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一柳慧×蓮沼執太 2018年1月13日、草月ホールでの対話―《IBM》誕生の背景、いま蓮沼フィルが目指すこと

Photo:Takehiro Goto

2018年1月13日、草月ホールでの対話――《IBM》誕生の背景、いま蓮沼フィルが目指すこと

 去る1月13日、蓮沼執太フィルの公演〈東京ジャクスタ Juxtaposition with Tokyo〉で、一柳慧の《IBM》が演奏された。公演そのものに先だって、蓮沼執太は一柳慧をステージに招き、作品が生まれ、演奏された背景について対話した。以下にこの対話、特に後半部を要約してみたい。

 一柳慧は、まずタイトル、50年代にコンピュータといえばIBMが代名詞であったこと、電気・電子的な音楽がだんだんとでてきたことを語る。作品《IBM》は、59年、ニューヨーク、数人で手探りのように演奏され、正式な意味での初演は61年11月、この日、蓮沼フィルのコンサート会場でもあった草月会館だったことも。

 蓮沼執太は問う。《IBM》が何故グラフィックスコアで作曲されたのか。一柳慧は、西洋の五線譜とグラフィックスコアの成り立ちを、簡略に述べる。その背景には、鈴木大拙がコロンビア大学でおこなった禅の講義があり、ジョン・ケージが大きく影響を受け、180度その音楽が転換したことも指摘しながら。

 では、《IBM》初演は、どういう人たちに集まってもらったのか? と蓮沼執太。

一柳  「《IBM》のパフォーマンスをやってくれたのは、演奏家というより、作り手にちかい人たちです。当時の私と同世代くらいの、30歳前後くらいの人でしょうか。高橋悠治、武満徹、黛敏郎、それから小杉武久とか、塩見允枝子とか、〈グループ音楽〉の人達ですね」

 さてここから当日のコンサートそのものへとむかう。蓮沼執太は語る――〈東京ジャクスタ〉とは、〈juxtapose/juxtaposition〉、〈並列に捉える〉の意。何を並列に捉えるかといえば、東京、例えば今の東京と《IBM》が初演された61年の東京。その時代、時間を並列的に捉える、というコンセプトだ。50年以上違えば、人間の雰囲気や街の雰囲気、全部違う。それらをもう一度並行的に捉え何か見出そうという実践なのだ。さらに今回は《IBM》と、蓮沼フィルの演目も同時に。《IBM》をやりながら蓮沼フィルもやる。

 以下、対話的に構成してみよう。

蓮沼 《IBM》は、いわゆるパフォーマティヴな作品でもあると思うんです。我々がフィルの演奏をしつつ、もしかしたらその演奏をしていないメンバーは《IBM》を演奏するわけです。例えば曲と曲の間も、メンバーは《IBM》を演奏、パフォーマンスをしているという風に、です。

一柳 そういうものを僕らは同時演奏って言っています。異なった分野の人が集まってやる催しは〈総合芸術〉って呼ばれますよね。でもその〈総合芸術〉もだんだん飽和状態になって、パターンも決まってきた。新しいものをやっていこうとする者として、私が抱いている不満はこんなところにあります。総合芸術は全体で〈100〉を作るという感じなんだ、と。例えば映画が総合芸術だとして、一番最初に大事なのは脚本であり、監督である。監督の演出であり、それから俳優、そこから俳優を写すカメラ、照明、と。

蓮沼 音楽であったり、と。

一柳 音楽が一番最後にくるんです。どこまでもそう。演劇もそうですが、決定的に音楽が気をつけなくちゃいけない。台詞を消せない。台詞の上に音楽がかぶったら、台詞が聴こえなくなり、筋がわかんなくなる。音楽は後ろへ引かなくちゃいけない。全体を100だとするなら、音楽が扱っている部分はせいぜい20%ぐらいになる。あと、美術もあれば、演出もあるとか、他のいろいろ他の要素が、やはり何十%かずつあって、全体で100で、うまく調和するというのがこれまでの総合芸術なんです。でもそれはこの現代社会、時代にはもうそぐわない、合わない。だからね、逆に一つずつが100%。さっきの同時演奏じゃないけども、同時にぶつかり合っても構わないから。一つずつ音楽も100、美術も100。照明も100。

蓮沼 全部100。

一柳 全部100がぶつかると、5つ要素があれば500%くらいになる。

蓮沼 そこは足すんですね(笑)。100、100、100……

一柳 新しいことやっていこうとしたら、そのぐらいの踏み込みがないと、新しくなれないんです。

蓮沼 我々も500%になれればいいんですけれども……

 当日の演奏、500%になりえていただろうか。そのうち、二人に、個々に、訊ねてみることにしょう。

 


一柳慧(Toshi Ichiyanagi)
33年2月4日、神戸生まれの作曲家、ピアニスト。54~57年、ジュリアード音楽院で学ぶ。ジョン・ケージらと、前衛的な音楽活動を展開し、61年に帰国。自作及び日欧米の新しい音楽を紹介し、さまざまな分野に強い刺激を与えた。2018年度のジョン・ケージ賞(John Cage Award)を受賞することが決定した。

 


蓮沼執太(Shuta Hasunuma)
83年9月11日生まれ、東京都出身の音楽家/作曲家。ソロ名義での作品集『windandwindows』を今春発売予定。2月23日からニューヨーク・ブルックリンにあるPioneer Worksにて個展『Compositions』、4月6日から資生堂ギャラリーにて個展を開催予定。今夏には26人編成による〈蓮沼執太フルフィル〉の公演を控えている。

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