COLUMN

企画展「デザインあ展 in TOKYO」 みて、ふれて、デザインを楽しく考える。はじまりの“あ”

Exotic Grammar Vol.58-1

「抽象度のオブジェ」岡崎智弘+スタンド・ストーンズ ©SATOSHI ASAKAWA

みて、ふれて
デザインを楽しく考える
はじまりの“あ”

 夏休みともなるとお台場はそこかしこでイヴェントが花盛りで、私がおとずれた8月最初の金曜日は平日ではあるものの週末にかけて同地で開催するフェスの初日にあたったようで、りんかい線の東京テレポート駅から会場までの道々にはむくつけき男たちがひしめており、事情にうとい私は、すわこのひとびとはみな日本科学未来館に向かうのかや、と古文調で戦々恐々となったがどうやらそうではないらしい。会場に一歩足を踏み入れると、炎暑とひといきれで膨張した戸外から空気は一変、よく晴れた日の公園に似た雰囲気があたりにただよっていた。時計の針はそろそろ夕方をしめしはじめており、人出はひきもきらないが、休みの日ならかるくこの倍は数えるにちがいない。観覧客は親子づれが目につき、カップルもすくなくない。友だちとつれだった中高生らしき若者たちのみずみずしい昂揚感にひとりでやってきた中高齢の私も思わず楽しくなったが、うきうきしすぎてあやしまれてはいけないので平静を装って展覧会会場に足をふみいれる私の目の前に佐藤卓の《チューブの「あ」》があらわれる。

 『デザインあ』展はこの作品を手がけた佐藤卓が総合ディレクターをつとめるNHK Eテレで放送中の同名の教育番組を起点とする展覧会で、題名が直截に示すとおり、主題はデザインだが、デザインということばに、ことに今世紀以降、ひとがむすぶイメージはおそらくさまざまで、雑誌や書籍やポスターなどのグラフィックから、インターネット上のウェブメディアやインターフェイス、プロダクトや服飾、インテリアや空間あるいは建築までその領域は多岐にわたる。より抽象的な立案、計画、作業遂行上プロセスやフローをデザイン(的)な行為とみなせば、およそデザインと無縁の行為は現代には存在せず、そのことは本展によせた佐藤卓のメッセージにもうかがえる。「人のあらゆる営みに、デザインは欠かせません。政治・行政・経済・医療・福祉・科学・芸術・教育・地域の活動、そして日常あたりまえの生活にも、デザインとかかわりのない物事は何一つありません」そこからデザインにたいする思考と感性、すなわち「デザインマインド」の子どもたちへの涵養を目したものが番組としての『デザインあ』であり、本展は番組から派生した展覧会として二度目となる。私は残念ながら2013年の前回展を見逃したので本展との比較はできないが、ひとの親のはしくれであれば、目にしないわけがない番組をリアルに展開するにあたっての内容との相同と発展に期待は募るばかりである。

「ガマンぎりぎりライン」 柴田大平 ©SATOSHI ASAKAWA

 本展には三つのパート(部屋)にわかれている。順に「観察のへや」「体感のへや」「概念のへや」といい、いずれもデザイン(すること)になくてはならない観点を提示している。着目をとおしひとは対象を認識し、体感することで立体化し、概念を操作し把捉する、一見あたりまえなこのながれはしかし複数の行程の連鎖であり、ながれを停滞させないためには想像以上にロジカルな展開力を要する。

 「観察のへや」はお弁当や容器、マーク、あるいは私たちの名前やからだといったモノやコトがデザインをとおし、いかに私たちとつながっているかの考察が主題である。入ってすぐの「つめられたもの」は何種類かのお弁当の中身を具材ごとに分割し、どんな素材からできているかをわかりやすく例示したもの。「たまごの変身」「梅干しのきもち」(後者は弁当箱を模した大きな作品に開いた穴の下から顔を出すことで梅干しの気持ちになれるというもので、この日は子どもたちの長蛇の列ができていた)とともに、パーフェクトロンの手によるこれらの作品はきわめて日常的なモノも幾多の可変的なマテリアルの複合物であることを、等式でむすんだ分解と構築の左右項を視覚的に行き来させることで想起させる。その狙いはこのたびめでたく発売とあいなった映像盤『デザインあ』にもとづく自家調べ(娘ふたりに聞きました)でもランキングの上位に位置した番組のほうの「解散!」とも通底するものだが、番組でこのコーナーを担当する岡崎智弘は「観察のへや」にマークをテーマにした作品を出品。現代文明がいかに記号にとりまかれているか、記号はいったいどこから記号なのか、そのなりたちに目を向けさせる作品はシンプルであるがゆえに子どもには記号への気づきを、大人にはその原理への思考をうながしてくる。むろんマークばかりが記号ではない。より複雑な図案が記号として流通することもあるし、文字のように意味を担う形象も記号である。記号はあたかも言語学におけるシニフィエとシニフィアンの関係のようにふるまうが、形象的なものはシニフィアンをのりこえるように働くのである――と、リオタールは1971年の『言説、形象(ディスクール、フィギュール)』(合田正人監修、三浦直希訳、法政大学出版局、2011年)で言説を定義しながら、そこには言語体系に回収できない外部があるという。言語には意義と意味と指示の機能がある、意義(signification)はその内部における大系的な規則であり、意味とはある単語が大系の外ととりむすぶ関係だが、仏語の「意味(sens)」には「感覚」と「方向」の語義もあり、そのことは「意味」が非言語的かつ志向的であることをほのめかしている。それらをつなぐものが「指示(désignation)」であり、「この指示の空間は、言説の縁に位置する奥行きのある外在性」だとリオタールは述べるのだが、言語の外にある語り得ない形象を言語にさししめすこの「指示」なる語のうちに「design」ということばが隠れているのは、言葉遊び以上のものがありはしまいか。「示す」「表す」ことを意味するラテン語「designare」を語源にもつデザインはつねに具体的な対象をもち、本来的に「référence(参照)」的である。むろんこれは認識論であり、認識は環境とともに変化する。

「マークだけの群れ」岡崎智弘 ©SATOSHI ASAKAWA

みらいの「あ」 写真 太田拓実

 デザイン、ことに21世紀のデザインはテクノロジーの変化と同期し、リオタールがのちに著し、毀誉褒貶のはてにいまではある種のドグマと化した観もある『ポスト・モダンの条件』を脱構築——その意味で二重のドグマをのりこえようと——するものになっている。たとえば大日本タイポ組合と奥田透也の「名は顔をあらわす」は顔認証と平仮名やアルファベットを組み合わせた体験型の作品だが、ここでは文字は自動的に変形し意味から離れ形象を担っている。作品の前にすわり画面に名前を打ち込むとウェブカメラ様の撮影システムが作動し、認識した輪郭やパーツの形状にそって文字が変形する仕組みで、ためしに「まつむら」と入れると平仮名がうねうねと動き「つる三ハ○○ムし」を二枚目にしたような図像があらわれてまんざらでもなかったが、ことほどさようにメディアテクノロジー上で文字は指示機能を逃れ流動する。かつて表層と呼ばれた領域をインターフェイスへ読み換えるなら、そこではいまこの瞬間も無数の試行錯誤がおこなわれているにちがいないが、番組の映像監修を担当するインターフェイスデザイナー中村勇吾は本展開催に寄せて「つくる」ことの土台にある「みる」ことの大切さを強調する。世界をみつめることで私たちは内面を耕し、そこから生まれたものはほかのだれかをゆたかにするかもしれない。デザイン(すること)のこの無限の肯定を、観客はつづく「体感のへや」の四面マルチスクリーンで目のあたりにし、意外性とユーモアあふれる「概念のへや」の作品の数々でたわむれるように考えるころには、デザインとアートの境界線はぼやけている。じっさいテクノロジーを応用し、事物を観察しその構造を批評するデザインはメディアアートに接近し、商品化と量産で私たちの生活に肉薄する。デザインから作品を考えるとき、それが身辺雑記的な風合いを帯びるのは、したがって避けがたいともいえるのだが、それがゆえに私は、デザインはフィン・ブライトンが『スパム[spam]:インターネットのダークサイド』(生貝直人+成原慧監修、松浦俊輔訳、河出書房新社、2015年)でファッフェンバーガーの言を引いていう「デザイン関連層」に奉仕するばかりではその可能性を半減する。むろん作品の政治性の有無をデザインとアートの境界線だとみるむきもすくなくない。とはいえデザインの機能は伝達をかぎりなくシームレスにし、機構を円滑に作動させるだけではない。逆向きの、あるいは分岐する力線がシステム/プログラムを書き換え、反語的にデザインを浮かび上がらせることもあるだろう。おそらく気づきと喃語を含意する「デザインあ」の「あ」に感応した子どもたちのなかから、いつしかそのようなデザイナーが生まれることを日本科学未来館からの帰り道に私が妄想したのは、狂いはじめた地球の暑さのせいばかりではなかった。

 


寄稿者プロフィール
松村正人(Masato Matsumura)

1972年奄美生まれ。東北大学法学部卒。雑誌「tokion」「Studio Voice」編集長を経てフリーランス。共編著に『捧げる 灰野敬二の世界』『山口冨士夫 天国のひまつぶし』、監修書に「別冊ele-king」など。現在書き下ろしの新刊を準備中。ロックバンド湯浅湾のベース奏者。

 


EXHIBITION INFORMATION

企画展「デザインあ展 in TOKYO」
○開催中~10/18(木) 10:00―17:00
※入場は閉館時間の30分前まで ただし、土曜日、祝前日(9/16、9/23、10/7)、8/10~18は20:00まで開館、 常設展は17:00に終了
休館日:9/4(火)、11(火)、18(火)、25(火)、10/2(火)、9(火)、16(火)
○会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン(東京・お台場)
○総合ディレクター:佐藤卓
○映像ディレクター:中村勇吾
○音楽ディレクター:小山田圭吾
○展示構成、ディレクション:岡崎智弘/パーフェクトロン/plaplax(プラプラックス)
www.design-ah-exhibition.jp/

■山梨会場
会期:2019年4月から
会場:山梨県立美術館(山梨県甲府市貢川1-4-27)

■熊本会場
会期:2019年6月から
会場:熊本市現代美術館 (熊本県熊本市中央区上通町2番3号 びぷれす熊日会館3階)

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