Riccardo Muti
©ToddRosenberg Photography by courtcey of riccardomutimusic.com

SPRING FESTIVAL IN TOKYO 2024
東京・春・音楽祭

20回目の春が来る
国内最大級のクラシック音楽の祭典
例年にも増して贅を尽くしたラインアップ!

 上野の森が華やぎに包まれる〈東京・春・音楽祭〉。春の訪れを告げるクラシック音楽ファン定番のフェスが、今年で20周年を迎える。3月15日から翌月21日まで行われる今年の東京春祭は、例年にも増して贅を尽くしたラインアップだ。

 まず、目を引くのは、2つのコンプリートな演奏会だ。生誕150周年を迎えるシェーンベルク。そのすべての弦楽四重奏作品をディオティマ弦楽四重奏団が一日で演奏する。熟れまくったロマン派から無調までの流れ。これを3回の休憩を含む6時間で体験する、ヨーロッパでも珍しいハード・コアな企画だ。しかも、世界でもっとも冒険的な四重奏団のキレキレな演奏で。そして、ルドルフ・ブッフビンダーの弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会。ベートーヴェン演奏のスタンダードを提示した巨匠が、7回に渡って彼のライフワークたるソナタ全曲を弾く。これもなかなかない機会だ。

 現代音楽のスペシャリスト集団として君臨し続ける、アンサンブル・アンテルコンタンポランもフランスから来日する。ウェーベルン、クセナキス、ブーレーズ、ホリガーなどの20世紀の古典に加え、ミュライユやデュサパン、マレシュなどフランス・プログラムの2本立てがうれしい。

 音楽祭の目玉たるオペラ公演も、今年は4演目(いずれも演奏会形式)と、大盤振る舞い。マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団による〈ワーグナー・シリーズ〉は、いよいよ「トリスタンとイゾルデ」が音楽祭での初登場となる(2020年にも予定されたがコロナ禍で中止)。トリスタン役にスチュアート・スケルトン、イゾルデ役にビルギッテ・クリステンセンを起用、円熟の巨匠の指揮による至高のワーグナーが上野に響く。

 ちなみに、〈子どものためのワーグナー〉でもこの演目を取り上げる。作曲家の曾孫でバイロイト音楽祭総監督カタリーナ・ワーグナーが、子供を相手に、男女のどろどろとした熱愛をどう演出するのか。大人だってドキドキだ。

 そして、今年もリッカルド・ムーティがやってくる。ヴェルディの「アイーダ」では、国内オーケストラの首席クラスを揃えた東京春祭オーケストラからイタリアの音色を引きだす、魔法のような時間を堪能できよう。マリア・ホセ・シーリのアイーダ、ルチアーノ・ガンチのラダメスなど、歌手陣も豪華だ。

 セバスティアン・ヴァイグレと読売日本交響楽団によるR.シュトラウスの歌劇「エレクトラ」も。オーケストラとの関係をより深めた常任指揮者ヴァイグレが、濃厚な音色で鮮烈な演奏を聴かせてくれるはずだ。エレーナ・パンクラトヴァや藤村実穂子など最高水準の歌手とともに。

 恒例の〈プッチーニ・シリーズ〉では、「ラ・ボエーム」を取り上げる。イタリアを代表するステファン・ポップやセレーネ・ザネッティらによる歌手陣。世界各地の歌劇場で豊かな経験を積んできたピエール・ジョルジョ・モランディが東京交響楽団を指揮し、作曲家没後100年にふさわしい充実した演奏を繰り広げる。

 20周年を記念した、ワーグナーの「ニーベルングの指環」のガラ・コンサートも。この4部作を2014年から4年かけて全曲上演してきたヤノフスキが、4つの名場面を指揮。これまでの音楽祭を振り返るかのような好企画だ。

 これまで行われてきたシリーズも意欲的な内容だ。〈マラソン・コンサート〉は、〈《第九》への道――《第九》からの道〉。ベートーヴェンの“第九”初演200年にちなんで、この曲の室内楽版を中心にそのルーツや影響を探る。

 〈歌曲シリーズ〉では、世界を舞台に活躍するアーティストによる4つの演奏会を予定。なかでも、ルネ・パーペ(バス)とカミッロ・ラディケ(ピアノ)による、ドヴォルザークやムソルグスキーのプログラムは大きな話題を呼びそう。

 〈ディスカヴァリー・シリーズ〉は没後100年のブゾーニ特集。フェデリコ・アゴスティーニのヴァイオリンで、ヴァイオリン・ソナタ第2番やバッハのシャコンヌが披露される。〈合唱の芸術シリーズ〉もアニバーサリー。ローター・ケーニヒス指揮東京都交響楽団、東京オペラシンガーズによる、生誕200年のブルックナーのミサ曲第3番だ。

 〈ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽〉では、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲やラブルの四重奏曲などをお馴染みの名手たちが奏でる。〈ブラームスの室内楽〉では、周防亮介、小川響子、川本嘉子、向山佳絵子が弦楽四重奏曲を全3曲演奏する。ほかに注目公演として、隠岐彩夏のソプラノ・リサイタル、吉井瑞穂(オーボエ)&川口成彦(フォルテピアノとチェンバロ)のデュオ・リサイタルをあげておきたい。 

Daisuke Suzuki
©Kaori Nishida

 そして、東京春祭といえば、〈ミュージアム・コンサート〉だ。上野公園の博物館や美術館が、音楽の新たな魅力を引きだす場となる。〈東博でバッハ〉では、成田達輝(ヴァイオリン)がバッハに、山根明季子と梅本佑利の作品を加える刺激的なプログラムを用意(まるで〈東博でB→C〉だ)。同シリーズでは、鈴木大介(ギター)が無伴奏チェロ組曲とリュート組曲を2夜に渡って全曲演奏する。展示室で作品に囲まれながらの演奏が好評な上野の森美術館の〈現代美術と音楽が出会うとき〉では、三浦一馬(バンドネオン)と石上真由子(ヴァイオリン)の2プログラムが予定されている。

 どちらかといえば、レパートリーの上でも質実剛健な気風を誇ってきた東京春祭だが、近年は攻めたプログラムも目立つようになった。20年を経てさらに変化し続ける音楽祭。今年も色とりどりの華を開かせることだろう。