INTERVIEW

トリオ・ヴァンダラー『ハイドン: ピアノ三重奏曲集』 絶妙な間合いとバランス アンサンブルの醍醐味を味わう

©François Sechet

絶妙な間合いとバランス アンサンブルの醍醐味を味わう

 ピアノとヴァイオリン、チェロの3つの楽器が、それぞれ持ち前の名人芸を発揮しつつ、1つの音楽を目指すピアノ・トリオ。かつては名手が集ったカザルス・トリオ、半世紀に渡ってこの分野をリードしたボザール・トリオなどが活躍していたが、現在このジャンルの最高峰といえば、トリオ・ヴァンダラーだ。パリ音楽院での3人のフランス人の〈出会いがなせる偶然〉が、このトリオを生んだ。

 ピアノ・トリオの魅力について、ピアノを担当するヴァンサン・コックは語る。「ソロと室内楽という両方をバランスよく持ち込んでいるので、3人のそれぞれの声がクリアに聞こえてくる。これが弦楽四重奏曲だったら、1つの声に収まってしまうでしょ?」

TRIO WANDERER ハイドン: ピアノ三重奏曲集 Harmonia Mundi(2018)

 彼らの新譜はハイドンの作品集。2枚目のハイドン・アルバムだが、キャリア最初期から、この作曲家の作品を演奏していたのだという。

 「ロマン派のレパートリーをうまく弾くには古典派から始めることが必要なのです。建築や美術も同じですよね。ハイドンは名曲をたくさん書いています。なかにはモーツァルトよりもすばらしいものがたくさんある。とくに、後期のトリオ曲は創造性が豊かに発揮された曲で、まさに傑作といっていい」(ラファエル・ピドゥ/チェロ)

 「ハイドンの和声には、大胆な試みがなされて、時代を先駆けて当時の人が聴いたらびっくりするようなことがたくさんあるんです。モダンなものに近づいてくる面白さといいましょうか。それに比べると、モーツァルト作品は傑作ではあるけれど、普通の書き方をしている。この録音で、ハイドンの面白味を強調できたらと思ったんです」(ジャン=マルク・フィリップス・ヴァイジャベディアン/ヴァイオリン)

 なるほど、トリオ・ヴァンダラーは、シューベルトやドヴォルザークを演奏しても、そこには古典的といっていい明晰さがある。それは、彼らがハイドンという作品をベースにしてきたからとはいえないだろうか。

 「もちろん、構築を重視しながら聴き手にショックを与える古典派と、感情に訴えかけてくるロマン派は違った音楽ですよ」と断りながら、コックはこう語った。「音がいつも溢れている時代だからこそ、聴くときの集中力を要する、よりすっきりした音楽が求められる。つまり、人間の本能的なバランスを取るために、そういう演奏になったのかもしれないね」

 古典派とロマン派のちょうど中間に位置するのが、シューベルトの音楽だという。このトリオの名前は、シューベルトの歌曲《さすらい人》(De Wanderer)に因んでいる。

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