多義的で幻想的な世界――まさしく夢の中の夢のような音楽

 小山田圭吾のソロ・ユニット、コーネリアスによる6年ぶり7作目のオリジナル・アルバムが完成した。タイトルは『夢中夢』と題されている。前作『Mellow Waves』(2017)が波打つように左右にパンする音像を一つの特徴としていたように、今作もタイトルの〈夢〉は全体を通底する一つのテーマとなっている。

Cornelius 『夢中夢 -Dream In Dream-』 ワーナー(2023)

 坂本慎太郎が作詞を手掛け、mei eharaをヴォーカルに迎えて発表していた楽曲のセルフカヴァー“変わる消える”では、冒頭にピッチが揺らぐ音響を追加、夢幻的世界への入り口を設ける。四方八方から折り重なるコーラスも幻想的だ。“火花”はドライヴィンなグルーヴが印象的なチューン。80年代的なシンセの響きは浮遊感漂う柔らかさだけでなく、ヴェイパーウェイヴを通過した現在からすればそれ自体が夢のようにも聴こえるだろう。METAFIVEで発表していた“環境と心理”のセルフカヴァーでも冒頭に金属的な鐘の音が追加され、辺りが鎮まるような冷えた空気を漂わせる。“時間の外で”は楽曲が進むにつれて語の繋がりが解れ、あたかも夢の中のように線条の統語構造が崩壊していく。“DRIFTS”では自由連想的に形態/意味の関連する単語が連なる。同じ仕掛けは“無常の世界”でも耳にすることができる。インストゥルメンタル作品も3曲収録されており、なかでも7分と際立って長いエクスペリメンタルな作風の“霧中夢”は、アンビエントな静けさからノイジーな場面を経て唐突に〈dreams〉と読み上げる音声も闖入する、シュルレアリスティックな音響の生成変化がアルバムの白眉を成している。

 なにがしかに夢中になる人間は一つの対象に囚われている。だが夢の世界は多義的なものだ。そこでさらに夢を見るならなおさら曖昧だろう。詩的な表現も多義的かつ曖昧である。小山田圭吾が歌い上げる言葉も一つの意味に留まることはない。多義的で曖昧な、夢の中の夢のような音楽――それは甘美であることとは似て非なる、切実で不可欠な響きであるようにも思う。