80年代末、ブリープ・ハウス~アシッド・ハウスの潮流のなかで活動を開始。自身のルーツであるソウルやレゲエ/ダブの色合いも濃い楽曲作りをマイペースに続け、名門レーベルであるワープのなかでも最古参のアーティストとして存在感を放つナイトメアズ・オン・ワックス(以下、NOW)ことジョージ・エヴェリン。彼の5年ぶりとなるニュー・アルバム『Shape The Future』は、現行ソウル~R&Bに接近した意欲作となった。
常に同時代のエッセンスを採り入れ、進化を続けるNOW。その最新型を提示したこのアルバムの魅力について、近年は「Jazz The New Chapter 4」への寄稿などライターとしても活動しているTAMTAMのドラマー、高橋アフィに分析してもらうことに。TAMTAMもまた、ダブ/レゲエを出発点としながら、近年は現行R&Bやジャズのニュアンスも取り込んだボーダレスな世界観を獲得。NOWとTAMTAMのめざすものの共有点を確認させられる、大変興味深いインタヴューとなった。
NIGHTMARES ON WAX 『Shape The Future』 Warp/BEAT(2018)
踊りながらやチルしながら聴くとピッタリな時間感覚
――そもそもナイトメアズ・オン・ワックスに対してはどんな印象を持ってますか?
「レゲエ/ダブ色が強かったTAMTAMの初期、現行のレゲエ/ダブ・アルバムをひたすら集めていた時期があって。そのころ、NOWの5枚目(2006年の『In A Space Outta Sound』)を知ったんですよ。あのアルバムはバンド・サウンドと打ち込みのニュアンスがうまく混ざっていて、音作りもスモーキーだけどハイファイ。生演奏的な抜け感もあって、こんなことをバンドでもやれるんだ!と思ってクレジットを見たらぜんぜんバンドじゃなかったりして(笑)。現代としてレゲエ/ダブを変化させた感じが好きで聴いてました」
――〈スモーキーだけどハイファイ〉という音の質感は初期のTAMTAMがめざしていたものでもあった?
「そうですね。あと、『In A Space Outta Sound』は低音がすごく綺麗に鳴ってて、昔のレゲエ/ダブをめざそうにも機材的に限界があったので、あのアルバムは〈こういう音ができたらいいよね〉と個人的によく参考にしてましたね」
――他のアルバムはどうですか?
「いろいろ聴き返してみたら、ファースト(91年の『A Word Of Science: The First And Final Chapter』)が格好良かったです。トラックとラップの感じは去年出たヴィンス(・ステイプルズ)の『Big Fish Theory』だとか、カニエ(・ウェスト)の『Yeezus』(2013年)流れのノリを感じたんですよ。インダストリアルで少しソウルの入ったトラックにラップが乗るという。去年新譜として出ててもおかしくないアルバムだと思ったんです。
今回の新作でいえば、サンプリングのザラッとした質感が残っている2曲目(“Tell My Vision”)あたりにはファーストに通じるものを感じましたね」
――では、早速その新作『Shape The Future』に移りましょうか。アルバムを聴いてみて、まずどう思いました?
「NOWって基本的にサンプリングのざらつきというか、ローファイなところもあるアーティストだと思ってたんですけど、今回はハイファイな曲がほとんどで、歌モノも増えましたよね。そこにまずビックリしました。
あと、最初は安いイヤフォンで聴いたんですけど、ウチのスピーカーでキチンと聴いてみたら、音がものすごく立体的で。すごく作り込んだアルバムだと思いましたね。
それと、DJの時間感覚が染み付いてる感じがしました。ポップスとして聴くともう少し短くまとめたほうがいいかもと思う瞬間もあるんですけど、踊りながらやチルしながら聴くとピッタリな時間感覚というか」
――テンポそのものはゆったりしてるけど、ダンス・ミュージックとしての強度はすごくあるアルバムですよね。2016年に出たEP『Ground Floor』がハウス回帰的な作品だったので、今回その延長上の内容になるんじゃないかと思ってたんですよ。でも、それだけじゃない幅の広さが今回のアルバムにはある。
「アンダーグラウンドなダンス・ミュージック感もありますけど、やっぱり太陽の下で踊りながら聴くようなニュアンスも同時に入ってますよね。バレアリック感というか。そこで歌やチルで終わらないダンス・ミュージックらしさが保たれているように思います」