クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けてきたジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、NHORHMとしてへヴィメタル・カヴァー盤をリリースしたりBABYMETALへの並々ならぬ愛をつづった記事でMikikiの年間アクセス・ランキングの首位を獲得するなど、メタル愛好家としても知られる彼女。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置から、へヴィメタルについてアレコレ語り尽くすのが本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉です。ベビメタ・フィーヴァーも相まって〈近年ヘヴィメタルが再び盛り上がってきている〉という本人の証言もあるなか、西山瞳があらゆる角度からそのおもしろさを熱くお伝えしていきます。第3回となる今回は、〈メタラーの真面目さ〉についてつづっていますよ。 *Mikiki編集部

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5月のゴールデンウィークに、〈高槻ジャズストリート〉というジャズ・フェスティヴァルに、ヘヴィメタルの楽曲のみを演奏するピアノ・トリオ〈NHORHM〉で参加してきました。

このバンドは2015年から活動開始して3年になりますが、2015年にCD第一作目『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリースしてから、色んな会場やイヴェントに演奏に呼んで頂くようになり、ジャズ・フェスティヴァルやホールなどでも演奏させてもらっています。

photo by Atsuya Asada
 

そういったステージのMCで、
〈次の曲はパンテラの“Walk”、聴いて下さい〉とマイクを持って話すのですが、
3年経っても〈私はこのジャズのステージで何を言ってるんだろう〉と、心の中で思っています。

〈次は、AC/DCの〉
〈今の曲は、マノウォーの〉
次々と場違いなワードを繰り出す自分。

〈これはジャズ・ファンに伝わっているのだろうか……? 〉と思いつつ、
〈この場所でパンテラを演奏するのは、私が初めてだろうな〉
〈この場所でパンテラというワードを言うのは、きっと私が初めてだろうな〉
などと考えたりもします。

しかし面白いのが、呼んで下さったホールの方やブッキング担当の方が、〈実は私も元メタラーでして……〉と、こそっと教えて下さることなのです。

ミュージシャン、ジャズの業界関係者、普段からお付き合いのある方々で、今までの会話にメタルのメの字も出なかった方から、〈実は自分も……〉と言われることが多々ありますが、〈大きな声で言えないんですけど〉という前置き込みのニュアンスで喋られるものですから、私は声を大にして言いたいです。

〈胸を張って言いましょうよ、我こそはメタラーだと〉

 

こちらMikikiをご覧の方は、ジャズ情報、アーバンでインテリジェンス満載な音楽情報を求めて来られている方が多いと思いますので、そのような方々に、全力でメタラー(=ヘヴィメタル愛好者)についてプレゼンしたいと思います。

〈ヘヴィメタルを聴いている人って、なんか怖い〉
〈怖い人とか、暴れたりする人が聴くんじゃないの〉

それは、一部分当たっていますが、大部分違います。

まず、メタラーは、かなり真面目な方が多いです。

〈何でもいいじゃん、ばーっとでかい音でやれば!〉みたいなことは、まずありません。形式、技術、精度、統制、世界観や意思の統一など、かなり拘り、考え抜いた結果の音楽なので、聴く側もそういうものを大事にします。

好きなバンドに対しての忠誠心を軸に、そのバンドが影響を受けた他のバンドや、メンバーが参加していたバンドも聴き、歴史的なバンド、有名なバンドの名盤はとりあえず大体聴いています。聴いておかなければ真のメタラーではない、という意識もあるのでしょうか。さながら歴史を勉強するような聴き方も含んでいて、勿論バンド単位での愛好もありますが、メタルというジャンルそのもの、そしてメタルというカルチャーが好きな人が多いんですね。

メタラーはヘヴィメタルという音楽の信者で、その忠誠心を示す行動として〈バンドTシャツを着る〉というのがあります。勿論、他ジャンルでもバンドTシャツを着ることは多々あると思いますが、メタルが特殊なのは、全てのTシャツの色が黒なので、会場が真っ黒になることです。本当に黒いです。これが怖く見える一因かもしれませんが、中身は真面目です。

その日のライヴで、何のバンドのTシャツを着ているかは、大変重要です。そのバンドの過去ツアーのTシャツ、他バンドのTシャツの人も結構います。当日、自分が盛り上がるために着るのもありますが、我が軍はここなのだ、という所属表明にもなります。

同じバンドのシャツを着ている同志が近くにいたら、声をかけたりすることもあります。フェスのTシャツだったりすると、〈あのフェスに行って生で聴いてたのかなあ〉と、羨ましい気持ちになったりしますよ。

そういう、Tシャツを選択する気持ちがわかるので、逆にスーツ姿でライヴに来ている方を見ると、〈Tシャツを着れなくても、どうしても聴きたかったんだな〉と、きっと熱い気持ちを持って駆けつけたのだろうと、想像します。
(どっちでもいいんかい)

私のジャズのライヴでも、メタルTシャツを着てきて下さる方が増えて、とても嬉しいです。また、NHORHMではなく、普段のジャズ・ライヴに来て下さった方が、帰り際に〈実は……〉と言いながらジャケットの下に着込んだモーターヘッドのシャツなどを見せてくれることが多々あって、これがもうたまらなく可愛いです。

上に着ないんですよね、そして帰り際に少し声かけるだけなんですよね、この奥ゆかしさ、かつ、同志に挨拶する精神、もう心温まる瞬間ですよ。

 

〈暴れる〉のは、ライヴ会場の前の方のフロアで、モッシュするイメージだと思いますが、大体は前列の方だけですし、理性をもって盛り上がっています。たまに、前列の方で押されて体調の悪くなった人がいたら、うまくその場から逃がす助け合いの光景も見ます。私は身体が小さいので、前列に行かず、できるだけ少し後ろの段差のあるあたりを陣取るようにしていますので、メタルのライヴ会場は全体が危険だということは、全くありません。

どうしてもイメージが先行してしまって、ヘヴィメタル=野蛮、危険、自分には関係ない、と思われてしまいますが、ちゃんと知って頂くと、全くそんなことはなく、生真面目な人たちで愛を持って構成されている音楽だということが、わかっていただけると思います。

 

NHORHMというプロジェクトを始めて、CDを2枚リリースして、案外多かったのが、〈職場や店舗でNHORMHのCDを流しています〉という反応。

これは想定外でしたが、〈メタラーの自分としては、BGMにメタルをかけたいけれど、お客さんには適切なBGMではないかもしれないから、メタル曲を演奏しているジャズを流す〉という需要があったんですね。オフィスから、飲食店、病院、色んな小売店など、色んなところから声をかけて頂きました。

何気なくジャズと思って聴いていたら、実はパンテラだった、ということが、結構あるかもしれないですよ……

NHORHMの2016年作『New Heritage Of Real Heavy Metal II』トレイラー

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

http://hitominishiyama.net/

 


Live Information

6/21(木)埼玉・蕨 Our Delight(tel 048-446-6680)
【2DAYS LIVE:Day-1 SOLO】
西山瞳solo
開場/開演:19:00/19:45(2sets)
MC:一般2500円/学割1500円
※別途1000円分のドリンク券
※予約にて2日間ご参加の方は、二日目の受付にて500円割引
http://ourdelight.blog.jp/

6/22(金)埼玉・蕨 Our Delight(tel 048-446-6680)
【2DAYS LIVE:Day-2 PIANO DUO】
西山瞳(piano)&佐藤浩一(piano)
開場/開演19:00/19:45(2sets)
MC:一般2500円/学割1500円
※別途1000円分のドリンク券
※予約にて2日間ご参加の方は、二日目の受付にて500円割引
http://ourdelight.blog.jp/

6/23(土)東京・小岩 Cochi(tel 03-3671-1288)
Duo 馬場孝喜(guitar)
20:00-2set
MC:2,800円
http://www.jazz-cochi.com/

7/14(土)東京・成城学園前 Beulmans(tel 03-3484-0047)
鬼怒無月(guitar)、西山瞳(piano)、吉野弘志(bass)
開場/開演14:30/15:00
charge:3500yen+2drink order
http://cafebeulmans.com/

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