ライター/編集者の大石始がナヴィゲーターとなり、活況を呈するアジア各地の音楽シーンの〈いま〉を当事者たちへのインタヴューでお伝えする連載〈アジアNOW!〉。第6回には柴田聡子との対談も好評だったイ・ランが再登場。彼女と同時代を生きるシンガー・ソングライター、折坂悠太との濃密な対談をお届けします。折坂は先日、ニュー・アルバム『平成』を発表したばかりで、そのリリース・ツアー(東京と大阪公演はすでにソールド・アウト!)も目前。対談では、今年もっとも注目を集めた音楽家のひとりである折坂の率直な心境も明かされています。 *Mikiki編集部

 


強烈な歌声とカリズマティックなライヴ・パフォーマンスが話題を集めているシンガー・ソングライター、折坂悠太。新作『平成』では、ブラジル音楽やブルース、各地の民族音楽などを縦横無尽に横断しながら、彼ならではのタイムレスで力強い歌世界を展開。その内容から、〈2018年の年間ベスト・アルバム〉との声も上がっている。

今回はそんな折坂と韓国のシンガー・ソングライター、イ・ランの対談を企画した。2010年代のソウル・インディー・シーンの象徴的存在であるイ・ランは、映像作家やエッセイストとしても活動。『ヨンヨンスン』(2012年)や『神様ごっこ』(2016年)などのアルバムで知られるほか、エッセイ集「悲しくてかっこいい人」の日本版もまもなく刊行される予定。たびたび来日公演を行っており、日本のシーンとの交流も深い。

時代や社会と対峙しながら、みずからの言葉と歌を紡ぎ出してきた2人。折坂は89年生まれ、イ・ランは86年生まれと、ほぼ同世代である彼らは、歌によって何を伝えようとしているのだろうか? 日韓の注目シンガー・ソングライター2人による対話をお届けしよう。

折坂悠太 『平成』 ORISAKAYUTA/Less+ Project.(2018)

 

悠太さんの歌は私がいままで聴いてきた日本の音楽とは全然違った(イ・ラン)

――お2人は初対面ですよね。それぞれの作品は聴きました?

イ・ラン「私はYouTubeでビデオ・クリップをいくつか観ました。アルバムのデータをもらったときは東京にいたので、ダウンロードできなくて」

折坂悠太「イ・ランさんの存在はもちろん以前から知ってました。自分の悪い癖なんですけど、〈この音楽家はすごい人だ〉と思うと……」

イ・ラン「聴きたくなくなる?」

折坂「そうそう(笑)。聴くと自信がなくなるんですよ。イ・ランさんもずっと聴けなかったんですけど、今回そうも言ってられず最新作(『神様ごっこ』)を聴きまして」

――どうでした?

折坂「まんまと自信がなくなりました(笑)」

イ・ラン「あはは(笑)」

折坂「訳詞を見ないで聴いたときに感じたものと、実際に訳詞を読んだときに受け取った感覚が同じだったんですよ。フランク・オーシャンの『Blonde』(2016年)を聴いたときにも同じ感覚を持ったんですけど、歌声と感情がぴったり合っていて、なおかつ言葉がそれを補っているというのは、歌としてすごいことだと思うんです。あと、聴いているうちに自分が知っているいろんな人のことを思い出しました。〈あ、これはウチの姉ちゃんのことだ〉と思ったり」

イ・ランの2016年作『神さまごっこ』収録曲“世界中の人々が私を憎みはじめた”

――自分とまったく違うものを感じて驚いたというより、自分に近いものを感じたということですよね。

折坂「そうですね。もちろんイ・ランさんの持っているルーツであるとか体験、個人的な記憶というものは僕にはわからないけれど、曲を通して〈僕も知っているあのことだ〉という感覚を持つことができたんです」

――イ・ランさんは折坂さんの歌を聴いてどう思いました?

イ・ラン「最初、すごく印象に残ったのは、悠太さんの声でした。日本のバンドの音作りとヴォーカリストの声にはちょっと閉じこもったような感覚があったんだけど、悠太さんの歌は私がいままで聴いてきた日本の音楽とは全然違った。外に向かって突き破っていくような感じ」

折坂「うれしいですね」

イ・ラン「まあ、私が知ってる日本の音楽といっても範囲が狭いんだけど(笑)、どれもすごく演奏が上手で、完璧な曲を作り上げるためにひとつひとつの音を丁寧に積み上げている印象がある。でも、ひとりひとりの色や存在感があまり感じられないというか。韓国の場合、私もそうだけど、みんな演奏がヘタクソ。好き勝手にやってる感じ」

――そうかな? 逆に韓国のバンドのほうが技術志向が強いというか、演奏力が高い感じがするけど。

折坂「僕も韓国のほうが断然うまいと思う(笑)」

イ・ラン「みんなお酒を飲んでラフに演奏してるだけ(笑)。韓国の場合、コンビニに並んでる商品もみんな勝手に作って、偶然うまくいったものが並んでる(笑)。日本はどれも素晴らしくて、すごく魅力的なんだけど、どういう人が作ったかということはあまり重要じゃない。初めて日本に来たときはどこも綺麗で、静かで、整理整頓されてて感激したけど、韓国とはずいぶん違うと思った」

折坂「こないだライヴで韓国に行ったときに逆のことを思いました

※編集部注:折坂は、7月21日にソウルのKT&Gサンサンマダンで、22日にカフェ・ルルララで初の韓国公演を行った

イ・ラン「韓国に行ったのは初めて?」

折坂「そうそう。例えば買い物をするにしても、日本は何か大きなものに買わされている感じがするんですよ。自分の意志とは違うところで買わされているというか。そのことに閉塞感を感じることもあるんですよね。

ソウルの場合は、確かに勝手に建物が建っていて、勝手に商品を売ってる感じがする(笑)。音楽もちょっとそういう感じがあるけど、僕からすると、それが逆に居心地がよくて、息をしやすいんですよ」

イ・ラン「でもね、韓国はライヴハウスのセッティングがめちゃくちゃ。いい音を出そうとしてもなかなかうまくいかなくて、すごくストレスが溜まる。日本のライヴハウスは細かいところまでチェックしてくれるし、いつも安心して演奏できる」

――お客さんの反応もだいぶ違いますよね。

イ・ラン「全然違う。韓国はみんな自由に楽しんでるけど、日本のお客さんはみんな静か。〈全然反応がないから今日はダメだな〉というときでも、あとから〈すごく良かった!〉と言われる(笑)」

折坂「日本でライヴをやるときって、いくらやり慣れているライヴハウスでも、イチから始めないといけない感じがするんですよ。いつも自分のことを初めて観るお客さんの前で演奏してる感じ。でも、韓国の場合は最初からライヴを観る準備ができていて、1曲目から楽しんでくれてる。〈こんなに自分のことを受け入れてくれるんだ〉という喜びがありましたね」