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ドリーム・ポップはいま―男女デュオ・ジオウルフを導線に、MGMTやUSガールズら傑作が続くシーンの動向を読み解く

ドリーム・ポップはいま―男女デュオ・ジオウルフを導線に、MGMTやUSガールズら傑作が続くシーンの動向を読み解く

オーストラリア出身で、スウェーデン、ドイツ、オーストラリアなど欧州各国を渡り歩いてきたスター・ケンドリックとロンドンを拠点に活動するトマ・バンジャミンが結成した男女デュオ、ジオウルフ。彼らがファースト・アルバム『Great Big Blue』を完成させた。活動拠点の違う2人ならではの化学反応が起きたという同作では、スターによるシャロン・ヴァン・エッテンやエンジェル・オルセンを彷彿とさせるアンニュイでメランコリックな楽曲に、トマが煌びやかでエレクトロニックなセンスを調合。安らかなムードが漂いつつも、軽やかにスキップしながら外へと出かけたくなるようなビート感も堪えたポップソングを奏でている。昨年にシガレッツ・アフター・セックスが登場して以降、MGMTがポップ回帰した充実の新作を届け、さらにビーチ・ハウスもリリースを控えているなど、今度ますますインディー界隈のモードとして存在感を高めていきそうなドリーム・ポップ。音楽ライターの渡辺裕也が、そうしたシーンの動向を紐解きつつ、ジオウルフの魅力に迫った。 *Mikiki編集部

GEOWULF Great Big Blue 37 Adventures/HOSTESS(2018)

 

いまから遡ること10年。つまり2008年頃といえば、北米インディーから多種多様なサイケデリック・ポップが次々と生まれていた時期だ。代表的なものをいくつか挙げてみると、当時はニューゲイザーとも形容されたディアハンターの出世作『Microcastle』(2008年)。ネオ・ヒッピー的な佇まいとカラフルなサウンドで瞬く間にブレイクしたMGMTのデビュー作『Oracular Spectacular』(2007年)。そして00年代以降のドリーム・ポップを代表するボルチモアのデュオ、ビーチ・ハウスの2作目『Devotion』(2008年)。いま思えば、これらの台頭はその後の北米インディー隆盛とチルウェイヴのブームを予見させるものでもあった。

そして2018年。MGMTは久々にキャッチーな作風のアルバム『Little Dark Age』を発表し、方やビーチ・ハウスはリード・シングル“Lemon Glow”“Dive”のヘヴィーな音作りが来たるべき新作『7』のドラスティックな変貌を予感させるなか、ついに時代は一巡りしたのか、ここにきてフレッシュな新世代が世界各地から次々と現れてきた。オーストラリア出身のスター・ケンドリック(ヴォーカル)と、ロンドンを拠点とするトマ・バンジャミン(ギター/ヴォーカル)による男女デュオ=ジオウルフは、間違いなくその系譜につらなる新鋭だ。

リード・シングル“Saltwater”が間もなくSpotifyで1000万回再生に到達するというジオウルフだが、実際に彼らのデビュー作『Great Big Blue』をひとたび聴いてもらえれば、この2人がシューゲイザー/ドリーム・ポップの影響下にあることはすぐさま伝わるだろう。たとえば冒頭の“Sunday”におけるディレイとエコーをたっぷりと含んだギター・サウンドは、上述したディアハンターの“Helicopter”あたりを彷彿させるドラッギーな甘美さを携えているし、アルバムのそこかしこで鳴っているリヴァーブのかかったアコースティック・ギターの音色は、それこそ本人たちも影響を公言しているネオ・サイケデリア/ドリーム・ポップのデュオ、マジー・スターを思わせる。

★コクトー・ツインズ、マジー・スター、ビーチ・ハウス、そしてシガレッツ・アフター・セックス―退廃的な夢へ誘うサウンドの系譜

彼らと同時代性を感じるのが、こちらもつい最近リリースされたUSガールズの素晴らしい新作『In A Poem Unlimited』。双方とも深いエコーとフィードバック・ノイズを巧みに使いながらも、ソングライティングにボサノヴァなどを取り入れているところが共通しており、その優雅でラウンジーな雰囲気からはインディー・ポップの〈今〉が伝わってくるだろう。

また、ジオウルフの2人は昨年にファースト・アルバム『Cigarettes After Sex』を発表したシガレッツ・アフター・セックスへのシンパシーも表明しているようだが、幽玄なサウンドもさることながら、その物憂げなリリックと歌唱にはたしかに共通するものが見いだせる。また、ジオウルフの『Great Big Blue』に収録されたトロピカルなアレンジの“Get You”には、どこか日本のミツメに通じるとぼけたポップ・センスも感じ取れたし、カナダの男女3人組=メン・アイ・トラストのクールなシンセ・ファンクも、ここで並べておきたいところだ。

コクトー・ツインズ再評価の機運も高まっているようにも感じられる近年のインディー・ミュージック。00年代の活況を支えたアーティストの新作が相次ぎ、どうやらグライムスやスカイ・フェレイラあたりも動き出しそうなところを見ると、2018年の後半はエレクトロなフィメール・ポップがまたおもしろくなりそうだ。となれば、まずはジオウルフのデビュー作『Great Big Blue』に注目しない手はないだろう。

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