INTERVIEW

映画「リズと青い鳥」 山田尚子監督 × Homecomings対談―共感から生まれた〈魔法的〉な主題歌“Songbirds”

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
 

京都アニメーション(以下、京アニ)制作による話題の劇場アニメ『リズと青い鳥』。吹奏楽に打ち込む高校生たちの青春を描いた武田綾乃の小説を原作とするアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズのスピンオフ作品となる本作は、いわゆるスポ根的な熱いストーリー展開が魅力の本編とは趣を変え、鎧塚みぞれと傘木希美という2人の少女の関係性に焦点を絞った繊細な作品となっている。

その儚くも美しい物語をフィルムに焼き付けたのが、TVアニメ『けいおん!』『たまこまーけっと』や劇場アニメ『たまこラブストーリー』『映画 聲の形』などで知られる京アニ所属の山田尚子監督。それらの過去作において評価された、緻密な演出と画作りで登場人物の内面を描写する手腕は、今回の『リズと青い鳥』という作品でさらに研ぎ澄まされ、観る者にアニメーションという表現の新しい可能性を気付かせてくれるはずだ。

そんな本作で主題歌を担当しているのが、京都を拠点に活動する4ピース・バンドのHomecomings。映画上映とライヴをセットにしたイヴェント〈New Neighbors〉を主催するなど、かねてより映画からの影響をみずからの活動に還元してきた彼らだが、映画の主題歌を手がけるのは今回が初。しかもそれが実現したのは、以前からHomecomingsの音楽のファンだった山田監督たっての希望によるものだった。

無類の音楽好きとしても知られる山田監督は、なぜ彼らに主題歌をオファーしたのか? そして『リズと青い鳥』とHomecomingsの出会いがお互いにもたらしたものとは? 山田監督、Homecomingsの畳野彩加(ヴォーカル/ギター)、福富優樹(ギター)の3人に、鼎談という形でたっぷり語ってもらった。

Homecomings Songbirds ランティス(2018)

(Homecomingsは)自分たちの芯を持ったうえで、好きなものや憧れてるものを大事にしてるところがすごく好きなんです(山田尚子)

――まずは、山田監督がHomecomingsに主題歌をオファーした理由を教えてください。

山田尚子「〈ピッタリくるから〉のひと言に尽きますね。Homecomingsさんは私がもともと趣味で聴いてた音楽なので、最初はこの作品のエンディングを歌っていただくなんて夢にも思ってなくて。でも、(エンディングについて)真剣に考えてみたときに〈断られちゃうかもしれないけど、ダメもとでお話してみてもいいのでは?〉と思った瞬間がありまして、プロデューサーに提案したんです」

福富優樹(Homecomings)「僕らは最初にお話をいただいたとき、嘘かと思いましたからね」

畳野彩加(Homecomings)「実感が沸かなくて。〈えっ、京アニ? 主題歌って何? あの山田監督で合ってる?〉みたいな感じで(笑)」

福富「ユーフォ(『響け! ユーフォニアム』)のことは知ってたからこそ、〈あれっ、なんで僕らなんやろう?〉って。最初は京都繋がりでいただいたお話だと思ったんですよ。〈日本語でメチャクチャ売れる曲を書かなきゃいけないのかな? これはビジネス・チャンスかも〉みたいな(笑)。僕らみたいなインディーで活動してるアーティストが主題歌になった前例もなかったですし」

映画「リズと青い鳥」主題歌“Songbirds”
 

山田「これは公式サイトに載ってるインタヴューでもお話ししたんですけど、Homecomingsさんの曲は前に前に進む感じのコード進行なのに、一歩退くみたいな雰囲気もあって、その〈頑張って前へ行く〉感じがすごく切ないんですよ。

〈大人大人〉してないというか、まだ〈真っ最中〉の景色を見ていられる方たちという印象があって。自分たちの芯を持ったうえで、好きなものや憧れてるものを大事にしてるところがすごく好きなんです。それで今回お願いしようと思いました」

福富「ありがたいですね……。山田監督の作品は観てて共感できますし、作り方もすごいと思うことが多いので、そういう方に僕らの音楽をちゃんと聴いてもらえてるということがすごくうれしいです」

――山田監督がHomecomingsの音楽を聴くようになったきっかけは?

山田「最初は友だちから勧められてですね。それが“HURTS”(2015年)を発表されたぐらいの時期で、聴いたら〈日本にもこんな良いバンドがいるんだ〉となりまして。本屋さんでなんとなくふらっと目があった本がかけがえのない一冊になったとき、みたいな。Homecomingsさんは、まさにそんな感じでした」

福富「“HURTS”はみずからブレイクスルーを起こそうと思って頑張った曲なので、ホントによかったです」

――畳野さんが服を着たままプールに飛び込むPVも話題になりましたものね。

福富「あれは自分が監督しまして……(笑)」

山田「一回しか飛び込めないんですよね?」

畳野「そうです。最後にワンテイクだけ残して。私、カナヅチなんですけど(笑)」

福富「なので、水中で何かあったら助けられるように、僕が画面から見切れてるギリギリの所に水着で待機してたんですよ」

山田「えっ、そのお話、素敵ですね。グッときます」

映画「リズと青い鳥」予告編

 

みんなの頭のなかに理想の終着地点みたいなものが共有できてたので、あとはそこに向かっていくだけだった(畳野彩加)

――山田監督は個人的な趣味としてHomecomingsの楽曲に惹かれたぐらいですから、お互い好きな音楽も共通する部分がおありなのでは?

福富「最初の打ち合わせで監督と初めてお会いしたとき、ラフ・トレードのトート・バッグを持ってこられたので、〈はい、わかりました!〉って(笑)。自分たちのことをちゃんとわかってる方だと思ったので、いままで通り好きなことをやっても大丈夫だと思ったし、安心して制作できたんです」

山田「(小声で)よかった~」

――トート・バッグはあえてチョイスしたんですか?

山田「いやっ、違うんですよ! 毎日使ってるものだったので何の気なく持っていったんですけど、行く途中で〈あっ、これ、もしかしてすごく意識してる感じ出ちゃうかしら……!?〉とは思いました(笑)。でも、もう家を出ちゃってたし……」

福富「今日も(Tシャツの柄が)〈Stop Making Sense〉で、トーキング・ヘッズですし」

山田「あっ、今日は……なんとなくメッセージを込めてみようかと……」

一同「(笑)」

――打ち合わせでは、監督から楽曲について具体的なリクエストをしたり?

山田「私からお願いしたのは〈英語にして欲しい〉ということぐらいなんです。私は畳野さんの歌い方がすごく好きなんですけど、その時点では日本語で歌われてる楽曲を聴いたことがなかったんですよ。その場でみなさんが(今回の主題歌を)日本語で歌おうとしていることを伺って、〈畳野さんの英語の歌が良いのです……〉と言ってしまって(笑)」

一同「(笑)」

山田「ただのめんどくさいファンですよね。すみません(笑)」

畳野「私はうれしかったです(笑)」

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
 

――いつも通りのHomecomingsを求められたわけですね。その意味では、楽曲制作もやりやすかったのでは?

福富「歌詞はめっちゃ(時間が)かかったんですけど、曲はすぐでしたね」

畳野「1日ぐらいで出来たんです。メンバーみんなで京アニさんのスタジオ見学に行ったんですけど、そのときに見た景色もそうですし、まだ音も色もついてない線画の映像を見せてもらったことで、『リズと青い鳥』という映画がどういうものなのかがなんとなくわかった気がして。みんなの頭のなかに理想の終着地点みたいなものが共有できてたので、あとはそこに向かっていくだけだったというか」

福富「そう。そんなふうにできたことはいままでなくて。ここ(福富と畳野)はわかってるけどリズム隊の2人が理解できないとか、けっこう行き詰まるタイプなんですよ。でも、今回は〈みんなが一緒〉の曲を作れた。スッて出来上がったので、映画に(曲を)作らされてるような気分。魔法的でしたね」

 

ホントに曲の力に飲み込まれて(山田尚子)

――その一方で歌詞は苦労されたとのことですが。

福富「いろいろやりたくなっちゃったんです。山田監督は“HURTS”で僕たちのことを知ってくれたので、〈“HURTS”と地続きの歌詞にしよう〉とか。それと歌詞を書く前に脚本を読み込んだんですけど、作品との距離感をどれぐらいにするかですごく悩んで。

で、監督とお会いしたときに〈レンズ越しに遠くから見てる作品になったと思います〉と言ってたので、主題歌もその距離感でいこうと思って。〈磨りガラス越しに見てるレンズの距離感〉というか」

――歌詞にも〈Through the frosted window(磨りガラス越し)〉というフレーズがありますものね。監督は出来上がった楽曲を聴いていかがでしたか?

山田「今回の撮影監督をやってる高尾(一也)というスタッフもSecond Royalさんのファンで、ものすごくテンションが上がってたんです(笑)。“Songbirds”のデモを頂いた頃にちょうど彼と撮影のチェックをしてたんですよ。

そこでいろいろリテイクを出したくなってきて、ふたりであれこれ言ってたんですけど、ふと〈高尾さんにこれを聴いてもらおう!〉と思って、そのデモを流しながらチェックしたら〈なんか全部名シーンに見えてきたね〉となりまして(笑)」

※Second Royal Records。小山内信介による京都を拠点としたインディー・レーベルで、HomecomingsのほかHALFBYやRufusやアナ、Turtable Filmsらの作品をリリースしている
 

一同「(笑)」

山田「それで〈このままいこっか!〉みたいになっちゃって、お互いに〈良い映画になりそうだ〉とか言いながらホクホクして帰ったんですけど、後から〈あっ、ちょっとタンマ! やっぱりちゃんと見る!〉ということがありました(笑)。ホントに曲の力に飲み込まれて」

――それだけ映画の世界観とシンクロしていたということですよね。

福富「でも、完成版の映像を観て作ったわけではないので……」

畳野「映画の曲として作ってるんですけど、まず〈いつも通りのことをやろう〉というのが頭にあったので、私たちが曲に向けてやってることと、山田監督が描きたいことがたまたま一緒だったというか。自分たちなりの解釈で音を付けて、この映画の主題歌を作っただけなんですけど、完成してみたら、すごく奇跡的なものになって。ホントになんか……」

福富「魔法的ですよね(笑)」

畳野「それ、今日のキーワードだね(笑)」

福富「でも、こんなに良いこと、あんまないですよ」

山田「うれしい!」

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
 

畳野「今回、取材をいくつか受けるうちにも、自分が思ってる以上に理解できることがどんどん増えていったというか。この映画の主題歌を作ったことでバンドに返ってきたものがすごく大きかったんです。

“HURTS”もHomecomingsにとっては大きな一曲なんですけど、“Songbirds”もすごく大きなものになっていて。自分たちがいまやりたいことをちゃんと形に出来たので、もうホントに……魔法的ですね(笑)」

福富「今回の曲でやってるギター・ポップは、僕だけじゃなくてバンドとしてもルーツになってるものですからね。メチャクチャ印象に残ってるのは、(京アニのスタジオ)見学のときに僕だけちょっと早めに行って、街を散歩したんです。舞台にもなってる場所なので見ておこうと思って。

そのときの夕日がきれいで、そこでティーンエイジ・ファンクラブを聴いたら、バチーン!となって(笑)。そういうルーツの音楽で新しいことができたのは、すごく良いことだなあと思います」

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