COLUMN

スネイル・メイル『Lush』 驚異の10代SSWがギターを掻き鳴らして歌う理由

Photo by Michael Lavine
 

ロック・バンドに元気がないと言われ、現在のメインストリームを効率重視の分業制ポップやヒップホップ、R&Bが占める状況において、己の闇と向き合い、その作家性を突き詰めるシンガー・ソングライター(以下、SSW)という存在は、孤独に映るかもしれない。だが、いちリスナーとしても書き手としても、これほど優れたSSW……それも、女性のSSWが充実していると思える時代は初めてだ。

例えば、90年代のオルタナティヴ・ロックへの憧憬やアンチ・フォークを出発点に、いまや〈みんなのうた〉としてのポピュラリティーを確立しつつあるコートニー・バーネット。カトリック信者で同性愛者という複雑なアイデンティティーを持ちながら、ほとばしる激情でエモ/ハードコアとの接続を持つジュリアン・ベイカー。あるいは、日本にも〈君はロックなんか聴かない〉というワンフレーズだけで様々な想いや関係性を浮かび上がらせてしまう才媛、あいみょんがいる。

自作自演であること、独立独歩であることがSSWの本分ならば、〈ありのままの自分〉で生きることを選び、胸を焦がし、歌を紡ぎ続ける彼女たちの音楽と言葉は最強だ。本稿の主人公であるスネイル・メイルことリンジー・ジョーダンもまた、その瑞々しくも剥き出しの表現でもって、現代のSSWとしての可能性を大いに感じさせる逸材。弱冠18歳にして、名門マタドールとサインした彼女の魅力を紐解いていこう。

SNAIL MAIL Lush Matador/BEAT(2018)

①ライオット・ガールの薫陶を受けた、等身大のSSW

リンジー・ジョーダンは、ビーチ・ハウスやフューチャー・アイランズの故郷としても知られる米メリーランド州ボルチモアに生まれ、現在はブルックリンを拠点とする19歳。5歳からクラシック・ギターを習い始め、アヴリル・ラヴィーンに夢中な少女時代を送っていたそうだが、姉に連れられて行ったパラモアのライヴに衝撃を受け、ソングライティングに開眼。15〜16歳の頃には、早くも地元のパンク・レーベル、シスター・ポリゴンから6曲入のEP『Habit』(2016年)でデビューを果たし、フィラデルフィアのパンクロック・バンド=シアー・マグやワクサハッチーらの前座も経験している。

2016年作『Habit』収録曲“Thinning”
 

まだあどけなさが残る顔立ちと、ヴァセリンズのフランシス・マッキーを彷彿とさせる少しぶっきらぼうな歌声がリンジーの魅力だが、その卓越したギター・プレイに驚く読者も多いだろう。何を隠そう、彼女のギターの師匠はヘリウムやワイルド・フラッグ、そしてエクス・ヘックスといったバンドを渡り歩き、ライオット・ガールのムーヴメントを間近で見てきたメアリー・ティモニーだ。彼女からは、ソングライティングからギター奏法、フェミニズム思想に至るまで手ほどきを受けたというリンジーではあるが、ともすれば両親よりも年上であろうメアリーには、自分に正直に生きていくことも心得として学んだはず。その証拠に、リンジーは同性愛者であることをカミングアウトしているのだ。

ちなみに、〈snail mail〉は直訳すると〈カタツムリ郵便〉となり、せわしない現代社会だからこそ、あえて手書きの文字や手作りの封筒で気持ちを伝えるという意味がある。決してアナログ至上主義ではないけれど、せめて音楽を聴くときぐらいゆっくり自分自身と向き合ってほしい――このプロジェクト名には、そんなリンジーの想いが込められているのかもしれない。

 

②ギター中心のサウンドとこんがらがった感情が渦巻く歌詞

15ものレーベルからオファーが殺到したものの、ヘリウム時代に在籍経験があるメアリーの薦めもあって、マタドールとの契約を決めたリンジー。ソランジュやチェアリフトらの作品も手がけてきた売れっ子エンジニアのジェイク・アロンをプロデューサーに迎え、新たなバンド・メンバーと共に完成させたデビュー・アルバムが、今回リリースされる『Lush』だ。

すでにリード・シングルの“Pristine”と“Heat Wave”が2曲連続でPitchforkの〈Best New Track〉に選ばれていることからも、インディー・ロック界隈での期待感は並々ならぬものがあったが、物憂げな“Intro”からソニック・ユースふうの軽やかなエレキ・ギターが印象的な“Pristine”へと至るオープニングがとにかく素晴らしい。また、ノイジーで遊び心たっぷりのフレーズが随所に飛び込む“Heat Wave”、彼女も敬愛するカート・ヴァイルの“Pretty Pimpin”を思わせる寂寥感が漂う“Let's Find An Out”、アンセミックなコードとサビで過去と決別する“Full Control”など、アルバム全編でギターに軸足が置かれていることもポイント。ライヴ映像で見られるパワフルな演奏は、コートニー・バーネットやジュリアン・ベイカーと同じく、彼女がギタリストとしても確かな技術を持っていることを裏付けている。

『Lush』収録曲“Heat Wave”
 

言葉のセンスも秀逸だ。〈これ以上の変化はいらない/私はいままでと同じようにあなたを愛し続ける〉というラインが映画「君の名前で僕を呼んで」の切なさを連想させる“Pristine”や、唯一『Habit』から再録された“Stick”での質問攻めとも自問自答とも言える独白、そして〈私はあなたのものじゃない〉と高らかに歌い上げる“Golden Dream”といった、こんがらがった感情が渦巻く歌詞やヴォーカルは、ハートブレイクを乗り越えようとする様々な世代からの共感を呼ぶだろう。

 

③LGBT新世代を象徴するアーティスト

「SSWとしては、フィオナ・アップルとリズ・フェアの二人を尊敬してるわ」と語るリンジーだが、彼女は以前リズのカヴァー・バンドをやっていたことがあるそうだ。そんな両者はつい最近Pitchforkの企画で対面を果たしたばかりだが、リンジーのInstagramを日々チェックしていると、彼女の写真のいいね!覧にはコートニー・バーネット、ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリッジャーズ、さらにパラモアのヘイリー・ウィリアムスといった名前が並んでおり、本当に多くの先輩アーティストたちがスネイル・メイルを応援しているんだなということが見て取れる。特に、今年の〈コーチェラ〉で土曜日に出演したエンジェル・オルセンは、最終日に出ていたリンジーをステージに招いて“Shut Up Kiss Me”をデュエットしたばかりか、妹分としてあちこちに連れて行っては可愛がっている様子がストーリーに連投されていた。

また、その端正なルックスとブロンド・ヘアは、スタイリストなどファッション界の人々も魅了してしまうようで、カルチャー誌やウェブマガジンなどではグッチケイト・スペードカルバン・クラインといったブランドの衣装に身を包む、艶やかなリンジーの姿も確認できる。もともと〈アヴリル・ラヴィーンみたいなロック・スターになりたかった〉と豪語しているだけに、「INROCK」的なリスナー層からも支持を集めたりして……?と、妄想するのもおもしろい。

 

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LGBTのファッションやライフスタイルについての雑誌「アウト・マガジン」掲載の写真。リンジーが着ているのは、アリス アンド オリビア
 

最後に、オフィシャル・インタヴューからリンジーの発言を引用して本稿の結びとしたい。〈#MeToo、Time's Upに象徴されるように、いまは世界が価値観を上書きしようともがいている時代だと思います。そのうえで、あなた自身としては、どんなアーティストでありたいと思っていますか?〉という質問に対する回答だが、彼女の芯の強さが伝わってくる素敵な言葉だと思う。

「ミュージシャンとしては、最高のソングライターになりたいと思う。自分が大切に思えるような作品を、時間をかけて作り続けたい。私はLGBTだと公表しているし、表舞台に立つ人間としては、私と同じような人たちの象徴みたいな存在になれたらいいと思う。私のメッセージや信条に共感してくれる女の子はたくさんいると思うから、私の声をそういう人たちに届けることができるのはうれしいわ」

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