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【Pop Style Now】新時代ポップ・アイコンのビリー・アイリッシュ、USインディー最重要バンドのナショナルなど、今週のインクレディブルな洋楽5曲

2019年3月1~8日

【Pop Style Now】新時代ポップ・アイコンのビリー・アイリッシュ、USインディー最重要バンドのナショナルなど、今週のインクレディブルな洋楽5曲

天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、この一週間に海外シーンで発表された楽曲のなかから必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。先週はプロディジーのキース・フリントの訃報をお伝えしましたね

田中亮太「ええ。レイヴ・ミュージックをポップ・フィールドに押し上げた最大の功労者として、多くの追悼記事が出ています。自分も『The Fat Of The Land』(97年)リリース直前に出演した〈グラストンベリー〉での“Firestarter”のライヴ映像などを観ては、悲しみにくれていました」

天野「完全に懐古モードに入っちゃってる……。僕も先週はプロディジーの功績を振り返ってましたけど、明るく前向きなニュースも紹介しましょう! 昨日チャンス・ザ・ラッパーが婚約者のカースティン・コーリーと結婚式を挙げたそうです。おめでとう!!」

田中9歳のときに出会ったという2人ですから、長い道のりを歩んできたわけですね。カースティンのInstagramにパーティーの写真が上がっているようですが、鍵付きなのでここではリンクを貼らずにおきます。興味のある人は探してみて!」

天野「ちなみに、チャノは7月に〈デビュー・アルバム〉をリリースする予定。待ちきれないですね~。それでは今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Billie Eilish “wish you were gay”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はビリー・アイリッシュの新曲“wish you were gay”なのですが、この連載を追っている奇特な読者のみなさまはお気づきのとおり、3回連続の〈SOTW〉選出です!」

田中「〈PSN〉がどれだけビリーを推してるのかが伝わりますね。デイヴ・グロールとその娘さんたちも彼女に夢中のようですが。やっぱり音楽にものすごくパワーがあって、なおかつ新たなポップ・アイコンとしての存在感が大きいんですよね」

天野「計り知れない感じですよね。で、今回もまたお兄さんのフィニアス・オコンネルがプロデュースした曲です。imdkmさんがビリーの曲のサブベースについて書かれてましたけど、“wish you were gay”のサビやサビ終わりでも物凄いベースが聴けますね」

田中〈Genius〉にも書かれているとおり、歌詞は思いを寄せていた男の子に拒絶されたときのことについてのものだとか。〈あなたがゲイだったらいいのに〉という衝撃的なラインが象徴的。さらに、曲の題材になった人が本当にゲイだったことを後から知ったというエピソードも」

天野「そんな失恋の歌にコメディー番組っぽい歓声や笑い声、拍手が重ねられてて、一層悲痛。〈Beats 1〉のインタヴューで彼女は自分のうつ病について語ったそうですが、これだけダークな音楽をやられてしまうと心配にもなります……」

田中「でも、ビリーは自分自身のことをオープンに語ることで、同じ境遇のファンやリスナーを勇気づけられればとも考えていると。つまり、エンパワメントですね」

天野「ですね。彼女のデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、いよいよ今月末リリースです。今年もっとも注目されている一作なのではないでしょうか! 超楽しみ!!」

 

The National “You Had Your Soul With You”

天野「2曲目は、もはやヴェテランの域に達しているインディー・ロック・バンド、ナショナルの新曲“You Had Your Soul With You”です。なんというか……素晴らしい! 〈SOTW〉でもいいくらい」

田中「見事な一曲ですよね! 彼らはアメリカのオハイオ州シンシナティ出身で、99年から活動しているバンドなので、結成20周年。ストイックな姿勢とぶれない音楽性で、多くの音楽家からリスペクトされてます。海外だとフェスのヘッドライナー・クラスのビッグなバンドです」

天野「でも、日本だとあんまり人気がない(泣)! というわけで、普及活動に励みましょう。ヴォーカリストで作詞を担当するマット・バーニンガーのダンディーなたたずまいと歌声が最高!! レナード・コーエンみたい。で、ギタリストのアーロン・デスナーとブライス・デスナーは双子の兄弟なんですが、2人ともプロデューサーや作曲家として活躍する才人です」

田中「アーロンはボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとビッグ・レッド・マシーンというバンドもやってますね。プロデューサーとしての仕事はフライトゥンド・ラビットの傑作『Painting Of A Panic Attack』(2016年)を推したいです。自分が辛い時期に助けてくれた作品でもあって……。そういえば、昨年急逝したフライトゥンド・ラビットのシンガー、スコット・ハッチソンの一周忌ももうすぐです」

天野「ちなみにブライスは現代音楽方面でも活躍してて、スフィアン・スティーヴンスや坂本龍一とも共演してますね。2017年にグラミー賞も受賞した傑作『Sleep Well Beast』を発表したナショナルですが、5月に待望の新作『I Am Easy To Find』をリリース。この曲は、そこからのリード・シングルです」

田中「複雑にエディットされたギターがパワフルなドラムと絡んでいくイントロから引き込まれますね。大々的にフィーチャーされたストリングスと、彼らのベースにあるポスト・パンク的な音楽性が溶け合っているのが、まさにナショナルって感じ」

天野「〈私はただ一つ残された羽を持っている〉〈私にはまだなしえていない一つのことが残されている〉といった詞もバーニンガーらしくて痺れる……」

田中「ちなみに、アルバムは同名の短編映画と同時にリリースされるとか。監督は、なんと『20センチュリー・ウーマン』や『人生はビギナーズ』で知られるマイク・ミルズ! こういうクロスオーヴァーもいまのアメリカっぽくてアツいですね」

天野「ですね。〈フジロック〉に出演するのでは……?と予想していた方もいらっしゃいましたけど、超観たいので本当に来日してほしいです」

 

Kindness  “Cry Everything”

天野「続いてはカインドネスの新曲です。UKのシンガー・ソングライター、アダム・ベンブリッジによるソロ・ユニットで、彼はいわゆるインディーR&Bと呼ばれる流れのキーパーソンの一人と言っていいと思います」

田中「プロデューサーとしても活躍をしていますよね。ソランジュ、ブラッド・オレンジにロビン……」

天野「ロビンとはたびたびコラボしてて、この楽曲にも彼女がフィーチャーされてます。カインドネス名義の楽曲としては、チャリティー・コンピレーションに提供した“A Retelling”(2016年)以来の新曲。2014年の前作『Otherness』から数えると約4年半ぶりと、ちょっとインターヴァルがありました」

田中「この“Cry Everything”はハウシーな楽曲です。ロビンの作品にも通じる、スムースな四つ打ちのビートとメリハリの効いたメロディーが気持ちいい。カインドネスはエレクトロ・ファンク的なタメのあるグルーヴが得意な印象なので、新鮮さも感じました」

天野「特徴的なパーカッションはニューウェィヴ・ディスコの伝説的な作家、故アーサー・ラッセルとのコラボなどで知られるムスタファ・アフメドが担当。この冷ややかな音の質感は、確かにアーサー・ラッセルの作品にも通じますね。そういえば、“Not Checking Up”っていうラッセルの未発表曲が最近出てましたよ」

田中「さらに、トッド・ラングレンの“Pretending To Care”がサンプリングされていることでも話題。要所要所で挿し込まれている〈ahh ahh〉というコーラスがそうですけど、こうした声の使い方はカインドネス印ですね」

天野「アダムはこの曲について〈僕が最後に楽曲を発表して以降、多くの変化があった。そのことが反映されていることを願う〉と書いています。このステイトメントは復活宣言にも思えますし、今後の彼の動向にも注目です!」 

 

KH (aka Four Tet) “Only Human”

天野「4曲目はフォー・テットの新曲“Only Human”。イギリスのキーラン・ヘブデンによるユニットで、エレクトロニカや、いわゆるフォーク・トロニカと呼ばれるサウンドを黎明期から支えてきた人ですね」

田中「今回は本名の頭文字である〈KH〉名義での発表。なにやらこの楽曲は、しばらく前から話題になっていたそうですね。キーラン本人のみならず、ペギー・グーやバイセップもスピンしていたそうで……」

天野「ですね。フロアからインターネットへと噂が流れてきてました。ネリー・ファータドの大ヒット曲“Afraid”(2006年)のサビをサンプリングしてるんですけど、その権利関係のクリアランスが済んだようで、ようやくオフィシャル・リリースです」

田中「“Afraid”から抜いた〈You're so afraid of what people might say/But that's okay cause you're only human〉というチャントが印象的。原曲よりピッチを上げてループさせていて、それを執拗に繰り返すことで、サイケな昂揚感を生み出しています」

天野「精緻かつ快楽的なプロダクションはさすがフォー・テット。でもフォー・テットとしての内省的でオーガニックな音楽性と比べると、KHのこの曲はパワフルなダンス・トラックですよね。バウンシーなビートとリズムはUKガラージっぽくて、トロピカルなムードはクラップ!クラップ!みたいだと思いました」

田中「〈人々が何を言おうが気にしなくていい/あたなはただ人間なんだから〉という歌詞自体、ダンス・ミュージック的な肯定のメッセージに受け取れますよね。今年多くのフロアでピークタイムを彩る楽曲になるでしょう!」

 

IDK “Trigger Happy

天野「5曲目はIDKの新曲“Trigger Happy”です。彼はアメリカ、メリーランド州プリンス・ジョージズのラッパー。もともと〈Jay IDK〉という名前で楽曲を発表していました」

田中「2017年にはデビュー・アルバム『IWASVERYBAD』をリリースしています。チーフ・キーフや、あのMFドゥームまで参加してますね」

天野「彼は最近、日本でライヴをしたことも話題になったラッパーのデンゼル・カリーとたびたび共演してますね。“Please Forgive”や“Once Upon A Time (Freestyle)”、“No Wave”など、どれもカッコイイ曲ばかり」

田中「デンゼルも変わり者ですが、このIDKも不思議なラッパーです。トラップ・ビートから今回の“Trigger Happy”のようなダークでソウルフルなビートまで乗りこなしますし」

天野「去年のミックステープ『IDK & FRIENDS :)』で共演してるのがリコ・ナスティやマクソ・クリームですし、ちょっと異端でオルタナティヴな存在感があります」

田中「で、この曲のリリックはロジックをディスってるラインが話題です。〈あいつのキャリアは自分がブラックだったことを証明しようとしているだけ/でも全然ブラックじゃないんだよ〉」

天野「ロジックは同じメリーランド出身の売れっ子ラッパーですね。黒人の父親と白人の母親の間に生まれた彼は複雑なアイデンティティーを持っているだけに、ちょっとこれはひどい中傷……。僕はロジックのファンでもあるので残念です」

田中「うーん……。とはいえ、IDKのラップは超巧くて、つい引き込まれてしまいますね。ビートのないイントロからラップを始めて、矢継ぎ早に言葉を重ねたりメロディアスになったりと変幻自在。怒涛のフロウを聴かせます」

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