INTERVIEW

マイク・シノダ『Post Traumatic』あの日から黙々と曲を書き続けた彼が、亡き友について、今後の活動について率直に語る

マイク・シノダ『Post Traumatic』あの日から黙々と曲を書き続けた彼が、亡き友について、今後の活動について率直に語る

最愛の友を亡くし、明日さえも見えなくなった。それでも現実を受け入れるために彼は曲を書き続けた。 これはトラウマを乗り越えようともがく一人の男のドキュメント。その先に、光はきっとある……

リンキン・パークを襲った悲劇

 2017年7月20日、チェスター・ベニントンの死去が偽りのニュースではないことを真っ先にSNS上で認めたのは、リンキン・パークのバンドメイトであるマイク・シノダだった。この日を境に彼らのファンは世界中からチェスターに哀悼の意を表し、SNSを通じてお互いを支え合い、慰め合いながら、残されたメンバーにもエールを送りはじめる。そうした動きに背中を押され、リンキン・パークは追悼コンサートの開催を決意。もともと北米ツアーのスケジュールに組み込まれていた10月27日のハリウッド・ボウルで、〈Linkin Park & Friends Celebrate Life In Honer Of Chester Bennington〉と銘打ち、3時間に及ぶ公演を敢行したのだ。マシン・ガン・ケリー、ONE OK ROCKのTAKA、スティーヴ・アオキ、ブリンク182、アラニス・モリセット、ビービー・レクサらさまざまな世代のゲストがチェスターの代わりにヴォーカルを取り、約2万人の観客が大合唱し続けた驚異的なこのステージの後半で、マイクは「チェスターが亡くなった8日後に書いた曲だよ」と、生々しくも美しい“Looking For An Answer”をピアノの弾き語りで披露。これが初めて本名で世に出した彼の完全なるソロ曲だった。

 年が明けた2018年1月、マイクは“Place To Start”“Over Again”“Watching As I Fall”の3曲を揃えたEP『Post Traumatic』を配信。続いて3月に発表されたのが“Nothing Makes Sense Anymore”と“Crossing A Line”の2曲だ。そのタイミングで、EPと同じタイトルのフル・アルバムを6月にリリースする旨もアナウンスされる。以下、マイクの発言は4月20日にLAのサンセット・マーキース・ホテルで行ったインタヴュー時のものだ。同日に世界各国からメディア関係者を迎えて一気に取材の対応をした彼は、「元気だよ」とまず笑顔を見せてくれた。

MIKE SHINODA Post Traumatic 143/Warner Bros./ワーナー(2018)

 

暗闇から抜け出す旅

 「このアルバムは暗闇に向かう旅ではなく、暗闇から抜け出す旅の作品なんだ。あきらかにダークな場所から出発するけど、時間の経過と共にさまざまな経験をしたことで、違う考えの曲が出てきたからね。自伝的なアルバムだよ」。

 彼の言う通り、EPの3曲と“Nothing Makes Sense Anymore”は、胸が苦しくなるほどリアルでダークだ。ホームビデオ風に撮影された“Nothing Makes Sense Anymore”のMVも、闇と混乱のなかにいるマイクの姿をそのまま映し出している。LAの大規模な山火事の跡地で撮影したこのMVについて、本人は次のように説明する。

 「去年の俺の経験が、まるであの山火事のように思えたから、メタファーとしてその映像を使ったんだ。山の木々はいつか再生するから大丈夫だけど、当時の俺は焼け跡の何もない状態のような気分だった。ここで撮影しようって決めた数日後、一人でビデオカメラを手に出掛けたんだよ」。

 しかし、〈俺は一線を越えるんだ〉とソロ活動に乗り出す決意を歌った“Crossing A Line”あたりから、光が射し込んでくる。同曲のMV撮影の当日、マイクは〈今夜、みんなに会いたいんだけど〉と突然ツイート。その数時間後、かつてタワーレコードがあったサンセット通りの一角にファンを集め、彼らと合唱し、新しいスタートを切ることに。

 「これをやるのが正しいって直感で感じて、それに従った。何も計画しないでやったから自由があって、新鮮な体験だったよ。長年バンドでやってきたこととは違ったからね」。

 現時点でアルバム収録曲すべてを聴けているわけではないが、おそらく『Post Traumatic』は“Crossing A Line”以降、少しずつ暗闇から抜け出すような構成になっていると思われる。サウンド面については、リンキン・パーク史上もっともポップに仕上がった『One More Light』(2017年)の延長線上にあるプロダクションと言っていいだろう。スタイルズ・オブ・ビヨンドやルーペ・フィアスコらを迎えたラップ・プロジェクトのフォート・マイナーも含め、これまでにマイクが取り組んできた〈ハイブリッド・サウンド〉の最新形を、このアルバムのなかで確認することができる……ということを前提に、何よりもまずここではリリックの進化に注目していただきたい。

 「リンキン・パークでは基本的に俺が作ったデモ・トラックをメンバー全員に聴かせ、話し合いをする。それから1週間くらい置いてまたその曲に取り掛かるんだけど、そこにはブラッド(・デルソン、ギター)がいて、一緒に作曲したり、彼の提案を採り入れたりしながら曲を変更していくんだ。で、次にメロディーと歌詞を決めていく。『One More Light』までは俺がメロディーと歌詞を書いた後、チェスターが意見を出してくれて、彼とアイデアをつき合わせていたよ。でも、『The Hunting Party』でシステム・オブ・ア・ダウンのダロン・マラキアンと作業してみて楽しかったし、より短時間で気に入る曲が作れたんだ。それで『One More Light』では、外部ライターたちとの共作に飛び込んでみようと思った。そのおかげで、俺は新しい作曲法を得たんだ。メンバー以外の人と共作してみて学んだのが、〈テーマをより限定した歌詞にすれば、曲がより普遍的になる〉ってこと。〈俺はいま、これについてこう感じてる〉って特定のトピックを取り上げると、より共感を呼ぶ曲になる。それはその曲がより正直だからなんだよね。このことを学べて凄く良かった。去年ああいう体験をした俺は、この方法を使って『Post Traumatic』のすべての曲を書いた。その日に考えていたことや経験している瞬間を捉え、そのまま曲にしようとしたんだ。それが良い曲になることを願いながらね」。

 2014年作『The Hunting Party』までのリンキン・パークは、いつもリスナーに歌詞の解釈を委ねてきた。だが、初めてテーマを明確することで“One More Light”という屈指の名曲が生まれ、それがチェスターの死後、ファンの絆を強めるアンセムとなったのだ。そしていま、マイクはいつになく正直でパーソナルで、それゆえに圧倒的な力を持つ『Post Traumatic』を完成させたのである。

 

人生の新しい基盤

 今作では『One More Light』でも光っていたマイクのヴォーカルが、過去最高に鮮やかつ強力に響いている。胸を打つ言葉や耳馴染みの良いメロディーとの相乗効果で、一度聴いたら頭から離れなくなること必至だ。

 「長年かけて自分の歌声により合う曲の書き方を見つけたんだ。俺はチェスターの声と合う曲作りに多くの時間を費やしてきたけど、同じ方法で俺に合う曲を書くことができなかった。だからリンキン・パークの近作では、自分の口から出る声と相性の良い曲を書くことにトライしていたんだよ」。

 リンキン・パークのラップ・パートが徐々に減ってきたのには、マイクの意識が歌に向けられていたことも関係しているようだ。しかし、この『Post Traumatic』では、ブラックベアをフィーチャーし、アジア風のテイストを盛り込んだスタイリッシュで斬新な“About You”や、浮遊感のある幻想的なトラックが印象的なチノ・モレロ(デフトーンズ)&マシン・ガン・ケリー客演曲“Lift Up”など、久々にマイクのラップを聴くことができる点も補足しておこう。

 「“Lift Up”は自分にとってユニークな立ち位置にある曲。現実逃避について書いたものなんだ。大半の楽曲は、何が起こっていて、その時に俺が何を感じていたかっていう筋のなかで書いたけど、そこからの休憩が必要な時もあってね」。

 ちなみに、過去9か月間、その時々の心の内を真っ正直に曲へと落とし込む作業を続けた彼には、音楽とは別に絵画という逃げ場も必要だったらしい。これまでにも本隊のリミックス盤『Reanimation』(2002年)などで絵の腕前を披露しているが、今作のジャケットもマイク自身が手掛けたものだ。

 「辛いことがあった時にいつも俺が向かうのは、絵を描くことと曲を作ること。絵は特に多いかな。電話で話している間もよくいたずら書きをするんだけど、このアートワークも最初はそんな感じで描いたもので、ちょっと瞑想みたいな感じだった。キャラクターの絵でも、比喩的な絵でもなく、より質感を大事にした作品だよ」。

 リンキン・パークのマイクでも、フォート・マイナーのマイクでもなく、ただ一人の男として一心不乱で制作に臨んだ『Post Traumatic』。このアルバムを作り終えたいま、彼はどこへ向かおうとしているのだろうか?

 「たぶん俺がこのソロ活動で本当に探し求めているのは、新しい基盤、つまり新しい〈ノーマル〉を見つけ、自分の状況や進むべき方向を把握できていると感じられるようになることじゃないかと思う。凄くシンプルなんだよ」。

 96年の結成以来、ずっと人生の基盤だったリンキン・パークに予期せぬ不幸が襲い、混沌とした状況のなかでマイク・シノダはソロ活動に向かった。きっとそれは彼が前進できる唯一の道だったのだろう。この取材の翌日、マイクはラジオで〈リンキン・パークのレコーディングは簡単にできるが、その後のショウのやり方がまったくわからない〉とし、〈『Post Traumatic』のツアーを通じてその答えを見つける機会が得られるかもしれない〉といったようなことを語っている。

 今年8月、ソロで〈サマーソニック〉のステージに立つマイク。すべてを焼き尽くしたトラウマを乗り越えようと前進する彼のパフォーマンスは、そこに居合わせた観客に大きな感動とインスピレーションを与えるはずだ。

 「日本のみんな、ずっとサポートし続けてくれてありがとう。特に過去1年の応援には感謝してる。日本に行って、みんなに会うのを楽しみにしているよ」。

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