EVENT & LIVE REPORT

GEZANは君の孤独を救わない。ただ1人のまま踊らせ続ける

渋谷QUATTROワンマンをレポート

GEZANは君の孤独を救わない。ただ1人のまま踊らせ続ける

怪獣が渋谷の街を歩いている。この渋谷CLUB QUATTROのすぐ傍を、幾頭もの巨大な怪獣が。2019年1月24日、東京・渋谷QUATTROで開催されたGEZANのワンマン・ライヴ〈BUG ME TENDER vol.14 -TOKYO- 4th album "Silence Will Speak" release gig〉の最中、筆者の脳裏に浮かんだイメージである。終演後、外に出ると109の看板も駅前の巨大モニターも剥がれ落ち、廃墟と化した街が眼前に広がっているのではないか。妄想がすぎると承知だが、サウンドもパフォーマンスもそう感じさせるほどの破壊力。圧巻のライヴだった。

とはいえ、何かとてつもないものを目撃できるのではないか……と事前から期待もしていた。なんせ〈凄い〉と定評のあるGEZANのライヴに、内田直之がPA、rokapenisがVJで加わるのだ。前者はLITTLE TEMPOやDRY&HEAVYのメンバーであり、日本屈指のダブワイズ/ミックス・エンジニア。後者はBLACK SMOKERのパーティーや〈MIDIsai〉などを彩ってきた、国内アンダーグラウンド・カルチャーが誇る映像作家。まさに鬼に金棒の組み合わせである。だが、実際のライヴはその予想を遥かに凌駕した。

オープンから1時間はDJの行松陽介がフロアを温める。開場時間の直後にQUATTROへと到着すると、ちょうど行松がアンビエントなサウンドにゆっくりと4つ打ちのキックをフェードインしていくところであった。序盤はサンズ・オブ・ケメットなどをスピンしていたが、何か他の楽曲をミックスしていたのだろうか。音源で聴いているのとはまったく違って聴こえるベースの立体感、キックの音圧に驚く。

セットの中盤以降は、GEZANの最新作『Silence Will Speak』にエンジニアとして参加していたスティーヴ・アルビニ関連の楽曲を中心に、パンクやロックもプレイ。大型トラックがせり出てくるかのような迫力でビッグ・ブラックの“Heartbeat”がミキシングされたときは鳥肌が立った。それ以外でもループ機能を使ってメタリックなギター・リフを反復させ、カットアップ的に聴かせるなど、スキルフルな技で飽きさせない。ふとDJブースを見ると、行松は開場時に着ていたbloodthirsty butchersのTシャツを脱ぎ、いつの間にか上半身裸になっている。その後も胸筋をプルプルと震わせながらヘヴィーなハードコア・パンクを会場に響かせていた。

ニルヴァーナやスマッシング・パンプキンズらの人気曲をかけても空寒くならないのは、行松ならではの文脈を作ったうえでスピンしているからだろう。その後も杏里の“オリビアを聴きながら”とインダストリアルなビートを(あえてBPMを合わせずに!)ミックスし、会場の空気を張り詰めさせる。最後はピクシーズの“Where Is My Mind?”からグローバル・コミュニケーションの“12:18”へと繋げ、アンビエントなサウンドでフロアのムードを厳粛に。やがて客電が暗くなっていった。

ステージから8本の赤い光線が一斉に客席へと放たれる。その神々しい光景は、映画「ブレード・ランナー」のオープニング・シーンを彷彿とさせた。よく見ると光源はプロジェクター。この日、rokapenisはステージに映像を映し出すのではなく、8台のプロジェクターを客席に向けライティング装置としてVJを行っていた。そのトリッキーな使い方に〈こうきたか〉と唸る。そして、オーディエンスが真っ赤な光を陶然と見つめるなか、いよいよGEZANがステージに登場。イーグル・タカ(ギター)、石原ロスカル(ドラムス)、カルロス・尾崎・サンタナ(ベース)、マヒトゥ・ザ・ピーポー(ヴォーカル)の順に下手からステージに表れた。

この日の1曲目は『Silenece Will Speak』から“優陽”。ロスカルがドドッとドラムを叩いた瞬間、会場に緊張感が漂う。そして、カルロスの強弱を効かせたベース・プレイと、イーグルの多彩なギター・ワークが、楽曲にくっきりとした輪郭を与えていく。マヒトの歌はまさに変幻自在の一言。童がわらべうたを歌うかのようなプリミティヴな表情を見せたと思えば、その次の瞬間にはドスの効いた咆哮を響かす。〈夕陽の赤色は人のみていい光じゃない〉と歌われる箇所では、ステージも強烈な赤に染まった。

2曲目は、ドゥーム・メタルとホラー・コアを掛け合わせたかのような“NO GOD”。続いて前作『NEVER END ROLL』より“wasted youth”を演奏した。マヒトが〈wasted youth〉と叫ぶと、会場も大声でレスポンスする。コーラスの手前ではイーグルとカルロスが一斉にジャンプし、間奏パートに入ると早くもマヒトは客席にダイヴした。

それにしても、PAの内田直之の手になる、この日の出音は凄まじい。“NO GOD”のようなスロウでヘヴィーな楽曲であれ、“wasted youth”のようなパンキッシュでスピーディーな楽曲であれ、音のひとつひとつが見事に立っている。その質感としては硬く鋭い。にもかかわらず耳を突くような痛さはほとんどなく、重量感がむしろ心地いい。GEZANというバンドの持つ、攻撃性と包容力の両方を具現化したようなサウンドであった。

「2019年狂いはじめって感じでよろしくお願いします」とマヒトがMCで告げ“BODY ODD”の演奏がスタートすると、フロアはさらに熱を帯びる。音源ではCAMPANELLA、ハマジ(KK manga)、LOSS(ENDON)、カベヤシュウト(odd eyes)、OMSBといった強面のゲストが参加した同曲。マヒトみずから「これが今夜のハイライト」と吐き捨てマイク・リレーの口火を切るが、なかなかゲストが出てこない……と思った矢先、東京・北新宿を拠点に活動するハードコア・バンド、HIMOからsyucreamが登場。その後も屈強な面々がステージに出てきたのだが、ここでは詳細を割愛。理由は後述する。

マヒトの言葉通り序盤の沸点が“BODY ODD”だったのは間違いない。が、その直後から始まった『Silence Will Speak』以降に作ったと思しき新曲群の、約30分に渡るパフォーマンスはそれ以上の衝撃だった。“Extacy”というタイトルの楽曲からスタートした同セット。サンプラーを使ってループさせた声を何層にも重ね、次第に4つ打ちのドラムとヒプノティックなギターを加えていく。

まさに人力トライバル・ハウスといったグルーヴであり、筆者が想起したのはアイヌ音楽の伝説的な歌い手、安東ウメ子の楽曲をニコラ・クルースらがリミックスした『Ihunke Remixes』(2018年)。同EPにおけるアイヌの歌と中南米の密林グルーヴが混ざり合った魔術的なダンス・フィールが、GEZANの新曲にも備わっていた。なぜこのワンマンのDJとして、彼らは行松陽介を必要としたのか。その理由も垣間見えた。

さらに驚くことに、この新曲セットでは曲間をまったく作らず、まさにDJが楽曲を次々とミックスしていくかのように、シームレスに次のナンバーへと移行していく。正直、後でセットリストを確認するまでは、いったい何曲やったのかもわからなかった。

加えて、四つ打ちが延々と続くわけではないのが、このバンドの一筋縄ではいかないところ。ビートを2倍にして高速ダンスホール(“replicant”?)にモデルチェンジしたり、拍の強弱を変えてポスト・ハードコア(“DAMN”?)になったり、鋭利なリフを持つスラッシュ・メタル(“AGEHA”?)になったりと、どこに連れていかれるのか着地点を予想できない演奏が続き、オーディエンスは振り落とされまいと必死に身体を揺らせるほかない。

中盤ではふたたび4つ打ちに戻り、イーグルとカルロスもスティックを持ってドラムを囲む。3人のリズム・セクションがパーカッシヴなビートを繰り出すと、マヒトは何度も〈FREE REFUGEES RIGHT NOW〉と叫んだ。母国での戦火や内乱を逃れ、遠い地に辿りついた人々が受け入れられず、あげく非人道的な扱いを受けているという事実。GEZANは、そうした現実に対して声を上げずにはいられず、“FREE REFUGEE”という曲が生まれたのだろう。エクストリームでめちゃくちゃなようでいて、GEZANは極めてまっとうなバンドである。ストイックにみずからの正義を貫き続けているからこそ、ジャンルやシーンを跨いで多くのミュージシャンやリスナーを魅了し続けるのだ。

新曲パートの最後は“東京”と名付けられた楽曲。彼らが大阪から上京して約7~8年になるかと思うが、歌でこの街を描いたのは初めてなのかもしれない。東京という街に対してマヒトが抱く諦念と希望の両面を映したエモーショナルなナンバーだ。

今年控えているというUSツアーについてのカルロスのMCを受け、マヒトが「驚くべき情報なんですけどアメリカにも夕陽はありました」と語り、“ambient red”を演奏。次の“龍のにほい”は、〈もしも居場所がもう どこにもなかったのなら 歌の中に住んでいいよ〉という言葉がたまらなく優しい。フロアを見渡すと、涙を流している人もいる。マヒトのカリスマティックなヴォーカルの求心力に加えて、イーグルとカルロスの人間味溢れるコーラスがこの歌に羽を与えている印象だ。

そして『Silence Will Speak』屈指のアンセミックな楽曲“DNA”に突入。〈あー 本当の世界が 今 スタートさ〉――何かが変わりゆく瞬間を捉えた歌詞をオーディエンスも大合唱している。それにしても、〈この歪みこそが愛だよ〉と歌われるパートで、イーグルがギターを高く掲げてノイズを発するさまは、何度観ても格好良い。ロスカルのドラムは音源よりさらにタイトになっていて、細やかなフレージングを正確無比に叩くスティック捌きに惚れ惚れしてしまう。

マヒトが「別に誰が変えなくても時代は変わると思っている。新しい時代の新しい差別が生まれているけど、それに対抗する新しい優しさは思考停止のままな気がしていて、(その答えを探すのに)今夜も挑戦できて良かったです。GEZAN!」とMCで伝え、本編の最終曲“忘炎”がスタート。〈エンドロールのあと〉に現出した〈新しい世界〉の〈ファンファーレ〉たる1曲だ。楽曲の後半では、マヒトの咆哮と大音量のノイズが渾然一体となり、身体が小刻みに震える。足に力を入れないと立っていられないほどだった。

一度メンバーがステージを降りるも、万雷の拍手とアンコールが当然やまず、4人が再登場。2014年のセカンド・アルバム『凸-DECO-』から“蒼白のとおく”を演奏した。メンバー・チェンジ――前任ドラマーのシャーク・安江が抜けロスカルが加入――や2017年より大阪で開催している〈全感覚祭〉、そしてUSツアー&レコーディングを経て、何周りも大きく成長したGEZAN。逞しさを増したアンサンブルが、この楽曲のスケール感をさらに大きくしている。艶やかなサイケデリアを余韻に残し、ふたたび彼らはステージを去った。

事前のセットリストを見ると“蒼白のとおく”が最終曲となっており、当初はこの曲でライヴを終えようとしていたのだろう。ゆえにセカンド・アンコールは予定外だったはずだが、意外にもこの日のGEZANは応えた。みたびステージに表れると、マヒトがカルロスに「お前、“blue hour”とか“Absolutely(Imagination)”とかやりたい感じやんな?」と話しかけ、オーディエンスも沸く。だが、マヒトが選んだのは、なんとこの日2回目の“BODY ODD”。「気付いた人もいるかもなんですけど、(最初にやったとき)本来いるべき人が1人来なくてゴチャゴチャしたんですよ。リヴェンジでもう1発やります!」と叫び、あの不穏なギター・リフが鳴り響く。

1回目に遅刻のため登場できなかった鎮座DOPENESSがマヒトからマイクを受け、〈決まった時間にくるだけ/キマった瞬間は/いまいまいま〉とアクの強いフロウでフロアをロックする。その後は、1回目と同じ面子――syucream、Taigen(BO NINGEN)、LOSS、蛯名啓太(Discharming Man)、OMSBが相次いで登場。2テイク目で力を抜くどころか、全員がさらに暴れ回り、力の限りに言葉を発していた。

個性的かつ強靭な面々が次々にステージに上がっていくさまは、地鳴りのごとき低音と不穏なギター・サウンドと相まって、まるで獰猛な怪獣たちによるバトル・ロイヤル。フロアでもいたるところにモッシュピットが出来て、会場全体がカオスの渦に巻き込まれていく。踊ってばかりの国の下津光史が全力疾走でステージを駆け抜けダイヴしていたのには、笑ってしまった。OMSBを経てマイクがマヒトに戻ってくる。正真正銘の最後、彼は何度もこう叫んだ。〈Welcome To New World〉と。

GEZANが『Silence Will Speak』で獲得したヘヴィネスと〈新しい世界〉へのヴィジョン。この日のライヴは、その前者をみずからの血肉に変えたことを証明したうえで、後者を具現化したものだった。圧倒的な音の塊と言葉の鋭利さでハリボテの世界をひっぺがし、新世界の風景を音に焼き付ける。それはあまりに破壊的かつダイナミックで、冒頭に述べたとおりカタストロフを目撃しているかのような快楽さえあった。

そうしたアングルからすると、4つ打ちのビートを採り入れ、ヒプノティックでダンサブルなサウンドを鳴らした新曲群は、瓦礫のはてに立ち上がった祝祭のための音楽とでも言えるのではないか。GEZANが新たに体現しようとするダンス・ミュージックは、EDM的なアゲ感はおろかハウス・ミュージック的な共同体を志向する感覚さえも希薄だ。それは、オーディエンスを踊らせながら、徹底的に〈弧〉へと立ち戻らせていく。この日、筆者は無我夢中で踊りながら、ピート・タウンゼント(フー)のある言葉を思い出していた。それは〈ロックンロールは君の問題を解決しない。ただ悩みながら踊らせる〉というフレーズ。そして、この日会場の入り口にはバンドの想いを記したパネルが提示してあり、そこにはこんな言葉が綴られていた。

ステージの上で許された時間には限りがあり、できるだけ音楽に使いたいからあらかじめMCをここに記しておこうと思う。
まずはこの現場を選んでくれたこと、ありがとう。数分後、フロアには複数の人が集まり、一つの音を浴び、一つの空間を共有することになる。
だが、そこにはUNITYへと導く共同意識や一体感は存在しない。
わたくしたちなどどこにもなく、エントランスを通った数のわたしがただ存在するだけだ。どれだけ使い勝手がよくても、数で武装した集団はその大小に関わらず、数によって追い詰められることを知っている。

全てのマイノリティはどれだけ寂しくとも、その孤独を手放してはいけない。
圧倒的に突き抜けた個の先ではじめて連帯はある。
これから鳴らされる音楽はそんな一人ぼっちのためのサウンドトラックだ。

タウンゼントの言葉を拝借して、GEZANを捉えるのであれば、自分はこう書くだろう。「GEZANは君の孤独を救いやしない。ただ1人のまま踊らせ続ける」

 


〈BUG ME TENDER vol.14 -TOKYO- 4th album "Silence Will Speak" release gig〉
2019年1月24日 東京・渋谷QUATTRO

セットリスト
1. 優陽
2. NO GOD
3. wasted youth
4. BODY ODD
5. Extacy
6. repricant
7. DAMN
8. AGEHA
9. FREE REFUGEE
10. 東京
11. ambient red
12. 龍のにほい
13. DNA
14. 忘炎

アンコール
15. 蒼白のとおく
13. BODY ODD

 

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