天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、この一週間に海外シーンで発表された楽曲のなかから必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。トーク・トークのマーク・ホリスが亡くなって、すっごく悲しかった一週間でした……。RIP」

田中亮太「とはいえ、オージー・サイケのポンドによる新作『Tasmania』やジャパニーズ・ハウスの『Good At Falling』、ハンド・ハビッツの『placeholder』、リトル・シムズの『GREY Area』など、話題作の多い週末でしたね」

天野「ですね。2チェインズの『Rap Or Go To The League』も超話題ですが、なんといってもソランジュの新作『When I Get Home』でしょう! リリースと同時に周りの音楽ファンがみんな聴いてた印象です」

田中「あとは〈SUMMER SONIC 2019〉のラインナップ第2弾が発表されて、ウィーザーやレモン・ツイッグス、チャーチズ、ペール・ウェーヴスなどが追加されました」

天野「ペール・ウェーヴスといえば、THE NOVEMBERSとの対談記事を制作中です! 亮太さん的には、やっぱりウィーザー?」

田中「うーん。正直、この第2弾はなんとも……(苦笑)。そんな話をしている矢先に、またしても訃報が。なんとプロディジーのキース・フリントが亡くなったとのこと。ショックですが、このニュースはまた次週に取り上げましょうか。では、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Solange “Dreams”
Song Of The Week

天野「そんなわけで〈SOTW〉は、話題をかっさらってるソランジュの新作『When I Get Home』から“Dreams”です!」

田中「念のため彼女について紹介しておくと、ビヨンセの妹であるシンガーで、前作『Seat At The Table』(2016年)が世界的に高く評価されました」

天野「期待が高まっていた新作は、ほぼサプライズ・リリース。内容はけっこう実験的です。全19曲だけど短いインタールードが多くて全曲がシームレスに繋がってるんですが、約39分というコンパクトな長さです」

田中「どこかミックステープ的だけど、すごく完成度の高いアルバムという不思議な聴き心地。楽曲ではファレル、プレイボーイ・カルティ、メトロ・ブーミンなんかが参加した“Almeda”やグッチ・メインが参加した“My Skin My Logo”が話題ですね」

天野「“Almeda”はピッチフォークが〈Best New Track〉に選んでましたね。〈ヒューストンと黒人の信念への歌〉だと。ソランジュは地元であるテキサス州ヒューストンのヴェテラン・ラッパー、マイク・ジョーンズにも言及してて、〈ヒューストン〉っていうのは今回のテーマのひとつのようです」

田中「そんななかで、どうして“Dreams”なんですか?」

天野「正直、一曲を選ぶのが難しいんですが、ティーザー映像で聴いた印象が強烈で……。ちなみに、アルバムのほぼ全編を映像化した作品はApple Musicで観ることができます。ブラックネスや神秘主義、テキサスの文化、SFなどが混然一体となったすごいものでした」

田中「肝心の“Dreams”ですが、複雑な構成のアルバムのなかでも、とりわけメロディアスで親しみやすい曲ですよね。その一方で、ドラムのパターンはシンプルにも聴こえるようでいて、実は緻密。精度の高いプロダクションと親密なムードを融合させた、珠玉のR&Bソングだと思いました」

天野「ですね。歌詞は超シンプルで、(将来の)夢について歌ったもの。〈夢、それは長い道のりを行くもの、でも叶うのは今日じゃない〉というリフレインも説得力があります」

田中「ちなみにアブストラクトで陶酔的でムードになるアウトロは、新作『Some Rap Songs』(2018年)も話題のアール・スウェットシャツがプロデュース。そんなわけで、この一週間の顔ともいうべきソランジュの一曲でした!」

 

Big Thief “UFOF”

天野「2曲目はビッグ・シーフの新曲“UFOF”。彼女たちはNY、ブルックリンのフォーク・ロック・バンドですね」

田中「ヴォーカリストのエイドリアン・レンカーはソロでも人気です。彼女が昨年リリースしたセカンド・アルバム『abysskiss』も高評価を受けていましたね。聴き手の不安や焦燥感を軟着陸させてくれるような穏やかなフォーク盤で、自分も愛聴しました!」

天野「ビッグ・シーフとしては5月3日(金)に3作目となる新作『U.F.O.F.』を4ADからリリース。これまでのリリース元であるサドル・クリークから移籍しました」

田中「この“UFOF”はアコースティック・ギターのアルペジオとドラムが印象的ですね。特にドラミングはかなり細やか。サウンド的にもかなり手前に配置されています。サイケデリックなムードもあいまって、個人的にはエリオット・スミスの『Figure 8』(2000年)を思い出したりも」

天野「確かに。さりげなくエクスペリメンタルなプロダクションは、ジム・オルークっぽくもあります。ちなみに、曲名の最後の〈F〉は〈Friend〉の頭文字だとか。レンカーはアルバムのテーマを〈未知の存在と友達になる……私の歌すべてはそのことについて歌っている〉と語ってて、この曲の〈彼女は決して戻らないでしょう/そのうちエイリアンはいないと証明される〉っていう歌詞も興味深いです」

田中「〈人生で最高のキスに水がはねた/それは透き通って輝いていた〉というラインも、甘酸っぱくてちょっとムズムズしちゃいますね。百合っぽさもあるし」

天野「(無視して)〈alien〉って英語には〈宇宙人〉だけじゃなくて、〈外国人〉とか〈性質が違うもの〉っていう意味もありますし、この曲やアルバムのテーマが何を表そうとしているかは言うまでもないでしょう。彼女たちの新作は現実に対峙するアクチュアルなテーマ性を持ちつつも、ここではないどこかへとリスナーを連れて行ってくれる作品になっていそう。超期待です!」

 

Hatchie  “Without A Blush”

天野「3曲目はハッチーの“Without A Blush”。彼女はオーストラリアのバンド、バブガニューシュのベースシスト/ヴォーカルでもあります。バンドは2017年に日本でツアーもやってたんですね」

田中「そうなんです。実はバブガニューシュのアルバム『Pillar Of Light』はタワーレコードで爆売れしたんですよ。Mikikiに掲載したレヴューもすごく読まれていました。バブガニューシュがネオアコ/ギター・ポップ王道のサウンドなのに対し、ハッチーはシューゲイザー/ドリーム・ポップ的です」

天野「ソロとしては昨年リリースしたEP『Sugar & Spice』で一気に注目されましたよね。亮太さんも〈ハッチー、ハッチー〉といたくご執心で、頑張って仕事してるな~と思って隣を見たら、彼女の写真をせっせとダウンロードしていただけだったなんてことも。顔ファンなんですか……?」

田中「ギクッ! バレてましたか……。それにしても“Without A Blush”、前のEPよりもポップに突き抜けていて、これまた最高じゃないですか? ミッドテンポのブレイクビーツとシンプルで覚えやすいメロディー・ライン。オール・セインツの秘蔵音源と言われても信じてしまいそうです」

天野「オール・セインツ……! また懐かしい名前が出てきましたね。僕はサビが『1989』(2014年)の頃のテイラー・スウィフトの曲みたいで、超キャッチーだなって思いました。でもシューゲイズなギターの音を配置してたり、ポップさと実験性が同居してますよね」

田中「なおハッチーのファースト・アルバム『Keepsake』は6月21日(金)にリリース。夏フェス出演などでの来日にも期待してしまいます!」

 

Carly Rae Jepsen “No Drug Like Me”

天野「続いてはカーリー・レイ・ジェプセンがリリースしたシングル“No Drug Like Me”です」

田中「カーリーは、ここ日本でも人気のあるカナダのポップ・シンガーですね。コマーシャルでもおなじみのヒット・ソング“I Really Like You”“Call Me Baby”などが有名です」

天野「カーリー、大好きなんですよね。『Emotion』(2015年)は何回も聴きましたよ。で、今回の“No Drug Like Me”は、この連載でも軽くご紹介した“Party For One”に続く新曲。“Now That I Found You”とのカップリングで発表されました」

田中「Netflixドラマ『クィア・アイ』のプロモーション・ソングでもあるアップテンポな“Now That I Found You”と対照的に、この曲は落ち着いたムードとテンポの一曲です」

天野「太いシンセ・ベースやファンキーなビート、ファルセットやコーラスを重ねた歌がセクシー。彼女のちょっとかすれた歌声は魅力的ですよね。サウンド的には腰にクる、見事なダンス・ポップ。『Emotion』でも、こういう80sポップを意識したファンキーな曲が好きでした」

田中「〈私のようなドラッグなんてない〉という曲名も強烈ですが、歌詞は〈恋に落ちたと感じたら、あなたのために花開く/私がオープンになれば、真実しか口にしない〉〈私のようなドラッグを試したことなんてないでしょう〉と挑発的です。ドキリとしちゃいますね」

天野「なんというか、毒にも薬にもなりうる恋愛関係についての意味深なリリックです。甘くチアフルな“Now That I Found You”と苦味のある“No Drug Like Me”という好対照なシングルでした。新作にも期待!」

 

Jordan Rakei “Mind's Eye

天野「今週、最後の一曲はジョーダン・ラカイの“Mind's Eye”。彼はニュージーランド生まれ、オーストラリア育ちのシンガー・ソングライターで、ロンドンを拠点に活動しています。トム・ミッシュロイル・カーナー周辺のアーティストと言えば伝わるでしょうか」

田中「ジャズやヒップホップ、エレクトロニック・ミュージックが渾然一体となった音楽性は、まさにいまのロンドンって感じですね。シルキーで柔らかい歌声、聴き心地のよさは周辺の音楽家とも通じるものです」

天野「ファースト・アルバムの『Cloak』(2016年)は品のいいジャジー・ポップといった感じでしたが、ニンジャ・チューンからのセカンド・アルバム『Wallflower』(2017年)で一気に才能が開花した印象があります。今回は昨年の“Wildfire”ロイル・カーナーにフィーチャーされた“Ottolenghi”に続く新曲ですが、楽曲としての完成度の高さに驚かされてます」

田中「アンビエントなギター・サウンドやローズ・ピアノ、シンセサイザーの音色が心地いいですね。ビートはハンドクラップも効いてるアフロ的なものですが、柔らかい質感なのでリラックスして聴けます」

天野「リズムについては、TAMTAMの高橋アフィさんが〈ダンスホール/レゲトン的な2裏アクセントのリズム〉と言ってました。なるほど~。サウンド・デザインが本当に巧みで、ギターがキーな気がします。リヴァース・ディレイやミュートが効いた繊細なプレイが聴きどころかなと」

田中「ちょっとハイライフっぽい音色だと感じました。Ovallの関口シンゴさんがラカイやアルファ・ミストをフェイヴァリットに挙げられてましたけど、origami PRODUCTIONSのアーティストが好きなリスナーにも刺さりそうな音ですよね」

天野「それこそTAMTAMのファンにもおすすめしたいなー。ともあれ、いまのロンドンはロックやラップに限らず、ラカイやプーマ・ブルーのようなジャズ/ソウル系の越境的な音楽家たちが優れた作品を作ってて、本当におもしろいなと思います」