“街の報せ”が届くまで、歩みを止めずに駆け抜けたceroの動向を振り返るよ!

 クロスオーヴァーするジャズとヒップホップ、それに付随するネオ・ソウル回帰といち早くシンクロした音楽性で、その後の日本のポップスの流れを決定付けたceroの2015年の傑作『Obscure Ride』。2016年に入り、〈ブラック・ミュージックを消化したポップス〉から〈ブラック・ミュージックのポップス化〉へとシーンが変遷するなかにあって、あのアルバムの重要性はますます高まるばかりだ。

 「『Obscure Ride』は結構背伸びをして作ったアルバムだったので、ライヴでそれに追い付くのがとても大変でした。ただ、結果的にはとてもいい訓練になったというか、インディー然とした有象無象のバンドからひとつ抜けて、ちゃんと聴かせるグループになるために必要なアルバムだったなって」(髙城晶平、ヴォーカル/ギター/プログラミング)。

 「作ったときは、インディー・シーンのなかでは浮いた作品になると思ったんですけど、思った以上にこの路線が流行って結構戸惑いました。〈こんなにみんなやりたかったんだ〉って(笑)。とはいえ、数あるうちのひとつではなく、いま聴いても自信を持って良いと思えるアルバムだし、ひとつの起爆剤にはなれたのかなって」(荒内佑、プログラミング/キーボード)。

 「いま振り返るとちょっと渋いというか、いい意味で地味なアルバムだなって思うんですけど、こういう作品を評価してもらえたのは自信になりました。ブラック・ミュージックが盛り上がったのはそれはそれでいいことだと思うんですけど、流行りは常に変わっていくものなので、そういうときこそ自分が本当に好きなものに一回戻ってみるのもいいのかなって思ったりもします」(橋本翼、ギター/プログラミング)。

2015年作『Obscure Ride』収録曲“Summer Soul”“Orphans”

 『Obscure Ride』リリース以降のバンドの歩みをステージを中心に振り返ると、まずは全17本に及ぶリリース・ツアーを行い、ファイナルは過去最大規模のワンマンとなるZepp Tokyo公演を大成功で終えた。夏には〈フジロック〉の〈WHITE STAGE〉をはじめとしたフェス出演を経て、秋にはNY在住のトランぺッター・黒田卓也とBillboardで共演。さらには韓国での初の海外公演や、中野サンプラザでのホール・ワンマン、ベニー・シングスとのコラボなど、積極的な活動を続けてきた。

 「黒田さんと僕らって、言ってみれば大リーガーと高校球児みたいなものなので、最初は相当尻込みしたんですけど、でもルールは同じだから、お互いの良さで通じ合える部分はあったのかなって思います。あと僕は、黒田さんの何が好きかって、クール・ジャパンを売りにしてなくて、実力だけで対等に〈野球〉ではなく〈ベースボール〉をやってるってとこなんですよね。海外勢と共演したりすると、〈日本ならでは〉みたいなことを意識しちゃうけど、なるべくフラットにやりたいなって思います」(荒内)。

 2016年は人気TV番組〈SMAP × SMAP〉へのまさかの出演で多くの人を驚かせると、5月には総勢13人編成で、旧知の仲であるVIDEOTAPEMUSICによる演出も加わった日比谷野外大音楽堂公演〈Outdoors〉を開催し、これまでの活動の集大成をひとつの形にした。

 「〈Outdoors〉っていうのはファースト・アルバム(2011年作『WORLD RECORD』)の収録曲のタイトルなので、この日は新旧織り交ぜてやりました。早い時間から始まったので、明るいなかで『Obscure Ride』の曲をやってもあまりハマらないから、前半はファーストやセカンドの曲をやって、暗くなるにつれてディープになっていくっていう流れだったので、結果的にceroが辿ってきた軌跡が見えるようなライヴになったかなって」(髙城)。

 「ceroってワンマンで新しいことを見せたがるバンドなんですけど、珍しくいままでのものをちゃんと受け止めて提示するっていうやり方だったし、関わってくれた人も昔から一緒にやってる人ばっかりだったので、ホント集大成だったなって」(荒内)。

 その後もモッキーとの共演や〈VIDEOTAPEMUSIC×cero〉としてのフェス出演などが続き、さらにはクレイジーケンバンドやOMSB & Hi'Spec、オリジナル・ラブの田島貴男ら多彩なメンツを集めた自主企画〈Traffic〉を東阪で開催。10月には台湾における『Obscure Ride』のリリースと、それに伴う初の台湾ワンマン公演も行うなど、歩みを止めることなく2016年を駆け抜けてきた。

 「〈SMAP × SMAP〉に出たりすると上昇志向があるというか、規模を広げる方向に向かってるように見えるかもしれないけど、海外に行って少ないお客さんの前で演奏したり、〈Traffic〉みたいに集客目当てではない、単純に俺らが好きな人を呼んでイヴェントをやったり、今年はそういう横の広がりを見せられたんじゃないかと思います」(荒内)。

 「個人的には、この1年でふたつレギュラー仕事をやってて、大阪のラジオと雑誌の対談連載があったんですけど、その間に音源のリリースはなかったから、いわゆるセールスとかプロモーションには直接的に繋がってないんです(笑)。ただ、ceroが好んでやれる数少ない仕事のひとつが、〈人を紹介する、媒介する〉ってことで、ceroはそういうメディアとしてのおもしろさがあると思う。今年はそこを楽しむことができた1年間でしたね」(髙城)。