尾崎雄貴によるソロ・プロジェクト、warbearが繊細な詩情と壮大なサウンドスケープを展開したライヴを終えると、観客の多くが圧倒されていることを周囲の熱気から感じ取った。〈すごかったね〉〈そうだね〉と囁き合う声が聴こえる。

2016年にGalileo Galileiとしての活動を終えた尾崎は、warbearではまったく異なる志向性で音楽の探究を行っている。ドラムスを担当する実弟の尾崎和樹とたった2人で力強いサウンドを聴かせているという点でふと思い出すのは、もちろんタイプは違うが、先日ライヴ・レポートでお伝えしたKlan Aileenだ。

6月21日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで行われたTHE NOVEMBERSの〈Tour - TODAY -〉最終公演。スペシャル・ゲストにwarbearを抜擢したことからも、彼らにとってこの日のライヴが特別であることが感じられる。〈ゲスト〉というより2組の〈共演〉と言ったほうが正しいかもしれないが、この日の主役はもちろんTHE NOVEMBERSだ。転換中のフロアにひっそりと流れる、どこか不釣り合いなエリック・サティのピアノ曲が、主役への期待をじわじわと高めていく。

20時を過ぎた頃だっただろうか、ステージの緞帳が開き、高松浩史(ベース)、吉木諒祐(ドラムス)、ケンゴマツモト(ギター)が現れる。フロントマン、小林祐介(ヴォーカル/ギター)は、手を大きく振りながら登場。それぞれが楽器を構える間に、ピアノの調べはいつの間にか低くうねるノイズに変わっていく。

鳥のさえずりやコーラスらしき音も入り混じった音響空間に響き渡る穏やかなギターのフレーズ、重たいドラムスの響き、そしてマツモトが吹くハーモニカ。静謐な“melt”でTHE NOVEMBERSの演奏は幕を開ける。高松の飾り気のないベースのフレーズがどこかサイケデリックだ。

シンプルな反復を基調とした“melt”だが、次第にギター・ノイズが空間を飲み込んだかと思えば減衰し、剥き身になった歌声に水が流れる音のSEが絡みついていく。そこに響くのは、エレクトリックで抽象的な打音。最新EP『TODAY』に収録されている“みんな急いでいる”だ。実験的なプロダクションでファンを驚かせた同曲だが、ライヴではシンバルのレガートと全体的なビート感が強調され、実にドラマティック。

〈ついさっき見た花が何色だったかも/覚えていられないくらい/みんな急いでいる〉という歌詞に象徴されるように、一歩引いた客観性と優しさと脆さとが混在した、THE NOVEMBERSの新たな代表曲“みんな急いでいる”。そこから“O Alquimista”へと穏やかな楽曲を高い集中力で聴かせると、グッとテンポを上げ、疾走感溢れる“philia”へと雪崩れ込んでいく。

激しいドラムスとうなりを上げるギター、小林の〈わかっていた〉という切迫した叫びが突然断ち切られると、粗野なギター・リフが叩きつけられ、オーディエンスが大きな歓声を上げる。ファンにとってはクラシックだが、ライヴで演奏されるたびに驚きをもたらしてくれる“Misstopia”だ。

静謐な前半からは一転、中盤以降は力強いロックンロール・バンドとしてのTHE NOVEMBERSの姿を露わにする。シンプルなビートと振り絞るような小林のヴォーカルが強烈な印象を残す“Hallelujah”を終えると、小林は短いMCで観客とwarbearに感謝を伝え、「じゃあ、L'Arc~en~Cielのカヴァーを聴いてください」と“Cradle”を演奏し始める。

リスペクトの念が滲み出る、“花葬”のフレーズを取り入れた小林のギター・ソロ。カヴァーとはいえ、バンドのルーツを表明しつつ独自の解釈を盛り込んだ“Cradle”の官能的な演奏からは、彼らのコアのような部分が垣間見れる。事実、“Cradle”の演奏後には、大きく長い拍手が聞かれた。

イントロのヘヴィーなベースラインに歓声が上がる“1000年”から、怒涛のごとくスーサイドのカヴァー“Ghost Rider”へ。THE NOVEMBERSの手によってその本質が引きずり出され、性急なロックンロール・ナンバーへと変貌した“Ghost Rider”は圧倒的だ。 スーサイドのカヴァーでこれだけの大観衆を沸かせるバンドというのも、世界で彼らくらいだろう。L'Arc~en~Cielとスーサイドという2つの対照的なカヴァー・ソングでのパフォーマンスが、THE NOVEMBERSがTHE NOVEMBERSである所以を端的に語っている。

ツアー会場で販売されたライヴ・アルバム『Live sessions at Red Bull Music Studios Tokyo』にも収録された“Gilmore guilt more”は、妖しくサイケデリックな前半部と、激しいドラミングや分厚いギター・オーケストレーションによる後半部とが強烈なコントラストを生む。

「じゃあ、ガンガンいきますか」と小林が言うと、ヘヴィーな“鉄の夢”“dogma”“Xeno”を立て続けに演奏。高松と吉木のビートはさらに激しくなり、小林のヴォーカルはいつしか咆哮へと変化。耳をつんざくギター・ノイズはLIQUIDROOMを満たし、埋め尽くしていく。

“黒い虹”を終えて一息ついた小林は、再び観客に感謝を述べる。「最後はEPのなかで最初に出来た曲で、毎秒毎秒、一日一日を、少しだけ丁寧に、大事に生きてみようかなと、そういうほんのちょっとの心掛けをしているときに出来た大事な曲です」と“TODAY”を紹介。

〈感動的〉という陳腐な感想しか出てこないが、見事なクロージングで、80分超の圧巻のパフォーマンスを締めくくった。演奏が終わり、数秒の沈黙を挟んで、小林は「ありがとうございました」と言う。大きな拍手。

……が、もちろん拍手は鳴り止まない。アンコールで再登場し、小林がwarbearとの共演が念願だったことを語ると、「最後の曲の照明は明るい未来に行く感じでお願いします」「今日の照明、アーティスティックで、ケンゴくんが鬼か不動明王像みたいだったんだよね(笑)」と笑いを誘う。「おじいさんになってもこうやって爆音を出していけるように頑張ります。お互い良い時間を過ごしましょう」と呼びかけ、“いこうよ”を演奏。

妖しげなサイケデリアから激しくエモーショナルなサウンドまで、いくつもの顔を見せたこの日のTHE NOVEMBERSだが、“いこうよ”では優しく、儚さすら感じさせる轟音が観客を包み込む。

〈未来への希望〉という疑わしく抽象的な何かを、THE NOVEMBERSはロック・ミュージックでときに優しく、ときに激しく表現してみせる。それもこのバンドの核心のひとつであり、それは『TODAY』を聴いても明らかだろう。その証拠に、小林は「また良い未来で会いましょう」という言葉をフロアに残して去っていった。


THE NOVEMBERS 〈Tour - TODAY -〉
2018年6月21日(木) 東京・渋谷 LIQUIDROOM

1. melt
2. みんな急いでいる
3. O Alquimista
4. philia
5. Misstopia
6. Hallelujah
7. Cradle
8. 1000年
9. Ghost Rider
10. Gilmore guilt more
11. 鉄の夢
12. Dogma
13. Xeno
14. 黒い虹
15. TODAY
〈Encore〉
16. いこうよ