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ルイス・コールはサンダーキャットのライバル? ブレインフィーダーから新たなポップ・アーティストがデビュー!

ルイス・コール『Time』

Photo by Richard Thompson III
 

〈簡単には作れない何かを作るのがとにかく好き〉な男、ルイス・コール

「子供の頃はテレビ・ゲームばかりしていた(笑)。スーファミ(スーパーファミコン)のゲームの音楽って、めちゃくちゃカッコイイんだよ。〈マリオカート〉や〈スターフォックス〉の音楽からは、けっこう影響を受けてる。あとは、両親や友人たちが聴いていた音楽だね。それと、昔は音楽以外の変なものを作ることにハマっていたんだ。普通ではない、簡単には作れない何かを作るってことがとにかく好きだった。それはいまに通じるものがあると思うね」

そんな本人の発言を裏付けるように、ルイス・コールの最新ソロ・アルバム『Time』のオープニング・チューン“Weird Part Of The Night”は、スーファミの低ビット音源を模したような歪んだシンセ音から始まる……なんて書くと、彼の音楽を聴いたことがない音楽ファンは〈ああ、チップチューン系ミュージシャンなんだ〉と思うかもしれない。

でも冒頭の発言のキモは「普通ではない、簡単には作れない何かを作るってことがとにかく好き」のほうにある。というのも、この曲では、ドラムスが正確無比だけど生身の人間にしか生み出せないグルーヴを湛えたビートを刻みだし、マイケル・ジャクソンのようなパーカッシヴな高音ヴォーカルが午前3時から6時までハイウェイをぶっ飛ばす男の心情を歌いだすのだから。しかも驚いたことに、そのすべてがコール本人によるものなのだ!

LOUIS COLE Time Brainfeeder/BEAT(2018)

 

生粋のLAっ子でドラマーのコールは、ノウワーでも大活躍

ルイス・コールは、生まれも育ちもロサンゼルス、最終学歴も同地の南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校という生粋のLAっ子だ。ソーントン音楽学校は、リー・リトナーやトム・スコットといった優秀なジャズ~フュージョン・ミュージシャンを多く輩出している名門で、コールも当初は地元のジャズ・サークルでドラマーとしてキャリアをスタートしている。ちなみに彼がドラマーとして尊敬しているのは、トニー・ウィリアムス、ジャック・ディジョネット、ネイト・ウッド、キース・カーロックとのこと。うわっ、本格派!

そんなガチガチのフュージョン・ドラマーだと思われていた彼がポップ・フィールドで注目されるようになったきっかけは、友人のジャック・コンテ(ポップなヴィデオで知名度をあげたポンプラムースのメンバー)から勧められて始めたYouTubeだった。YouTubeで超絶技巧のドラム・プレイとユニークな自作曲が評価されるようになった彼は、大学時代の仲間、ジェネヴィエーブ・アルターディとポップ・ユニット、ノウワーを結成する。

その音楽性がどんなものかは、『Time』の2曲目に配置されたアルタディ参加曲“When You're Ugly”を聴けばだいたいわかるだろう。EDMに影響されたサウンドながら、複雑なハーモニーと諧謔性に富んだ歌詞、そしてキュートな女声ヴォーカルのコンビネーションは、まるでピチカート・ファイヴやCapsuleへのLAからの回答であるかのよう。ネット上で人気が沸騰したノウワーは、あのクインシー・ジョーンズ御大からイヴェントに招かれたり、レッド・ホット・チリ・ぺッパーズのオープニング・アクトを務めるなど大活躍。今年5月には来日公演も行っている。

『Time』収録曲“When You’re Ugly”

 

サンダーキャットのライバルがブレインフィーダーからデビュー!?

そんなノウワー名義の活発な活動を知っていただけに、コールがここにきてソロ・アルバム『Time』を発表したことには少々面食らった。もっとも、レーベルの名前を見て〈なにか理由があるにちがいない〉と思ったわけだけど。そのレーベルとは、LAニュー・ジャズ・シーンの中心人物にして、現地ヒップホップ・シーンにも顔が効く、フライング・ロータス主宰のブレインフィーダー。〈ヒップホップ時代のAOR〉とでも呼ぶべきサウンドを披露したサンダーキャットの大ヒット作『Drunk』(2017年)のリリース元でもある。

実はサンダーキャットとコールは長年の友人であり、『Drunk』収録曲“Bus In These Streets”と“Jameel's Space Ride”は2人の共作によるものだった。そして『Time』収録の“Tunnels In The Air”も2人の共作曲である。互いのアルバムで仲良く共作曲を発表し続けるなんて、まるで『Drunk』にも招かれていたマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスのようではないか。おそらくフライング・ロータスは、コールにサンダーキャットとタメを張れるようなポップ・アーティストとしての可能性を見出したのだろう。

サンダーキャットの2017年作『Drunk』収録曲“Bus In These Streets”
 

こうした期待に、コールは見事に応えている。“Everytime”や“Phone”“Things”といった曲ではLAロックのルーツといえるビーチ・ボーイズからの影響が濃厚に感じられるし、“Real Life”では、疾走感溢れる16ビートの上でゲストのブラッド・メルドー(!)が流麗なピアノ・ソロを展開。

そして“Last Time You Went Away”と“Things”では、 24 人編成のストリングスをバックに、愛の不毛が切々と歌われる。ここでのコールの歌声は、やはりLAのアンダーグラウンド・シーンからポップ・フィールドに進出して成功を収めたメイヤー・ホーソーンを思い起こさせる。

『Time』収録曲“Things”

 

ルイス・コールは未来のトレンドを予言する!?

ユニークなのは、こうしたAOR的な音楽性が打ち込みと混じり合って独自な世界を作り出していること。「普通ではない、簡単には作れない何かを作るってことがとにかく好き」な男の面目躍如だろう。

でも我が国の音楽リスナーは、『Time』で繰り広げられている音楽にどこか懐かしさを見出すんじゃないだろか。そう、本作には、70年代から活躍していた大貫妙子やラジ、南佳孝といったシティ・ポップ系アーティストが、YMOのメンバーの協力のもとでシンセサイザーやコンピュータ・プログラミングを導入して作り上げた80年代前半の作品群ととても似た感触があるからだ。

近年、サンダーキャットも一翼を担った〈ヨット・ロック〉のブームによって、海外のDJたちから日本の70年代産シティ・ポップに熱視線が注がれているわけだけど、現在のブームがひと段落した後は、80年代前半的なプロダクションにトレンドが移っていくのではないだろうか。その際に本作はそれを予言した作品として語られるに違いない……そんなことをついつい夢想したくなるチャーミングなアルバムだ。

 


Live Information
〈Louis Cole 来日公演〉

12月13日(木) 東京・渋谷 WWW X
開場/開演:19:00/19:30
12月14日(金) 京都 CLUB METRO
開場/開演:18:30/19:00
前売り:5,800円(税込/ドリンク代別)

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