11月27日(火)、GRAPEVINEが東京・新木場STUDIO COASTにて〈club circuit 2018
〉の東京公演を開催。アルバム・リリースのタイミングで行われるツアーと異なり、比較的マニアックな楽曲も含む自由なセットリストでおなじみの〈club circuit〉が行われるのは約3年ぶり。そのツアー・ファイナルということで、この日のチケットはソールドアウト。超満員の観客が会場に押し寄せた。

レトロでムーディーなBGMが鳴り止み、照明がつくと亀井亨(ドラムス)、西川弘剛(ギター)、金戸覚(サポートメンバー/ベース)、高野勲(サポートメンバー/キーボード/ギター)、そして田中和将(ヴォーカル/ギター)が舞台下手から登場。〈はいこんばんは、新木場、東京! 旅から帰ってきたぜ。東京は久しぶりですね〉と田中がオーディエンスにフランクに語りかけるが、場内はシーン。〈なんか言えや!〉と言って笑いを誘うと、そのまま打ち込みサウンドから甘いギター・フレーズを奏で、1曲目の“ピカロ”へ。伸びやかな歌声で一気に観客を引き込んでいく。

 

舞台に6つ置かれたライト・スタンドの照明のなかで、バンドが一音一音を着実に鳴らす“SATORI”、エレキからアコギに持ち替えた田中が浮遊感のなかに芯の強さのある歌声で歌う“1977”とパフォーマンスが続き、本日最初のMCタイムへ。唐突に〈新木場~!!〉と田中が叫ぶと、場内からは驚きと共に喚声が。〈今年からそういうバンドになってます。ウソです〉〈21周年記念ツアーの最終日だからと言って、何の考えも抱いておりません。なぜならば来年は22周年記念ツアーをするからです〉と再び観客を笑わせにかかる。今年はリリースもなく、フェスやライヴの出演を中心に活動してきたGRAPEVINE。〈フェスで観て、ベスト盤とかYouTubeとかで予習して来てくれた方もいるかと思いますけど、こうやってつきかけたお客さんを一網打尽で突き放していく独自のスタイルです。どうかご支持を〉と、1曲目からアルバム曲だったことを自虐的に笑いに変えていく。〈盛り上がる人は盛り上がる、寝る人は寝る、歌う人は歌う、自由にごゆるりと、お気楽に過ごしていったらいいなと思います〉と言うと、アコギで“East of the Sun”のイントロを弾き始める。

 

淡々としたなかに甘酸っぱさや切なさの詰まった“East of the Sun”だが、田中が最後のギターを〈ジャーン、ジャッ〉っと何度も弾き、演奏をなかなか終わらせようとしない一幕も。続く、明るく朗らかな“TOKAKU”や、ライヴでの披露は久しぶりとなる “その日、三十度以上”では、田中が情感たっぷりに歌い上げ、それに応えるオーディエンスは身体を揺らしたり手を挙げたりと、先の言葉通り自由にリラックスして演奏を楽しんでいた。

 

かと思えば、バンドの表情は一変。ダークで怪しい“FORGE MASTER”では田中がギターを激しく掻きむしり、金戸のうねるベースや、西川のリヴァーブが効いたギター・ソロで幻想的な空間を作り上げていく。続く“MAWATA”は孤独で内省的なサウンドで、STUDIO COASTをダークなダンスホールに変身させる。ギターの強烈なフィードバックはそのまま“マダカレークッテナイデショー”へ。ファンキーなリズムに合わせ、田中がしゃがれた声で歌いながら手を挙げると、オーディエンスもそれに応えて手を挙げ、全員ノリノリでホールを揺らしていく。何とも不可思議な歌詞を歌い上げた田中はアウトロでも〈こんばんは新木場~!! 旅から帰ってきたぞ~~◎$♪×△¥●&?#~~!!〉といたって上機嫌。金戸の荒々しいベース・ソロも加わり、大歓声が巻き起こる。

 

観客をブチ上げたところで、またしてもクールなGRAPEVINEへ様変わり。キーボードを奏でる高野の方を向いて田中がアコギを弾くと、“Weight”でしっとりとクールダウン。間を開けずに“Dry November”へ移ると、マレットを使った亀井の柔らかなドラムスや、高野のスティールギターを含む3本のギターが絡み合い、幻想的で夜の海のようなワルツを奏でていく。トリッキーなフレーズを組み立てた “BABEL”では田中と西川がダブル・ヴォーカルで歌い、西川はギター・ヒーローっぷりも十二分に披露。高野のシェイカーやマラカスも隠し味として効果的に響く。そして、亀井のシンプルなドラムスのリフレインとキラキラしたギターの音色が耳に残る“Silverado”で、クールなGRAPEVINEゾーンは幕を閉じる。

 

〈きゅ~け~! 休憩のお時間です!〉そう田中が告げると、〈もう年末でございますな。これが終われば今年はお前らの顔を見ることは二度とないんじゃないかな〉と言い、またしても場内からは笑いが起こる。〈でも来年またよろしくお願いしますね。みなさんのおかげで今年もええ年やった。はい、休憩終わり! 後半怒涛の600曲行くぜ!〉と最後まで冗談交じりの田中だった。

 
 

亀井の生ドラムスと打ち込みが融合し、各パートが好き勝手やっているようで絶妙に揃う“HESO”、旅立ちを感じさせる歌詞やキャッチーなサウンドはリリースから20年経っても色褪せることのない“白日”、冒頭のギターだけで喝采が起きる性急なロック・ナンバー“シスター”、挙げた手をイービルサインにして観客ともども感情を大爆発させる“EVIL EYE”と、危険なナンバーが相次ぎ、フロアーは大熱狂。続いて田中が美麗なハイトーン・ヴォイスの“公園まで”で爽やかな風を吹かせると、三たび〈21周年ありがとう~! 新木場~~! 来年もよろしくね~!! じゃあラスト!!〉と言い放ち、ラスト・ナンバー“うわばみ”へ。優しさ、切なさ、苦悩、強さを内包した渋みのあるミディアム・ロックで本編を締め、大歓声と大きな拍手に包まれながら5人はステージを後にした。

 

しばらくの鳴り止まないアンコールに応えて再び現れた5人。ビール(それともノンアルコール?)を呑みながら田中は〈アンコールサンキュー新木場~! 同じことばっかり言って、おっさんが酔っ払ったみたいだな〉とまた笑いをとる。〈何も告知はないんですよ。よし、アンコールやるぞ!〉と言うと、伸びやかなヴォーカルが特徴の“KOL”、トリプル・ギターと力強い歌声の“Reverb”を熱演。〈大ヒットシングル“Reverb”でした〉とオチもつける田中。そのまま、観客を一人一人見つめながらうなずくように歌うバラード“会いに行く”や、吠えるような金戸のベースから始まるヘヴィーなナンバー“ナポリを見て死ね”へ突入していく。

 

“ナポリを見て死ね”のタイトルとかけて、田中が〈今日は看板を見て死んでくれ。いや、死んだらあかん。看板に何か書いてあるらしいぞ、何か知らんけど〉と意味深なセリフを言い放つと、本日本当のラスト・ナンバー“Arma”をパフォーマンス。ここまで20曲以上を歌ってきたとは思えない美しさや、音源以上の力強さを感じさせる田中の歌声。勇気が湧いてくるような5人の演奏。盛り上がりと共に次第に明るくなる客席。演奏が終わり、この日一番の拍手と歓声が沸き起こると、田中はまたしても〈どうもありがとう~! 外でなんか見て帰ってね~!〉と言い、5人は軽く礼をしてステージを後にする。

――そして、熱狂冷めやらぬなか我々がSTUDIO COASTを飛び出すと、正面にはこんな文字が映し出されていたのであった。

 

聴いた人を幸せにしたいわけでもなければ、
勇気づけたいわけでもない。
重要なのは、音楽を聴いたすべての人が直面するであろう、
或いはしているであろう、現実という名の「光」なのだ。

田中和将(GRAPEVINE)

GRAPEVINE
2019.2.6(wed) NEW ALBUM
ALL THE LIGHT

 

GRAPEVINE club circuit 2018
2018年11月27日(火)東京・新木場STUDIO COAST

セットリスト
1. ピカロ
2. SATORI
3. 1977
4. East of the Sun
5. TOKAKU
6. その日、三十度以上
7. FORGE MASTER
8. MAWATA
9. マダカレークッテナイデショー
10. Weight
11. Dry November
12. BABEL
13. Silverado
14. HESO
15. 白日
16. シスター
17. EVIL EYE
18. 公園まで
19. うわばみ
~Encore~
20. KOL
21. Reverb
22. 会いに行く
23. ナポリを見て死ね
24. Arma