天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が毎週月曜日にお送りしている〈Pop Style Now〉。チェインスモーカーズの『Sick Boy』とゼインの90分近い大作『Icarus Falls』にアガった週末でした」
田中亮太「僕はナタリー・ポートマン主演映画『Vox Lux』のサントラを楽しく聴いていましたよ。ポップスターを題材とした映画で、シーアとスコット・ウォーカーが音楽を担当してるんです!」
天野「僕もスコット・ウォーカー、大好きなんですよね。〈カニエ通信〉的にはカニエがドレイクの悪口をいきなり言い出して、心配になりました」
田中「……ほのぼの系ニュースでは、キース・リチャーズがアルコールをほぼ止めたというものがありました。長生きして!」
天野「日々の飲酒量を減らそうと励んでいるという亮太さんにとっては前向きな知らせですね。それでは〈Song Of The Week〉から!」
Ariana Grande “imagine”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はアリアナ・グランデの“imagine”! 先月リリースされた“thank u, next”に続いて、2回連続の〈SOTW〉です」
田中「フレッシュな才能も推したいところですが、アリアナの新曲はどちらも素晴らしすぎますからね……。この勢いだと、『sweetener』に続くアルバムもすぐに聴けそう」
天野「ですね。それにしてもこの“imagine”、ものすごく削ぎ落とされたアレンジですよね。ただ、ひとつひとつの音色が独特。イントロのキックも、スネアのタイミングで鳴らされる不思議な打音も残響がすごくて。コーラスでアリの歌だけになる瞬間もパワフルで、鳥肌が立ちそうです。彼女の歌のパワーを感じる一曲だなと」
田中「ホリデー・シーズンにもぴったりの、ホーリーな音像ですよね。極めつけは、3拍子のリズム。トラップ・ビートを参照しつつワルツに仕上げるという凄技の楽曲です。フレッシュかつキャッチー、これぞポップ!ですね」
天野「亡きマック・ミラーとの初共演曲“The Way”を想起させる仕掛けもあって、泣かせます。リリース前からインスタグラムなどで超盛り上がっていた“imagine”ですが、ツイッターではカニエ・ウェストと一悶着があって……と、これはこの曲とはあんまり関係がないので、気になる方は各自で調べてください!」
Rico Nasty “Guap (LaLaLa)”
天野「2曲目は、リコ・ナスティの新曲“Guap (LaLaLa)”です」
田中「タイトルの通り〈LaLaLa〉というリフレインが耳に残りますねー」
天野「中毒性ありますよね。彼女は今年注目を集めた21歳のラッパーで、6月にリリースしたミックステープ『Nasty』もけっこう騒がれていました。いくつかのメディアが年間ベストに選んでましたね」
田中「カーディ・Bを筆頭に、プリンセス・ノキアやリトル・シムズなどフィメール・ラッパーが例年にも増して活躍した一年でしたが、彼女も間違いなく〈顔〉でしたね」
天野「ですね。この曲は『Nasty』にも参加していたケニー・ビーツがプロデュース。スクールボーイ・Qなど、TDE系の面々ともよくタッグを組んでる売れっ子です」
田中「ラップと声ネタ以外がたびたび無音になる、隙間を活かしたトラックですね。無音状態からボン!っと出てくるビートの圧が凄い。随所に出てくるユニークな音も快楽性抜群ですし、派手さはないものの、まったく飽きさせない楽曲だなと」
天野「ラップにもビートにもアグレッシヴな荒々しさを感じますよね。あと、病院を舞台にしたMVも必見! 笑うべきなのか怖がるべきなのか判別しかねる悪夢的なイメージ。リコの顔が夢に出てきそう……」
Higher Brothers “16 Hours”
天野「続いてはハイヤー・ブラザーズの新曲“16 Hours”です。カッコイイ!」
田中「中国四川省の成都発の4人組ラップ・グループですね。例によって88ライジング所属です。88ライジングといえば、〈PSN〉では4月にリッチ・ブライアンを紹介しました」
天野「その後もジョージのアルバム『BALLADS 1』がアメリカで大ヒットするなど、話題に事欠かなくて、超勢いありますよね。彼らは今年の〈サマソニ〉に出演してて僕も観ましたけど、来年1月にはリッチ・ブライアンらとの来日公演もあります」
田中「残念ながらジョージの出演はキャンセルになっちゃいましたが……。で、このハイヤー・ブラザーズの新曲ですが、ソウルフルなホーンのサンプリングとかは90sな感じなんですけど、ビートやフロウは見事にいまのトラップです」
天野「いかにもヒップホップな感じとイマドキっぽさが溶け合ってますね。日本語のラップにも近いノリがあるし、親しみやすい感じ。あと、みんな個性的で、ブロックハンプトンみたいなキャラ立ちマイク・リレーも楽しい!」
田中「東京のグループ、JABBA DA FOOTBALL CLUBも、同じラッパー4人組として共感できる存在だと語っていました。新曲“16 Hours”に合わせて〈アメリカで中国人として生きることの意味〉というテーマのドキュメンタリーも88ライジングから公開。英語ですが、こちらも必見です」
Lambchop “The December-ish You”
天野「4曲目はラムチョップの“The December-ish You”です」
田中「来年3月22日(金)にリリースされる新作『This(Is What I Wamted To Tell You)』からのリード・シングルですね。今週はディアハンターの新曲“Element”とこれで、最後まで迷いました」
天野「僕はディアハンターを推したんですが、亮太さんのラムチョップ激推しに負けました。ナッシュビルが拠点の彼らは、80年代半ばから活動しているキャリアの長いバンドで、オルタナ・カントリーの重鎮ですよね。それにしても、この曲のどこにそこまでの魅力を感じたんですか? 個人的には前作『Lotus』(2016年)から地続きに感じましたし、〈ああ、ラムチョップの新曲だなあ……(じんわり)〉みたいな」
田中「音作りの面で、極めていまっぽいところがおもしろいなと思ったんですよね。フロントマン、カート・ワーグナーのジェントリーな歌やアメリカの荒野が思い浮かぶようなペダル・スティールの音色などは、いかにも彼ら然としているんですが、ビートは細やかな打ち込みで」
天野「なるほど。新作にはボン・イヴェールのマシュー・マックコーギャンが関わっているとのことです。ヴォーカルやドラムの音色が変調されているあたりに、彼の貢献が感じられますね」
田中「そうなんです。エレクトロニクス自体は前作から導入していましたけど、今回さらにモダン方面へと突き進んだところは注目したいなと。日本のバンド、ROTH BART BARONの新作『HEX』や折坂悠太のアルバム『平成』にも近い空気を感じたし、今年はいわゆるフォークや〈うたもの〉がメタモルフォーゼをはじめた起点でもあるような気がしています」
American Football “Silhouettes”
天野「ラストはアメリカン・フットボールのニュー・シングル“Silhouettes”です。この曲には、ちょっと感動させられました……」
田中「アメリカン・フットボールといえば、90年代後半に活動していたエモ~ポスト・ロックの代表的バンドですよね。2014年に奇跡の復活を遂げて、2016年には17年越しのセカンド・アルバムをリリース。この曲は2019年3月に発表予定の新作『American Football』からのシングルです」
天野「アルバム・タイトル、全部〈American Football〉なんですけどね……。それはさておき、またも新曲が聴けるとは思っていませんでした。しかも新作が出るなんて。リアルタイム世代じゃないんですけど、感無量です」
田中「この7分強ある“Silhouettes”も、アメフトらしい見事な一曲ですね。グロッケンやヴィブラフォンが重なっていくイントロは完全に現代音楽というか、ミニマル・ミュージックなんですけど、そこからブワッとバンド・サウンドに突入します」
天野「エモーショナルな歌、演奏と実験性が素晴らしい同居の仕方をしていますよね。ここにきて新機軸を感じます。ポスト・クラシカルやインディー・クラシックのファンも必聴なのでは?」
田中「新作にはスロウダイヴのレイチェル・ゴスウェルやパラモアのヘイリー・ウィリアムズ、ランド・オブ・トークのエリザベス・パウエルも参加してるそうですし、なんだかすごい作品になっている予感。パラモアが並んでいるのには、隔世の感がありますねー。それではまた来週!」