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【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第2回 BABYMETALやロブ・ハルフォードなど、ハイトーン・ヴォイスの魅力

メタラーのジャズ・ピアニストが伝えるへヴィメタルのアレコレ

クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けてきたジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、NHORHMとしてへヴィメタル・カヴァー盤をリリースしたりBABYMETALへの並々ならぬ愛をつづった記事でMikikiの年間アクセス・ランキングの首位を獲得するなど、メタル愛好家としても知られる彼女。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置から、へヴィメタルについてアレコレ語り尽くす連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉がスタートしました! ベビメタ・フィーヴァーも相まって〈近年ヘヴィメタルが再び盛り上がってきている〉という本人の証言もあるなか、西山瞳があらゆる角度からそのおもしろさを熱くお伝えしていきます。第2回となる今回は、〈ハイトーン・ヴォイスの魅力〉についてつづっています。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧


 

前回、高校の時にヘヴィメタルばかり聴いていたのは、ギターとギタリストが魅力的だからだ、ということを書きましたが、もう一つ、ヘヴィメタルにおいて、とてつもなく大きな魅力を感じていた部分があります。

それは、ヘヴィメタル・シンガーの凄さです。

元々私は、小学生〜中学生の頃にB’zが好きだったり、テレビの音楽番組では聖飢魔Ⅱの出演を楽しみにしていたり、女性シンガーよりは、ロックのハイトーン・ヴォイス系の男性シンガーの方が魅力的と思う子どもだったのですが、高校に入ってイングヴェイ・マルムスティーンのアルバム『The Seventh Sign』(94年)を聴いた時に、ギターと同時に驚いたのが、マイク・ヴェセーラの歌唱です。

ヘヴィメタルの歌唱法は、大雑把に分けると、通常の歌唱=クリーン・ヴォイスと、ダミ声のような潰した声=デス・ヴォイスがあり、ヘヴィメタルに馴染みの無い方には後者の方がインパクトが大きく感じられるので、〈叫んだりいかめしい汚い声で吠える、野蛮な感じでしょう〉と思われる方も少なくないと思いますが、それはデス・メタルなどで使われる一つの技法で、ハード・ロックの時代から、本流はハイトーン・ヴォイスなのです。

バンドが爆音で音数も多いため、必然的にヴォーカルは楽器に負けないために高い音域で歌うのですが、とにかくキーが高い。NHORHMのためにヴォーカルのメロディーを沢山採譜していてわかったのですが、通常の男性のポップス・シンガーよりはかなり高く、ジャズの女性シンガーより少し高いぐらいのキーです。

ジャズの場合は、声を張って歌い上げるよりはコミュニケーションを取る方が大事なので、少しゆとりのあるキーで歌います。ピアノ音域で、低い音域から高い音域に向けて順に番号を振っていき、中央のCの音をC4とすると、ジャズの女性シンガーはG3(その下のG)〜C5(1オクターブ上のC)ぐらいで歌うのですが、ヘヴィメタルの男性シンガーは、E5(オクターブ上のE)ぐらいまで出す人が多いです。

 

また、通常の歌唱の男声音域はもっと低いですし、それにシャウトが入るともっと上に聴こえるので、声域の広さは尋常ではありません。

ヘヴィメタルの代表的なシンガー、ロニー・ジェイムス・ディオは、レインボーや、ブラック・サバス、自身のプロジェクトのディオなどで活躍した伝説的な存在ですが、この歌唱の圧倒的な強さと上手さ、ドラマチック感は、まさに私が憧れたヘヴィメタル・シンガーの代表であり源流であります。

レインボーの76年作『Rising(虹を翔る覇者)』収録曲“Stargazer”
 

また、〈メタル・ゴッド〉の異名を持つロブ・ハルフォードは、もうすでにどの声域を歌っているのかわからない、神業すぎるハイトーンです。このエクストリームさ! これぞメタル!

ロブ・ハルフォードがヴォ―カルを務めるジューダス・プリーストの90年作『Painkiller』収録曲“Painkiller”
 

最近、ライヴで間近で聴いたなかで言うと、2015年にアングラの来日公演で初めて観たファビオ・リオーネ(元ラプソディー・オブ・ファイアのヴォーカル)に驚きましたね。何でも歌えるわ、どこまででも声は出るわ、おまけにどれだけ喉が強いんだこの人は!と。びくともしない安定感。

こんな、あまりにも高く太い声を出すには、体格の大きな海外の人じゃないと無理ではないかと思ってしまいますが、NHORHM2に収録したLOUDNESSの名曲“Speed”は、前述のE5の音まで当然のように普通に出していますし、聖飢魔Ⅱのアルバム『地獄より愛をこめて』(86年)の“El Dorado”も、相当に高い音域の歌唱が、滅茶苦茶に格好良いのです。

『New Heritage Of Real Heavy Metal II』

また、NHORHM2に一曲ゲストで参加して頂いた冠徹弥さんの歌唱は、レコーディングしながら本当に感激しました。メタル・シンガーに、ビッグバンド風のトラディショナルなスイングにのせて歌ってもらうのは少し冒険ではありましたが、たった2時間ほどのレコーディングでリズムも徐々にジャズにアジャストしていって、歌い方もどんどん変えていって、私が譜面を書いていたところの1オクターブ上をシャウトで歌ったり。メタル・シンガーの凄さをまざまざと見せつけられました。この現場を実際に体験できたのは、私にとって光栄であると同時に、非常に勉強になりました。凄かったです。

ちなみに、B’zの稲葉さんと二井原(実、LOUDNESS)さんのハイトーン・シンガー対談のYouTubeが、滅茶苦茶面白いです。何度も観てしまっています。

 

そこで、BABYMETALです。

正直、最初にBABYMETALを聴いた時はヘヴィメタルのサウンドの上に乗る少女の声に違和感があったのですが、聴いていくうちに癖になり、聴けば聴くほど感動してしまって、〈真っ直ぐな少女の声が乗るのか、この手があったか!〉と、ねじ伏せられました。

バンドに埋もれないために、ハイトーン・ヴォイスで歌う。勿論これは、最初から音域の高い女声でやればいいことかもしれませんが、バンドの重量感に対峙しようと思うと、女声では声量や声の太さが追いつかない部分もあるかもしれません。しかし、シンガーSU-METALのノン・ヴィブラートの声は、サウンドに埋もれないし、負けない。むしろ羽ばたいて聴こえる快感は、BABYMETALならではだと思います。

SU-METALは、一切ヴィブラートをかけず、歌い出しの音をしゃくって歌い始めたり、あれだけダンスをしながら歌っているのに、ピッチが不安定になったりということがありません。ライヴも何度も観ていますが、気分やノリでフェイクもせず、ひたすら真っ直ぐな歌い方をします。それは、ある面では少女性の象徴にも感じますが、その少女性=純真さが、メタルの〈気持ちが真っ直ぐ〉という部分に、ばっちりフィットして、私もライヴで聴くたびに、なぜだか涙が出るほど心揺さぶられるのです。

違和感があったからこそ、最大の快感になる。少女の声だからこそ、バンドのヘヴィなサウンドを土台にして羽ばたけるメタルがあるのだと、新しい感動を教えてくれました。

★SU-METALについての考察もつづった、西山による2016年の新木場Studio Coastでのライヴ・レポ

最近、新曲もドロップされました。

早速ヘヴィロテして聴いていますが、MVを観ても、この一曲だけでは完結しない世界が次のアルバムで繰り広げられる予感がします。早く次のアルバムが聴きたい!

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

http://hitominishiyama.net/

 


Live Information

5/25(金)横浜・上町63(tel 045-662-7322)
西山瞳pianoトリオ 佐藤ハチ恭彦bass 池長一美drums
開場19:30 開演20:00-2set / music charge 3,000円(学生¥2,500 1Drink付)
http://jmsu.web.fc2.com/63/

5/30(水)東京・池袋Apple Jump(tel 03-5950-0689)
西山瞳piano Maiko violin デュオ
開場19:00 開演20:00-2set/music charge 2,800円
http://applejump.net/

5/31(木)東京・小川町Lydian (tel 03-5244-5286)
西山瞳piano 西嶋徹bass デュオ
開場18:30 開演19:15-2set/music charge3,300円
http://jazzlydian.com/

6/9(土昼)兵庫・神戸CREOLE (tel 078-251-4332)
西山瞳piano 鈴木孝紀clarinet 光岡尚紀bass トリオ
開場13:30 開演14:00-2set/予約3,000円 学生1,500円(それぞれ当日500円up)
http://creole-live.net/

★イヴェントの詳細はこちら

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