INTERVIEW

明かりを消して、自分自身と向き合う―ジュリアン・ベイカーが語った故郷での生活と不眠症、タトゥーの由来

明かりを消して、自分自身と向き合う―ジュリアン・ベイカーが語った故郷での生活と不眠症、タトゥーの由来

昨年10月にリリースしたセカンド・アルバム『Turn Out The Lights』でその評価を決定的なものとし、1月末に開催した初来日ツアーは東京・大阪いずれもソールド・アウトを記録するなど、いまもっとも注目のシンガー・ソングライターといっても過言ではないUSメンフィス出身の才媛、ジュリアン・ベイカー。ライヴの模様は筆者がBeatinkのサイトに寄稿したレポートを読んでもらうとして、1月26日の東京公演の前日、まだ雪が残る東京で束の間のオフを過ごしていた彼女にインタヴューを行った。

想像以上に小柄でフレンドリーなジュリアンは、ステージと同様に全身黒の装いで登場。新作についての情報や考察はすでに詳しい記事がアップされているので、今回は彼女の幅広い交友関係や歌詞、音楽的ルーツ、人々の心を揺さぶる歌声について、そしてタトゥーの由来などパーソナルな質問を多めにぶつけてみた。2015年の前作『Sprained Ankle』では薬物依存や交通事故による瀕死体験を生々しく綴っていた彼女だが、今作においてもっとも優しく叙情的なナンバー“Hurt Less”で〈今年から運転中にシートベルトをすることにした〉と歌われているように、〈ちゃんと生きていこう〉という人生観の変化が見て取れる。それは、長年親しんできたタバコをやめたり、コーヒーをデカフェに変えたりという些細なエピソードにも表れている気がするが、心身ともにリフレッシュしつつあるその顔は実に晴れやかだ。

とはいえ、友人のアーティストや大好きなバンドについて目をキラキラさせながら喋り倒す姿は、ピュアな音楽ファンそのもの。ジュリアン・ベイカーの途方もない才能とキュートな素顔に、ぜひ骨抜きになっちゃってください。

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初めて部屋に貼ったポスターはグリーン・デイの『American Idiot』

――実は、2年前にNYであなたのライヴを観ているんですよ。僕がInstagramにアップした写真がStereogumの記事に引用されたりして……。

「ワーオ! 〈The Bowery Ballroom〉ね、憶えてるわ。すっごくいいショーだった。フィービー(・ブリジャーズ)も出てなかったっけ?」

――ええ、フィービーとペタル(ブロードウェイで女優としても活躍するカイリー・ロッツのソロ・プロジェクト)が共演でした。この日のアンコールで、シャロン・ヴァン・エッテンが飛び入りしててビックリしたんですけど、彼女とはもともと交流があったのでしょうか?

「実は、彼女と私は同じ大学(ミドル・テネシー州立大学)に通っていたの。といっても大学で面識があったわけじゃなくて、私のアルバム(『Sprained Ankle』)が出た時に、シャロンが〈もし今度ニューヨークに来ることがあったら連絡してね!〉ってメールをくれて。そしたらNYの〈Mercury Lounge〉で公演が決まったから、そこではじめてちゃんと会話したわ。彼女はホントに優しくて、気さくで、素晴らしい人よ」

――お2人でコラボする予定もあったり?

「そうなったら素敵だと思う。ただ、私はずっとツアーに出ていることが多くて、彼女も自分の新作や別のプロジェクトが控えているし、最近は演技の仕事もやっているから、すごく忙しいのよね。それに、シャロンはママになったばっかりだから、家族の面倒も見なくちゃいけないでしょ? いつ実現できるかはわからないけど、近いうちに一緒に作品を作れたらいいな」

シャロン・ヴァン・エッテンはNetflixドラマ「The OA」や、「ツイン・ピークス The Return」のシーズン6などに出演

――さっき6131レコーズのショーン・パトリック・ローレル(Sean Patrick Rhorer)さんがいて驚いたんですが、一緒に来日しているんですよね。6131は『Sprained Ankle』を最初にリリースしたレーベルでもありますが。

「ショーンの存在に気付いてくれて嬉しいわ! 彼は6131の頃からずっとレーベル・マネージャーを努めてくれていたんだけど、私が去年マタドールに移籍することになってからは、別のエージェンシーを通して個人でマネージャーを続けてくれているの。今回は私にとって初めての日本だったけど、ショーンは何回か来たことがあったから、一緒に来日してくれてホントに助かった」

――レーベルを移ってからもいい関係が続いているのは素敵ですね! あなたがマタドールに移籍することになった時って、彼らはどんなリアクションでしたか。

「とても喜んでくれたわ。最初に6131とサインした時も、〈僕たちは小さなレーベルで、目的はアーティストを育成することだ〉って言われていたし、快く送り出してくれたと思う。確かにマタドールはグローバルで巨大なレーベルではあるけど、私の生活や活動をしっかり尊重してくれて、スタッフのみんなも魅力的な人ばかり。

それに、レーベルの考えを押し付けたりするのではなく、〈アーティスト自身がどうなりたいか?〉というヴィジョンを大切にし、そのために必要な機材やツールを提供してくれるの。アーティストを中心に考えてくれるし、決してビジネスライクな付き合いではないから、居心地がいいわよ」

――あなたの出身地であるメンフィスといえば、われわれにとってはブラック・ミュージックの聖地であり、エルヴィス・プレスリーで知られる〈グレイスランド〉がある場所というイメージです。青春時代にのめり込んだ音楽シーンは何かありますか?

「そうね、私が中高生の頃はスケートパークで開催するハウス・ショーによく行っていた。そこでペズ(Pezz)っていうメンフィス出身のパンク・バンドや、ルセロ(Lucero)とかをよく観ていたの。ルセロはサザン・ロックにカントリーやパンクが混じった感じの音ね。彼らはメンフィス以外ではあまり知られていないけれど、地元のシーンではすごく影響力の強いバンドよ。で、メンフィスってやっぱり外の人々からは〈過去〉に焦点が当てられがちだし、それこそエルヴィスやB.B.キングが使ったサン・スタジオが有名でしょ? でも実際は、パンクからヒップホップまでさまざまなシーンが存在しているわ」

――子どもの頃は毎週末に教会に通う敬虔な家庭で育ったとお聞きしました。そんななかで初めて自分の部屋にポスターを貼ったアーティスト/バンドを教えてください。

「オー・マイ・ゴッシュ(笑)! えーと、私の記憶が確かなら、グリーン・デイの『American Idiot』(2004年)だったと思う。CDのオマケで付いてきたんじゃなかったかな。ブッシュ大統領(当時)を思いっきり批判していたり、歌詞も政治的で過激だったから、親には〈聴いちゃダメ〉って言われてたんだけど、そう言われるともっと壁一面を埋めてやりたくなったわよね(笑)」

――そういえば、はじめて買ったCDはフォール・アウト・ボーイの『Take This To Your Grave』(2003年)だったとか?

「そのとおり。よく知ってるわね(笑)」

 

明かりを消して、ベッドに横たわる行為は思考をよりクリアにできる

――昨年リリースされた『Turn Out The Lights』についてもお訊きしたいんですけど、ホントに素晴らしいアルバムでした。リリースから2~3か月経ち、ステージの上で歌い続けていくなかで新たな発見があったり、別の意味が生まれた曲はありますか。

「書いた時とは関係性が変わってしまった部分もあるけど、すごく想い入れがあるのは“Appointments”かな。シングルにもなったし、アルバムの中でも最初に歌詞を書いてレコーディングした曲でもあるからね。それと、“Televangelist”はライヴで演奏するのが一番好きな曲のひとつよ。完成した時は、少し長めの曲だからオーディエンスが退屈しないか心配してたんだけど……だんだん馴染んできたと思う。それと、“Sour Breath”も私にとってすごく大事な曲。あの曲が持つメリハリというか、ダイナミクスが進化していく過程がすごく面白いの。ライヴは、完成した曲をより実験的に広げることができる貴重な機会だと思うわ」

――(日本盤の歌詞対訳を見せながら)ちなみに、日本ではあなたの書いた歌詞がこうやって日本語に翻訳されているんですよ。これって他の国にもある文化なんですかね?

「へえ~。ヨーロッパでは基本的に英語のままなんじゃないかしら?」

――スプーンのブリット・ダニエルさんも、この歌詞対訳にかなり興味を示してらっしゃいましたよ。

「うん、すごく面白いと思う! 日本語と英語って何もかもが違うじゃない? たとえばスペイン語とかフランス語だったら、アルファベットが同じっていう共通点もあるし、センテンスや語順も似てるから何となく理解はできたりするでしょ。でも、日本語の場合はこれ(歌詞対訳)を見ても読むことさえできないし、あなたたちが喋っている日本語も全然理解ができない。だから、自分の歌詞がどうやって日本語に翻訳されているのか、一瞬だけでも日本人の脳味噌になって読めたらいいなって思うんだけど……(笑)。それに、詩って翻訳するのが難しいのよね。ただ機械的に翻訳をかけただけじゃ、そこに込められた意味や想いがきちんと伝わらないから」

――おっしゃる通りだと思います。そして、僕はジュリアンさんの歌声が世界で一番好きだと言ってもいいぐらいなんですけど、あなたの歌声は聴く度に心を抉られるような気持ちになるんです。だから、作業中とかに聴き流せるようなものではないんですよね。受け手にもそれなりの覚悟を必要とするというか……。あなた自身は、自分の声をどう評価しているのですか?

「これまでちゃんとしたヴォイス・トレーニングを受けたことさえなかったけど、今回のアルバムをきっかけに、初めて自分の声をひとつの〈楽器〉として捉えられるようになったと思う。昔はサーカ・サヴァイヴのアンソニー・グリーンとか、パラモアのヘイリー・ウィリアムスみたいなハイピッチのヴォーカリストに憧れていたし、ダンス・ギャヴィン・ダンスみたいなハードコアの歌唱スタイルにも惹かれていたな。たぶん、私にとって声っていうのは歌詞を伝えるためのヴィークル(乗り物)に過ぎないと思っていたんでしょうね。だから、自分の声が高いとか、低いとか、キレイかどうか?っていうことは一切考えていなかった。

でも、私ぐらいの世代の女のコって歌うのが好きだし、高校では同級生がTLCとかデミ・ロヴァートを歌っていた記憶がある(笑)。もちろん、そういうポップスも嫌いじゃないんだけど、私の歌い方は彼女たちとは違う。以前バンド(The Star Killers/Forrister)をやっていた時も、私が歌うことになった理由は、単純に他に歌えるメンバーがいなかったからで……。バンドの頃も歌詞が大事だと思っていたし、音楽的にもヘヴィーで、パンクやハードコアに近かったから、叫ぶことで自分の感情を伝えていたしね」

――なるほど。

「スクリーミング&シンギングとでもいうのかな。前作の『Sprained Ankle』のレコーディング時はまだタバコを吸っていたし、自分の喉とか声がどうなったって構わないと思っていたの。ただ、この数年で自分はシンガーなんだという自覚が芽生えてからは声に意識を向けるようになったし、音楽の世界で仕事をするなかで、自分の声は価値があるものなんだって自信が持てるようになった。もちろん、いまは禁煙してるわよ(笑)!」

――それは何よりです(笑)。歌詞もじっくり読ませてもらったんですけど、“Turn Out The Lights”というタイトル然り、“Everything To Help You Sleep”の〈何をしても電源を切ることができなかった/夜に眠れるようにするための手段は/もうどれも役に立たない〉というフレーズも然り、あなたにとって〈明かりを消す〉という行為は、現実世界との遮断というか……何らかのメタファーなのでしょうか?

「実は、私は昔から不眠症でなかなか眠れないことが多いの。1日のアクティヴィティーが終わって、明かりを消して、ベッドに横たわるっていう行為は、自分の思考をよりクリアにできるわよね。そこには自分しかいないわけだし、他に何もすることが無いわけだから、頭がグルグルと考えはじめてしまう。純粋に悩みがあって眠れない時もあるけれど、そうやって自分自身と向き合うことってすごく大切だと思っていて。それだけが理由じゃないかもしれないけど、常に頭の隅っこにあることは確かね」

――最近はよく眠れていますか?

「不眠症は子どもの頃から抱えているんだけど、前より良くなっているとは思うわ。最近は時間を見つけてジョギングもしているし、もともと大のコーヒー党だったから、1日1杯に留めてデカフェのものを飲むようにしているの(笑)」

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