The Power Of Good-Bye
悲劇と葛藤を力強く跳ね返して時代を掌握したアリアナ・グランデ。先行シングルが過去最高のヒットとなるなかで早くも届いた新作はその品格を決定付ける大作となった!
ARIANA GRANDE 『thank u, next』 Republic/ユニバーサル(2019)
背景の重さを包む軽やかな振る舞い
強さが前に出ているのは、もちろん強くないからであって、デリケートな部分から生まれた作品だからこそ、背景の重さを包む軽やかな振る舞いが行き届いている。ジャネット風の浮遊感を纏った“thank u, next”がキャリア最大のヒットになり、それが下世話な期待への洗練された回答に終わらずアルバムにまで発展したのは、創作すること自体が再生のプロセスであったからだろう。あるいは、制作時の気分が現在とまるで異なる『Sweetener』をディスコグラフィーの末尾に置いておきたくなかったのかもしれないが、ともかく結果的に前作は敢然と〈過去〉になった。
デビュー時から全作に関わるトミー・ブラウンのチームが先行ヒットを含む5曲を制作し、そこでは同じく初作から携わるヴィクトリア・モネイが、TLCにおけるデブラ・キリングスのような立ち位置で支えてもいる。また、2作目以降のキーマンとなるマックス・マーティン&イリアは、アーシーな“bad idea”やインシンク(のシェイクスピア&キャンディ曲)使いの“break up with your girlfriend, i’m bored”など4曲を制作。そんな気心の知れた顔ぶれと並び、過去に少し縁のあったポップ・ワンゼルがハッピー・ペレスと組んで冒頭の“imagine”など3曲をプロデュース。ウータンでお馴染みの“After Laughter (Comes Tears)”を作法ごと借用した“fake smile”のようなフックもありつつ、いずれの楽曲も00年代R&Bっぽいスムースな緩急とインティメイトな質感を湛えている点は同じだ。状況への集中力が全体の統一感に寄与したとも言えるし、ある種のとりとめのなさがアルバムとしての流れを美しく結わえている。意識の高いリスナー層からも俄に絶賛を集めている様子は、例えばマドンナの80→90年代における評価のされ方の変化に重なったりもするが、そうでなくても無性に聴き心地のいい本作がアリアナの次代を手繰り寄せるのは間違いない。大傑作! *出嶌孝次