INTERVIEW

PEDRO『zoozoosea』 バンド・プロジェクトを始動したBiSHのアユニ・Dが語る、ソロ・デビューの衝撃とその行方

PEDRO『zoozoosea』 バンド・プロジェクトを始動したBiSHのアユニ・Dが語る、ソロ・デビューの衝撃とその行方

〈楽器を持たないパンク・バンド〉で、彼女がベースを抱えたら――衝撃のバンド・プロジェクトを始動したアユニ・D。荒ぶるポテンシャルがこの歌で解放される!

そんな深い意味はない

 「全部変わりました。変わってないとこは変わってないけど……あの、北海道にいた頃はずっと〈毎日つまんないな〉って思ってたのが、こっち来てからはそう思わなくなりましたね。あとは人と全然しゃべれるようになったし、前よりは。まあ、私にとっては凄い濃い2年間だったけど、バンドとか長い人はホント何十年もやってたりしますから、たかが2年で〈2年もやりました!〉とか大きい声では言えないです」。

PEDRO zoozoosea avex trax(2018)

 2016年8月のBiSH加入から2年経った自身の変化をそう話すアユニ・D。その新たな試みとなるのが、みずからベースを弾いてバンド形態で歌うソロ・プロジェクトのPEDROです。しかもいきなりミニ・アルバム『zoozoosea』をセントチヒロ・チッチ&アイナ・ジ・エンドのシングルと同日にゲリラ・リリースする形でのお披露目。無告知のサプライズもお家芸となってきたBiSHながら、これは驚きの度合いも格別でしょう。さらにはアユニ自身が決定権を委ねられ、後見人の渡辺淳之介(WACK代表)と並んで〈co-produce〉とクレジットされているのも注目です。

 「今年の2月、BiSHでツアー回ってた時の大阪で、最近は忙しくて全然ライヴに来れないのに渡辺さんがいたんですよ。で、何だ?と思ったら夜に呼び出され……何か悪いことしたかな?って、初めから泣きそうになってました。そこで急にソロの話されて、楽器を弾くっていう話になったんで、もう不安しかなかったです、その時は」。

 事の発端は同作の初回生産限定盤に付属のドキュメンタリーにある通り、サウンド・プロデューサーの松隈ケンタが彼女にバンド・スタイルで歌わせてみたいと発案したこと。そもそもBiSH加入後の初作『KiLLER BiSH』における“本当本気”で存在を一気に印象づけたアユニですが、“MOON CHiLDREN”あたりから引き出されてきた独特の引っ掛かりのある唱法は、以降の“My landscape”や“SMACK baby SMACK”で顕著に。今年に入ってのシングル“PAiNT it BLACK”も彼女が力強く牽引する出来でしたし、その可能性がBiSHの今後にもたらす効果も踏まえ、プロジェクトが動きはじめたというわけです。

 「ギターでもいいよって言われてたんですけど、中学生の時にほんのちょっとだけ友達のベースを触ってたりしてて。もともとベースの音も凄い好きだったので、〈ベースがいいです〉って言いました」。

 ただ、サプライズ前提の取り組みゆえに、ベースの練習を始めて半年ほど、本人はBiSHの活動を並行しつつ、仲間にも秘密の行動を強いられることに。

 「何かのイヴェント行く途中で、深夜に車の中で寝ながら曲を聴いてたんですよ。そしたら普通にこうやって(指を動かして)ノッてしまい、それをリンリンに見られて〈この人、何かノッてる!〉とか言われたことがありました(笑)」。

 制作にまつわる諸々——12曲ほどの候補から楽曲を選び、アルバム名や曲名、曲順の確定、アートワークやMVの最終決定を行い、TDやマスタリングにも立ち会ったアユニ。本人にすべてを任されることに重圧はなかったのでしょうか。

 「めっちゃありましたね。一回決めたことも〈やっぱりな〉って凄い考えて、後から言ったりとか、めっちゃしてしまいました。メンバーにも相談できないし、全部ディレクターさんに当たっちゃったり(笑)。やっぱBiSHは曲とか気付いたら完成してるし、題名とかも決まってるんですけど、バンドさんって全部自分たちじゃないですか。そういう世間一般的な作り方をさせてもらえて、いままで見たことなかった音録りから最後まで立ち会って、すっごい大変なのも改めて知ったし」。

 もちろん〈PEDRO〉も彼女自身の命名。

 「いちばん好きな『ナポレオン・ダイナマイト』っていう映画で、冴えないオタクな感じの男の子が主人公なんですけど、その子の唯一の友達が〈ペドロ〉で。ちょうどいま映画のコラムを書く連載をやってて、いろいろ映画を観てるんで。バンド名の由来とか、そんな深い意味ないことも多いじゃないですか? そういう直感です。Dも付くし、いいかなって」。

 そうして誕生したPEDROの、荒ぶる平成最後の夏の記録こそ『zoozoosea』であります。〈図々しい〉と読むタイトルはこれまた映画からで、こちらは三木聡監督の「図鑑に載ってない虫」から取ったもの。

 「良い言葉とか記憶に残しておきたいセリフとかをメモるんですよ、全部。それで〈自殺する奴は動物園、動物園、海だー〉みたいなことを言ってたシーンが何か残ってて、おもしろかったのでそれにしました」。


頭の中を全部出した

 極度の人見知りで内向的、ヴィヴィッドで歪んだこの個性に松隈ケンタが提供したのは、BiSH以上にシンプルでソリッドなバンド・サウンド。暗い光を放つ“ゴミ屑ロンリネス”からキャッチーな“GALILEO”へ雪崩れ込む冒頭だけで、窮鼠の剥いた牙を音楽に変えたようなPEDROの魅力は明快です。印象的なのはラフな歌い口によってキレを増す言葉のキャッチーさで、「たぶん苦手」という作詞に全編で取り組んだ成果は、拭えない違和感や生きづらさを抱えたアユニのパーソナリティーを映し出しています。

 「メンヘラですか(笑)。今回は〈頭の中を全部出していいよ〉って感じだったので、全部出しました」。

 教室をモチーフにした山田健人(yahyel)監督によるMVも象徴的なリード曲“自律神経出張中”、刹那的な疾走感を痛快に纏った“甘くないトーキョー”、いずれの楽曲からも苛立ちや自虐、自己嫌悪、諦念などが溢れ返り、心に飼ってきた闇の昂りが一気に檻から放たれたかのよう。

 「別に暗さを売りにしようみたいに思ってないんですけど、元気な歌とかあんまり書けないし。やっぱこの根暗が全面的に出ちゃうので、もうそれを活かして。BiSHで作詞したのは2曲しかないんですけど〈この歌詞がいちばん好き〉とか反応してくれる方も多いので、だから孤独さとか、人間なら必ず誰にでもある感情を、私が歌うことによって救えたらいいなって思います」。

 もちろん単純に日記的なわけではなく、表題からも窺える言語感覚が個々の楽曲性に結び付いているのもPEDROらしさ。もともと“恥部”の名で書かれていた騒やかな“MAD DANCE”では作曲にも関わり、煽るようなメッセージを投げかけてきます。

 「バンドでやるってことで〈やっぱ勉強しなきゃダメだな〉って思っていろいろバンドを聴いてたら、何か〈踊れ〉系みたいなのが凄い多かったので、〈あ、こういうのがウケるのかな〉と思って(笑)。自分では絶対〈踊れ〉とかいう単語は出ないんですけど、これはがんばって演じました。こういう時こそ覚えた言葉とかいっぱい使おうと思って(笑)」。

 乱暴に歌い飛ばす“ハッピーに生きてくれ”を経てラストに置かれたのが、「自分が聴いて自分に響く曲にしたい」という意図で〈歌〉への思いを感傷的に綴った“うた”。素直じゃない部分も含めた彼女のシンプルな本音を感じてここでグッとくる人も多いのではないでしょうか。こうして幕を下ろす『zoozoosea』を本人はこう形容します。

 「裸を見られてる感っていうか、ちょっと恥ずかしいですけど、ホントに隅から隅まで私の考えとか意見を使っていただいたんで、〈私〉って感じです」。

 なお、9月25日には、PEDROとしての初ワンマン〈happy jamjam psyco〉も開催、MVにも出演しているレジェンドの田渕ひさ子(ギター)を含むスリーピースで初のライヴを披露しているはずです。BiSHも初のホール・ツアーからファイナルの幕張へ向かって慌ただしく動いていくわけですが、それと併せてPEDROの今後にも期待したくなるのは当然でしょう。

 「いままで一人だけ何かフィーチャーされるのって、ちょっと悪い言い方すると……嫌だったんですよ。そういうのはチッチやアイナちゃんがやってほしいって。けど、一人のお仕事を最近いただくようになったら、凄い全部おもしろくて、だから、やってみないとわかんないなって。こんなこと絶対できないと思ってたし、BiSHに入って、いまがいちばんおもしろいかもしれないです」。

文中に登場した作品を紹介。

 

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