COLUMN

NulbarichやSuchmosファンもド真ん中! UK大型新人トム・ミッシュの音楽を高橋芳朗が徹底解説

Photo by Charlie Cummings

 

SuchmosやNulbarichのファンにも強くアピールしえるポテンシャル

〈活況を呈するサウス・ロンドン・シーン期待の大型シンガー・ソングライター〉〈ジェイムス・ブレイク、ジェイミーXXに続く22歳の逸材〉――トム・ミッシュの満を持しての本格デビューに沸き立つ、祝砲のような惹句の数々。ギタリスト/ビートメイカーとしても非凡な才能を持つ彼の初のフル・アルバム『Geography』は、そんな前のめりな興奮に余裕で応える下馬評通りの素晴らしい内容だ。

TOM MISCH Geography Beyond The Groove(2018)

その一方、『Geography』は一連のキャッチフレーズを軽々と飛び越えて思いもよらぬところにまでリーチしそうなポピュラリティーも持ち合わせている。先行シングルのファンキーなディスコ・チューン“South Of The River”にも示唆されていたが、このアルバムはジャミロクワイやメイヤー・ホーソーン、さらにはSuchmosやNulbarichあたりのファンにも強くアピールしえるポテンシャルを秘めている。

 

影響を受けたのはJ・ディラとジョン・メイヤー

こうしたアーティストを引き合いに出してトムを論じることについては、戸惑いを覚える向きもいるかもしれない。というのも、9歳でギターを弾きはじめた彼が自身の音楽的転機に挙げているのは、15歳のときに姉のボーイフレンドから教えてもらったJ・ディラとの出会い。出世作となった2015年のミックステープ『Beat Tape 2』をはじめとする過去の作品では、その影響が強烈に打ち出されているからだ。

『Beat Tape 2』収録曲“The Journey”
 

「もともとソウルフルでジャジーなコード展開が好きだったんだけど、J・ディラの音楽を聴いたときにそれを強く感じたんだ。あとは、J・ディラを通じて知ったロバート・グラスパーも大好き。彼が弾くコードもいいね。ヒップホップとミックスした新しいジャズを演奏しているところがおもしろいと思う。それからロイ・ハーグローヴも最高。サウンド・プロダクションやコードに関しては、ネオソウルからの影響が大きいんだ。まさにJ・ディラはその一部だったわけだけどね」

ビートメイキングにおいてはブラック・ミュージックからの影響を公言している一方で、ギタリスト/ソングライターとしてはジョン・メイヤーに強くインスパイアされていることを認めている。確かに、トムが織り成す甘さのなかにもブルージーなニュアンスを残すメロディーは、ジョンのそれと通底するところがあるが、これらの要素を見事に共存させた微妙なバランス感覚こそが、彼の音楽の独自性につながっているのだろう。

「僕はジョン・メイヤーの大ファンなんだ。彼の音楽が好きで一時期はブルースにハマっていたこともあったし、ジョンのように演奏したくて彼のビデオを見ながらギターの練習に励んでいたこともあったね」

 

スタイリッシュなソウル・フィーリングをポップに昇華

そんなトムのインプットが、アルバムの中核を担うディスコ・サウンドを通して全面開花したのが今回の『Geography』というわけだ。先述したサウス・ロンドン賛歌“South Of The River”以下、ゴールドリンクのラップをフィーチャーした軽妙なシティ・ソウル“Lost In Paris”、シック/ナイル・ロジャースのネオ・ソウル解釈とでもいうべき“Disco Yes”ケイトラナダ作品にも通じるハウス・フィールあふれるスムーズ・ダンサー“Cos I Love You”、ロニー・ジョーダンを彷彿とさせるジャジーなインストゥルメンタル・ディスコ“Tick Tock”“We've Come So Far”。トレードマークのクルーナー・ヴォイスに象徴される持ち前のスタイリッシュなソウル・フィーリングをぐっとポップにまとめあげることにより、ここでトムは従来とは違ったまったく新しい魅力を打ち出すことに成功している。

「J・ディラみたいな90年代のヒップホップのビートを取り入れていたこともあったけど、最近はもうそういった音楽は作っていない。いまはそれを通過して、ディスコやハウスに挑戦したい時期なんだ。これまで誰も作ってこなかった音楽を生み出すのは、とても重要なことだと思う。自分のサウンドとはどんなものなのか、その答えを追及しているところだよ。僕はライヴのときにはオーディエンスに踊ってほしいと思ってるから、もっと曲にエネルギーを持ち込みたい。クラブにいるときって低音を身体全体で感じるだろ? 僕の曲からああいう感覚を味わってほしいんだ」

この新しい方向性に応じて、以前からのネオ・ソウル路線の楽曲もさらに洗練味を増してきた印象を受ける。特に本人言うところの「ゆったりした90年代のブーンバップっぽいヒップホップ」に対する愛着をにじませた2曲――盟友ロイル・カーナーが客演したクルセイダーズ“My Lady”使いの“Water Baby”とデ・ラ・ソウルをゲストに起用したグルーヴィーなボッサ・ソウルの“It Runs Through Me”は、現在に至るトムの活動の集大成といっていいだろう。

「フライング・ロータスのラジオを聴いていたらクルセイダーズの“My Lady”をサンプリングしたヒップホップが流れてきて(筆者注:フランスのヒップホップ・グループ、シュープレムNTMの95年の楽曲“La fievre”と思われる)、そのビートにインスピレーションを受けて作りはじめた曲が“Water Baby”なんだ。サンプルと生楽器を使って作っていったから、バランスをとるのがすごく難しかった。アルバム中でいちばんチャレンジングな曲になったね。“It Runs Through Me”は、自分と音楽とのつながりが表現されたトラックだと思っている。音楽は常に自分と共にそこにいた存在で、ある意味僕にとってのスーパーパワーなんだ。それがこの曲のコンセプトだよ」

 

〈サマソニ〉出演時の状況がどうなっているかは計り知れない

そのほか、1分半にも満たない小品ではあるが、ジョージ・ベンソン流儀のギター・プレイを駆使したスティーヴィー・ワンダー“Isn't She Lovely”のインスト・カヴァーの存在もアーバン・コンテンポラリー方向に大きく振れたトムの新展開に絶妙な彩りを添えている。これまでにはないアングルからのカヴァー選曲について、トムからは「単に僕がスティーヴィー・ワンダーの大ファンだからという、ただそれだけ(笑)」とあっさりした答えが返ってきたが、今後『Geography』がどのように受容されていくかはある意味この選曲スタンスに示されているような気もしている。

今年の8月には〈SUMMER SONIC 2018〉での初来日が決定しているトム。これは別に大げさな話でもなんでもなく、夏を迎えたころには彼を取り巻く状況が、現在からは考えられないようなものになっているかもしれない。『Geography』が内包する訴求力をもってすれば、その可能性は十分にある。

 


Live Information
〈SUMMER SONIC 2018〉
2018年8月18日(土)、2018年8月19日(日)
TOKYO: ZOZO MARINE STADIUM & MAKUHARI MESSE
OSAKA: MAISHIMA SONIC PARK
トム・ミッシュは、8月18日の大阪会場〈SONIC STAGE〉、8月19日の東京会場〈BEACH STAGE〉に出演
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