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コートニー・バーネット『Tell Me How You Really Feel』 怒りや悲しみを歌にしてもいいんじゃない?

コートニー・バーネット『Tell Me How You Really Feel』 怒りや悲しみを歌にしてもいいんじゃない?

DIY精神溢れる生々しいロックとシニカルで文学的な歌詞が注目を集めて、オーストラリアのインディー・シーンから世界へと飛び出したシンガー・ソングライター、コートニー・バーネット。デビュー・アルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』が英米の音楽賞を受賞して高い評価を得るなか、待望の新作『Tell Me How You Really Feel』が完成した。バンド・サウンドは前作以上にヘヴィーで分厚くなるなか、コートニーが弾くギターが荒々しく暴れ回っている。サウンド面の変化について、彼女はこんなふうに説明してくれた。

 「これまでより、ダーティーでタフな感じのサウンドにしたかった。なかでも、ギターの存在感を際立たせたくて。ギター・ペダルをいじったり、いつもと違うチューニングをしてみたり。曲ごとに違う面を出そうといろいろやってみたの」

COURTNEY BARNETT Tell Me How You Really Feel Traffic/MilK!(2018)

ゲストにはアメリカのオルタナ・バンド、ブリーダーズのキムとケイトのディール姉妹が参加。彼女達の10年振りの新作『All Nerve』にコートニーが参加したお返しらしいが、思えば昨年、彼女はカート・ヴァイルとの共演作『Lotta Sea Lice』をリリースしている。こうしたコラボレートは、彼女にとって大きな刺激になったようだ。

 「いつもと異なる顔ぶれの人々や違う感性のなかに身を置いてみる。それだけで、インスピレーションを受けることがわかった。これまでの私は、〈インスピレーションが降りて来てくれるのをひたすら待つ〉みたいな考え方で育ってきたけど、実はインスピレーションってどこにでも転がっていて。待ってるだけじゃなく、自分で追いかけなくちゃいけない。そういうことに気付かされたことは大きかった」

そういう発見もあって、今回、彼女はデモテープの段階でピアノやドラムを演奏してみたり、古いタイプライターを使って歌詞を書いてみたりと、新しいアプローチで曲作りに取り組んだという。

 「ちょっとした実験は、なんらかの形で音楽に変化をもたらしていると思う。例えばタイプライターを使うというのは、そんな斬新な実験ではないけれど、自分の考えを残らず出してみようという試みだった。とにかく、思いつくままにどんどん書いていると軽いトランス状態になって、後で読むと思考のプロセスがわかる。それが興味深かった。タイプは文字がすぐに紙に打ち出されるから、そこが面白いところね」

今回の歌詞を読むと、いつになく彼女の生々しい感情が伝わってくる。なかでも、“Nameless, Faceless”や“Crippling Self Doubt And A General Lack Of Self Confidence”では、女性や弱者に対する理不尽な暴力や差別に対する強い怒りが感じられるが、彼女はどんな気持ちで新作に挑んだのか。

 「曲作りを始めた頃、自分の周囲を見回すとそこには多くの怒りと悲しみがあった。それを頭の中から振り払うことができなかったの。これまでは、そういったことを曲の題材にすることにためらいがあって。というのも、そういう題材を歌ったところで問題の解決にはならないだろうし、ただ泣き言を言っているだけのように聞こえるのがイヤだったから。でも、今回は自分の傷つきやすさや恐れに対して正直になって、それを歌にしてもいいんじゃないかと思ったの」

そして、そんな気持ちの変化について、彼女はこんなふうに振り返った。

 「どうしてそうなったのか……それは世界の状況がますます悪くなってきたからかもしれないし、自分が歳をとったからかもしれない。前作を発表した後、世界中を旅していろんな人に出会って話を訊いたことも影響していると思う。そういういろんなことが重なって、これまでは内向きだった自分の視線がオープンになって、今の社会の状況に自分も参加しようと思うようになったの」

ミュージシャンとして、そして、ひとりの女性として変化の時を迎えたコートニー。「自分の信じているものが何かはわかっているけど、〈それをどう表現したらいいのか?〉という点については今だに迷うことがある」と告白するが、『Tell Me How You Really Feel』には歌と真っ直ぐに向き合う彼女の姿が力強く刻み込まれている。

 

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