COLUMN

小曽根真&エリック・ミヤシロ〈Jazz meets Classic〉with 東京都交響楽団 ―出会いのなかで、音が笑う

左:小曽根真 右:エリック・ミヤシロ©大杉隼平

Jazz meets Classic  出会いのなかで、音が笑う

 結局のところ、音楽はハッピーなものだと思う。感情のあらゆることを大きく背負いながらも、音楽が語りかけるのはいまこのときで、歌うのはどこまでも人間のいる風景だ。あるいはいなくなった後や、やってくる前を想像させる光景――。

 もちろん、それだけでないことはわかっている。けれども、人間の不在でさえも、その輪郭を浮き彫りにする意味では、どこまでも私たちの生と無関係ではない。そして、いまのところ音楽がどんな工程でつくり出されるにしろ、それを聴く耳は生身の、生き物の耳なのである。

 コンサートはまず、舞台に立つ人が生きていて、演奏を聴く人が集まらなければはじまらない。さまざまな状況、個人的な情況や社会的な環境をひとまずおいて、その場所で出会い、微笑み交わすのが、コンサートという場である。なにがあっても、たとえひどい悲しみや孤独のさなかにあるとしても、その苦悩や悲哀を歌えるのは、そのひとが生きていて、その場で聴くひともまた生きているからだ。

 そんなことをもういちど思い出してしまうのも、小曽根真がソロであれ、仲間たちとの演奏であれ、聴き手の目の前でくり広げる音楽に、いつもそうした微笑みが通っているからだろう。ジャズとかクラシックとか言うまえに、彼にとって、そして私たち聴き手にとって、音楽とはどこまでも肯定的なもの。つまりは、それだけでハッピーなものである。

 もちろん、いろいろな愛があるように、ひとにはいろいろな幸せがある。そのかたちも、温度もそれぞれに違うだろう。それでも、私たちの感じる幸せは、最後にはどこかで繋がっている。ふだん簡単には信じられなくても、小曽根真のコンサートを聴いた後、フランクな気持ちになっているときなら、やっぱりそうだと感じられる。

 ここで音楽を聴いたこと、ただそれだけのことで、私たちはなにかしらの繋がりをもつ。彼の音楽はそのことに、とても率直にみえる。プレーンであると言ってもいい。屈折や葛藤、深刻な話はひとまずおいて、音楽の前では誰もが素直であるべきだ、というシンプルなメッセージを聴き手は受けとっている。その心地よさは、もちろん彼自身の身を削る経験と格闘のさきに差し出されたものだろう。しかし、どこまでいっても聴き手が彼の音楽に傷つけられることはない。それは彼がなにより音楽を幸せのひとつのかたちとして、温かな熱とともに、私たちの心に宛てているからだ。小曽根真のさまざまなステージを聴いて、挑戦であれ、冒険であれ、友愛であれ、恩返しであれ、勝負であれ、どんな場合にも、私が思うのはいつもこのことである。

 こんなふうに書いてしまうと、小曽根真の多岐にわたる音楽冒険が、ずいぶんと大雑把に、あるいは少々平たくも感じられるかも知れない。けれど、彼の音楽の語りかけはいつの場合も、あの音から始まる。まるくて、温かくて、心地よい、ハッピーな音である。彼の弾くピアノの音、この言葉で語られる以上、音楽がどれほど重大で、ときに深刻なことを語り出そうにも、聴き手はそのことに難渋な面持ちで向き合う必要はない。それが小曽根真のピアノのもつ、ポジティヴな熱量でもある。それは、どこまでもていねいで、円かな音で、つまりはチャーミングな微笑みの魔法を帯びたものだ。オスカー・ピーターソンを聴いたことがこの道に進むきっかけだったと聞いて、「ああ、なるほど」と多くのひとが思うのもたぶんそのあたりだ。

 さて、この秋にも小曽根真をひとつの太陽として開催される〈Jazz meets Classic〉は、エドウィン・アウトウォーター指揮東京都交響楽団との、ガーシュインのピアノ協奏曲ヘ調での共演が組まれている。「ラプソディ・イン・ブルー」のその先の光景で、このシリーズではラフマニノフ、プロコフィエフ、バルトーク、バーンスタインなどの名作に続いて、小曽根真が臨む協奏曲プログラムとなる。

 そして、これまでパキート・デリべラ、アルトゥーロ・サンドヴァル、ブランフォード・マルサリス、ゴンサロ・ルバルカバ、ピーター・アースキンときて、今回6年目のゲストに彼が迎えるのが自身のバンド“No Name Horses”でも情熱を重ねてきた盟友エリック・ミヤシロである。ハワイ生まれのトランぺッターで、おそるべきハイノートを華々しく駆使する名手だ。古くからトランペットは天上に近い楽器とみなされ、金管楽器の最高音を吹くが、それは言うなれば輝かしい光の柱であり、力の顕現のビームである。ガーシュインのへ調が1920年代半ばの挑戦なら、エリック・ミヤシロがソロをとるのは「悪魔のトリル」で名高いタルティーニの協奏曲、18世紀のイタリア・バロックの才気だ。小曽根真が戦間の転換期の音楽を現代に遊ぶように、エリック・ミヤシロはたちまちバロックを聴き手のもとへと強力に引き寄せるはずだ。

 オーケストラとの協演をそれぞれに熱く聴かせた後に、くり広げられる第2部のジャズ・セッションは、同時代を生きぬく小曽根真とエリック・ミヤシロの長年の友愛と信頼、だからこその真剣な挑発に充ちた〈ジャズ・セッション〉が期待できそうだ。輝きと熱に溢れる出会いの夕べは、東京の秋の始まりに、終わらない夏の夢を力強く歌い上げるものになるだろう。それを幸せと呼ぶかどうかは、聴き手ひとりひとりの心にかかっている。

 


小曽根 真 (Makoto Ozone)
ジャズピアニスト、作曲家。83年バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム『OZONE』で全世界デビュー。以来、ソロ・ライブをはじめゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド〈No Name Horses〉を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍。

 


エリック・ミヤシロ(Eric Miyashiro)
米国 ハワイ ホノルル出身。82~84年 Berklee College Of Music在席。吹奏楽、オーケストラ、学校講師、クリニシャン、作曲家、アレンジャー、プロデューサーとしても幅広く活動を広め、95年に日本国内最高のメンバーを集め、ビッグバンド、〈EM Band〉を結成。2013年に〈Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestra〉のリーダー/音楽監督として活動を始める。

 


LIVE INFORMATION

小曽根真&エリック・ミヤシロ “Jazz mees Classic” with 東京都交響楽団
○9/29(土)16:20開場/17:00開演 会場:東京文化会館 大ホール
○9/30(日)14:20開場/15:00開演 会場:オリンパスホール八王子
[第1部]タルティーニ:トランペット協奏曲 ニ長調より 第1楽章、第3楽章
ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 ヘ調
[第2部]ジャズ・セッション 小曽根真×エリック・ミヤシロ
出演:小曽根真(ピアノ)、エリック・ミヤシロ(トランペット)、エドウィン・アウトウォーター(指揮)、東京都交響楽団

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