角田光代の小説を映画化した「愛がなんだ」の主題歌をフィーチャーした4曲入りのシングル。表題曲は昨年のアルバム『WHALE LIVING』からの流れを感じさせる日本語詞のナンバーで、ミッドテンポの力強いビートの上で叙情を立ち上げるナイーヴなメロディーが胸に沁み入る。その他、静謐なピアノ・バラード“Moving Day Part1”と曽我部恵一がマンチェに変換した“Cakes”などのリミックス2曲を収録。

 


今週4月19日(金)より全国で封切りされる映画「愛がなんだ」。角田光代の小説が原作、2010年代きっての恋愛映画の旗手・今泉力哉が監督を務め、さらに岸井ゆきの&成田凌という最注目のニュー・フェイスを主演に据えた同作は、GWシーズンの話題作として多くの観客を集めるだろう。主題歌として“Cakes”を提供したHomecomingsの名も、(彼らが前年の〈リズ〉以降に新規のファンを増やしたように)、これまで以上に認知されるに違いない。

ことほどさように、バンドにとって大きな契機を飾りそうな“Cakes”だが、そんな周囲の期待もなんのその、4人はいつも以上にただ〈なんてことのない〉名曲を作った。その〈なんてことのなさ〉は、ティーンエイジ・ファンクラブなどルーツにあたるシンプルなギター・ポップに立ち戻りつつ、ランディ・ニューマンら名手を参考にポップ・ソングの錬金術を探究した前作『WHALE LIVING』(2018年)の延長線上でもある。

新たな試みとして、打ち込みのビートやシンセのフレーズを全編に配しているが、エレクトロ云々とはかすりもしない、実にささやかなもの。そのローファイで可愛らしい鳴りには『Electro-Shock Blues』(98年)期のイールズや初期のバッドリー・ドローン・ボーイなどを想起した。

ゆったりとしたテンポ感と穏やかな曲調――ともすれば〈小品〉と思われそうな楽曲に豊かな抑揚を与えているのは、やはりメロディー。ヴァースごとに少しずつ形を変えながら、だがその変化を過度に強調することなく、丁寧にエモーションを積み重ねていく。各楽器や声のアレンジにも品の良さは貫かれており、慎ましさを保持したままで、濁らないように色味を加えていく。ブリッジから最初のコーラスに入るまでに8小節の間を置き、そこにハーモニーを重ねることで、コーラスをわずかに際立たせる構成などには、上手い!と唸ってしまった。音作りの面でバンドは、ささやかながらもしっかりと成長を刻んでいる。

もっとも変化を感じる点は歌詞だ。〈全部が好き。でも なんでだろう、 私は彼の恋人じゃない〉――「愛がなんだ」のポスターに書かれたフレーズが表しているように、一方通行の(ときにそうじゃなく感じる瞬間もある)恋愛模様を描いた映画を反映してか、福富優樹はいつにないタッチで〈恋人たち〉の風景を綴っているように思える。さらにいうなら、彼には珍しく〈性愛〉を切り取っているようにも読み取れるのだ。

〈夜のふたり/朝のにおい/ぼやけた視力で/探り合っている〉〈夜明けのドア叩いて/こうならないように歩いてきたのだ〉。“Cakes”には、奥底では惹かれあいながらも、さまざまな事情で距離感を保ってきた2人がついに結ばれたあとの、幸福感と後ろめたさがないまぜになった感情が漂う。〈他人でなくなってしまった〉関係が孕む、生々しさとややこしさ、意図しえなかった親密さ。そこに息吹いたわりきれない想いが、この曲を特別なラヴソングにしている。