エクスペリメンタルな側面とダンス・ミュージックとしての側面を強化させながら、それをわかりやすく提示する──心地良く波打つポリリズムに抗う術はあるのか?

子どものような探究心で

 新世代ジャズとヒップホップ、そのルーツである90年代のネオ・ソウルから受けたインスピレーションを希釈せず、濃密なまま日本語ポップスとして成立させたことで2015年を代表する作品となった、ceroの『Obscure Ride』。翌年のシングル“街の報せ”でその肥沃な音楽の土壌開拓に一区切りを付けた彼らは、大地を潤す大河を辿ってふたたび旅へ。〈連なる生、散らばる魂〉を意味する、3年ぶり4枚目のアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』は、生命やリズムの多様性と、そのハーモニーの生み出すエネルギーが躍動するceroの新境地を映し出している。

 「『Obscure Ride』以前は自分たちの周りのインディー・ポップ界隈にもまだ牧歌的なムードが漂っていたから、それを超えていくために背伸びをして、そうじゃない質感の作品を提示しようと幾多の試行錯誤があって。そうやって生まれた作品だったから受け入れられるのには時間がかかるかなと思っていたんですけど、リリース直後から急に周りの状況も変化して、すんなり受け入れられたので、その流れには驚きましたね。ただ、そうやってたまたま時代のチューニングが合ってしまったことで、個人的に得意ではないけど、ある種のスター的な役割というか、日本の音楽のある部分を牽引していく気概を持たないとバンドとしてやっていけないのかなって、自分のことを見失いかけていた時期もありました。でも、スターとしてのセンスと才能、気概を持った若いバンドがどんどん出てきたことで、自分は間違った土俵で戦おうとしてたことに気付かされたし、そこで改めて、以前のように子どものような探究心を持って音楽に向かえばいいんだなと思ったんですよね」(髙城晶平、ヴォーカル/ギター/フルート)。

cero 『POLY LIFE MULTI SOUL』 KAKUBARHYTHM(2018)

 そして、2016年末のツアーから、厚海義朗、光永渉から成るお馴染みのリズム隊に、新たにキーボード/コーラスの小田朋美、パーカッション/コーラスの角銅真実、トランペット/コーラスの古川麦を加えた8人体制へと発展。この変化がアルバムの制作を大きく前進させていくことになった。

 「メンバーそれぞれの担う役割が飽和していたので、当初は8人のパートを分業化することでよりスムースに余裕を持って音楽を楽しみたいという意図がありました。ただ、すでにデモが出来ていた“魚の骨 鳥の羽根”をツアーでやってみて、ceroの3人とバック・バンドという関係性ではなく、独立したミュージシャンが繋がった横の関係性を提示するのがおもしろくなっていったんです」(荒内佑、キーボード/サンプラー)。

 3拍子と4拍子のリズムが同時に刻まれる“魚の骨 鳥の羽根”は、同時に鳴らす異なるリズムの重層性、つまりポリリズムのポップ・ミュージック化を図った本作において、最大のテーマを象徴する一曲だ。

「『Obscure Ride』に入っていたアフロビートの“Elephant Ghost”の続編にあたる“魚の骨 鳥の羽根”のデモは、クロスリズムの楽曲構造が剥き出しの状態だったんですけど、その後、剥き出しの構造をオブラートに包んで、わかりやすく踊れる曲に落とし込むべく、みんなでアレンジしていきました。ただ、今回は海外のブラック・ミュージックを輸入して、そこに日本語を乗せた文脈の書き換えをおもしろがってもらった『Obscure Ride』とは違って、もっと具体的なリズムやハーモニーを追求する制作でした」(荒内)。

 「だから、今回の作風に移行していくにあたって、いままで僕が担ってきたポップス要素は外してますね。好きではあっても、次の引っ越し先に収まらない家財道具は置いていくような感じで」(橋本翼、ギター/コーラス)。