COLUMN

映画「生きてるだけで、愛。」 繋がりたいのに、繋がれない現代の恋人たち

©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

繋がりたいのに、繋がれない現代の恋人たち

 生きてるだけで、ほんとにつらい。ぎりぎりの心の状態を二人でなんとかバランスをとりながら、ともに暮らす都会の男女のラブストーリー。

 他人にうそがつけず、つい言い過ぎてしまう寧子はメンタルに問題を抱えており、バイトはおろか、家事もせず、毎日、布団のなかで鬱々としている。彼女が転がり込んでいるのは恋人、津奈木の部屋。津奈木はもともと文学青年だったが、就職した出版社では週刊誌に配属され、毎日、心身ともにくたくたになるまで、ゴシップ記事を書いては、寧子のために深夜、コンビニでお弁当を買って帰る日々を繰り返していた。

 一日中、家にいて、姉とぐらいしかメールをしない寧子にとって、唯一の話し相手である津奈木。帰宅した途端、怒涛のように話しかけてつっかかってくる寧子を津奈木は刺激しないよう、受け流す。自分の気持ちがうまく伝えられない寧子。そして、一見、優しいようでいて、決して寧子に向き合おうとしない津奈木。それがまた寧子をいらだたせ、津奈木は受け入れ……負のスパイラルにはまったまま、わかり合うことも、別れることもなく、関係は続いていく。

 何もしないで、ゴロゴロと過ごし、仕事をして帰ってきた恋人に当たり散らす。一歩、間違えれば、観客の反感を買いかねない、過激なヒロインを熱演しているのは趣里。傷つくことも厭わず、届かない思いを叫び続ける寧子の苦しみを感情むき出しの生身の姿で表現する姿に、いつしか観る側もシンパシーを感じ始め、最後には「頑張って! 生きて!」と思い始めてしまう。『彼女の人生は間違いじゃない』『勝手にふるえてろ』やドラマ「ブラックペアン」など、さまざまな作品でユニークな存在感を示してきた彼女はコケティッシュなルックスとバレエ経験者ならではの美しい身のこなしが持ち味。本作でも心身ともに解放された寧子の動きがまるで羽化した蝶のように自由で、その表現力に魅了される。

 その趣里が「絶対に自分が演じたい」と強く願った寧子像の唯一無二の魅力。原作は本谷有希子の芥川賞候補となった同名小説。過剰な自意識に翻弄され、エキセントリックな行動をしてしまう25歳の等身大のヒロインは強烈でありながら、女性たちから「あるある」と思わずにはいられない、本谷でなければ生み出せないキャラクターだ。

 一方、原作では大人の男性として描かれていた津奈木を映画ではまだ20代の菅田将暉が演じている。夢も希望もあるはずの若い男の子がブラックな職場に身も心も蝕まれ、日に日に壊れていく様子がリアルで、我慢の限界に達した時の菅田の冷酷すぎる無表情が脳裏に焼き付いて離れないほどの衝撃。

 だらだらと続いていた二人の生活に変化をもたらすのは津奈木の元カノ、安堂の登場だ。津奈木とよりを戻すために寧子の存在が邪魔な安堂はしつこく寧子に付きまとい、自立を促し、ついにはバイト先まで紹介して、ちゃんと働いているか、監視し続ける。

 目的のためには手段を択ばない安堂の目的がわからなくなっていく様子がなんとも滑稽で、緊迫したシチュエーションでありながら、思わず笑ってしまう。公私ともに鬼嫁イメージが定着してきた仲里依紗の怪演も功を奏している。

 本作が長編監督デビュー作となるのはカンヌ国際広告祭で日本人初となるチタニウム部門グランプリを受賞するなど、海外での評価も高い関根光才。CM、ミュージックビデオ、ショートフィルムからインスタレーションアートまで幅広く監督・演出を手掛け、初の長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』が公開されたばかり。アートアクティビズム集団NOddINメンバーでもある監督は今回も疾走感あふれるパンクな映像センスで、都会の闇を生き抜く孤独な二人を眩いまでに美しく浮かび上がらせる。本作では脚本も手掛けており、津奈木というキャラクターを男性としての目線で膨らませた功績は大きい。

 音楽はシンガーソングライターとしても活躍している世武裕子。今年公開の作品だけで、本作以外にも『リバーズ・エッジ』『ママレード・ボーイ』『羊と鋼の森』『日日是好日』と名だたる作品を手掛けている。エンディング・テーマは彼女と詩人の御法町凧による「1/5000」。韻を踏んだ歌詞が物語の終わりに豊かな余韻を与え、祈るような気持ちにさせられる。

 自分以外、誰もがまともそうに見えるのに、実はみんな心の闇を抱えている現代。話し合えば繋がれそうなのに、誰もそうせず、孤立している。向き合わないことは本当の優しさなのか。相手を気遣えば、距離が生まれ、一歩を踏み出さなければ、距離は縮まらない。他人から見れば、うまくいっている恋人同士に見えても、その実態はわからない。繋がりたいのに、繋がれない現代の恋人たち。

 一言でラブストーリーといっても、いろいろな形がある。時代を変えて人々が変わっていくように、愛の形も複雑に変化を遂げてきたことを改めて考えさせられる、いまを切り取った真の愛の物語だ。

映画「生きてるだけで、愛。」
原作:本谷有希子(『生きてるだけで、愛。』(新潮文庫刊)
監督・脚本:関根光才
音楽:世武裕子『1/5000』(ポニーキャニオン)
出演:趣里 菅田将暉 田中哲司 西田尚美/松重豊/石橋静河 織田梨沙/仲 里依紗
配給:クロックワークス(2018年 日本109分)
ⓒ2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
http://ikiai.jp/
◎11/9(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー!

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