシュかつ鮮やかで、躍動感がある素晴らしいサウンドを作れるというのも任せた理由のひとつなんだ」

アレックス「フィリップはエレクトロニック・ミュージックをやってきた人で、DJでもあるから、ダンスフロアを熟知している。僕たちとしては踊れるサウンドを作りたかったし、そのためにもフィリップはうってつけの人物だと思った。ロックンロールの生々しいサウンドにも理解があるしね」

――フィリップと組んだ影響がもっとも出ているのは、9曲目の“Feel The Love Go”だと感じました。彼がメンバーであるカシアスや、初期のダフト・パンクに通じるフレンチ・ハウスの要素があるからです。

アレックス「確かに“Feel The Love Go”は、フレンチ・ハウスの要素を取れ入れた曲になっている。でも、それを打ち込みではなく生演奏でやっているのは大きな違いだ。今回のアルバムはエレクトロニックな側面が強いけれど、それをグループとして生演奏でやるということを追求しているんだ」

『Always Ascending』収録曲“Feel The Love Go”
 

 

古い楽器で新しいことをやるからこそ面白い

――シンセサイザーが前面に出ているのも『Always Ascending』の特徴ですよね。

ジュリアン「バンド・メンバー全員がシンセ・サウンドが好きなのもあるけど、今回は音楽性の幅広さを出すためにシンセを多用した。シンセは低域から高域まで自在に操れるし、ギターでは出せない音がいっぱいある。だから、新たな方向性を示すためにも格好の材料だった」

アレックス「このあいだ、NYでモーリス・ラヴェルの曲を演奏するクラシックのコンサートを観たんだけど、トロンボーンなどの低い音からピッコロといった高い音まで、音のレンジがものすごく広かった。ロックは基本的に弦楽器が多いから音の幅が狭まってしまうけど、シンセを使うことでそれを解消できるんだ」

――シンセが多用されているなかでも、4曲目の“Finally”は生々しい音が多いと思いました。オルガンっぽい音とサイケなフィーリングの掛け合わせが、どこかドアーズを彷彿させます。

ジュリアン「実を言うと、“Finally”をレコーディングしているときは、ヒップホップをよく聴いていた。なかでもトラップのプロダクションは、ループを活用した凝ったビートだけれど、音数は少ないから面白かったんだ」

アレックス「オルガンっぽい音はフィリコーダという楽器で音を鳴らしているんだ。だから、ドアーズのサウンドを連想するのはわかるけど、曲自体は全然違うものだと思う」

※Philicorda。60~70年代にフィリップスが製造していた電子オルガン。60年代のガレージ・バンドで、クラウトロックの先駆けとしても知られるモンクスらが愛用していた
 

ジュリアン「フィリコーダは、弾いていると振動が全身に伝わってくる面白い楽器だった」

アレックス「僕が思うに、その楽器が作られた時代の音をそのままやる必要はない。たとえばフィリコーダが60年代に作られた楽器だからといって、必ずしも60年代の音を鳴らす必然性はないんだ。昔の楽器で新しいことをやるからこそ、面白いんだよ。そこで想像力を働かせることが大事だと思っている。ひとつのやり方に囚われる必要はないんだ」

――ヒップホップの影響は他の曲にも表れていますか?

アレックス「“Huck And Jim”だ。この曲のドラム、特にハイハットにはトラップの要素が表われている。ドラムマシーンじゃなくてポールが実際に叩いているんだけど、これもさっき言ったやり方に囚われない例のひとつだね。“Huck And Jim”のブリッジは、白人たちがウータン・クランやN.W.A.みたいなことを一生懸命やっている感じになった(笑)。僕のはラップじゃなくて、リズミカルに話をしているだけなんだけどね」

――『Always Ascending』は反復のリズムが多いですよね。クラウトロックを想起させるし、面白いと感じたんですが……。

アレックス「(突如身を乗り出し)クラウトロックじゃないな。君の意見は尊重するけど、ここは反論させてもらう。ノイ!やカンといったバンドはもちろん好きだよ。ここ8年くらい欧米のバンドがクラウトロックみたいなサウンドをやろうとしているけど、僕からすると全然できていないんだ。反復のビートを取り入れたらクラウトロックかといったら、そうじゃないだろ? ヤキ・リーベツァイトはジャズがバックボーンにあって、彼の演奏はただ反復しているだけかと思いきや、実は複雑なドラミングだったりする」

――なるほど。本作では曲名も興味深いものが多いと思います。例えば、6曲目の“Lois Lane”は「スーパーマン」の登場人物で、スーパーマンの恋人ですよね。

アレックス「ロイス・レーンはスーパーマンよりもカッコいい存在だ。スーパーマンは目から光線を出したり、車を持ち上げるけど、ロイスと比べたらたいしたことないよ。ただ、“Lois Lane”は彼女の歌ではなく、ロイスに憧れる女性の歌。前向きな彼女はジャーナリストで、ジャーナリズムが世界を変えられると信じている」

――そうした曲を作ったのは、2016年に“Demagogue”を発表したことも影響しているのでしょうか? “Demagogue”はデス・キャブ・フォー・キューティーなども参加した反トランプ・キャンペーンのプレイリスト〈30 Days, 30 Songs〉に提供されたものですよね。

アレックス「“Demagogue”は、ジュリアンが加入してから書いた曲のうちの1曲だ。あの時に出さなければいけないと感じたから、真っ先に発表した。トランプがいかに人類にとって危険な存在で、脅威的かを感じずにはいられなかったから提供したんだ」

――そういった活動をすることで、フランツ・フェルディナンドが政治的なバンドとして見られることに恐れはないですか?

アレックス「僕たちの全ての曲が政治的なメッセージを持っているわけじゃない。ただ、ひとりの人間として、音楽を通して自分の政治的スタンスを表現する自由はあると思っているよ」

プレイリスト企画〈30 Days 30 Songs〉にフランツ・フェルディナンドが提供した2016年の楽曲“Demagogue”
 

 

過去に誰かがやったことを繰り返してもしょうがない

――なるほど。『Always Ascending』を聴いて感じたのは、2000年代の音楽を振りかえる潮流とは距離を置きたいのかな?ということでした。例えば、2000年代のNYロック・シーンを振りかえったリジー・グッドマンの著書「Meet Me In The Bathroom」が話題になり、イギリスでもブリアル『Untrue』を再検証する流れがあるなど、2000年代のサウンドが注目されているように思います。このあたりの動きは意識しましたか?

アレックス「過去は過去だよ」

ジュリアン「僕たちとしては、今回のアルバムで未来的なサウンドを追求したかったし、アーティストとして意味のあるグループでいるためにも前進していかなきゃいけない。どの時代も再評価される機会が必ずあるし、それ自体は良いことだと思うけどね」

アレックス「僕たちが2000年代の流れを形作った存在のひとつであると見られるのも、嬉しいことではある。でも、過去にすがるつもりはないし、常に前を向いていたいんだ」

『Always Ascending』収録曲“Lazy Boy”
 

――ここまでの話を聞いていると、バンド・メンバーで集まって演奏することに強いこだわりがあるように思います。例えば、アメリカでは昨年、R&Bとヒップホップがロックの売り上げを初めて上回るなど、ロック・バンドの元気がない印象ですが、そういう現状はどう見ていますか?

アレックス「実を言うと、自分たちを〈バンド〉だと強く意識したことはない。僕にとって〈バンド〉は、プログレッシヴ・ロックあたりの古臭いイメージを思い浮かべてしまうものなんだ。だから、フランツ・フェルディナンドはミュージシャンが集まった〈グループ〉というイメージだね。その言い方のほうがしっくりくる。元気がない云々に関しては、僕には関係ない話だ」

ジュリアン「今はこういう状況だからこうしよう!というのは間違っているよ。一番大事なのは、自分が何をやりたいかだからね」

アレックス「例えば、今はすっかり死んでしまったけど、EDMが爆発的な人気を誇った時があったよね。EDMが流行ってるし、その流れに乗ってEDMみたいな音を作らないと!って思っても、アルバムを作るには2年くらいかかるから、発表した頃には盛り上がりが冷めている。だからこそ、流行に振りまわされることなく、オリジナリティー溢れる作品を作らなきゃいけない。その一方で、過去に誰かがやったことを繰り返してもしょうがないよね。

ロック・バンドを観ていて残念だなと思うことがあるのは、〈ロック・バンドはこうあるべき〉という伝統に固執しすぎていること。〈ジャムがやっていたから〉とか〈フーもそうしてたから〉とかね。多くのバンドが過去の偉大な音楽を崇拝しすぎるあまり、呪縛から逃れられないでいる。そういうのを見ると〈新しいものを見つけなよ〉という気持ちになってしまうし、イライラするんだ。

あと、もうひとつ大事なのは、〈これはやりたくない〉というものを明確にすること。今回のアルバムを作る際もそういう話はしたし、そのうえで過剰にプロデュースされた無機質なものは作らないと決めた。僕らも過去にはそうした方向に行ったこともあるかもしれないけど、今回は違うことをやりたかったんだ」

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