天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週の洋楽シーンは、リル・ナズ・Xがゲイであることを明らかにしたニュースで話題がもちきりでしたね」

田中亮太TikTok発のヒット・ソング“Old Town Road”で一躍スターとなったラッパーのリル・ナズ・Xが、LGBT文化を讃えるプライド・マンスの最終日(6月30日)にカミングアウトしたんですよね」

天野「ええ。デビューEP『7』のカヴァー・アートには、LGBTの象徴である虹色が組み込まれている、とも明かしました」

田中EP収録曲“C7osure (You Like)”のリリックは、カミングアウトについて書かれたものだったとか。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Rosalía “Fucking Money Man”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はネオ・フラメンコのスター、ロザリアのニュー・シングル『Fucking Money Man』。新曲を出すたびに〈PSN〉でご紹介している常連です!」

田中「今回は“Milionària”と“Dio$ No$ Libre Del Dinero”という2曲をセットになったものなので、厳密には〈Songs Of The Week〉かも」

天野「確かに……。〈Fucking money man〉と繰り返す、テンポの速いフラメンコ・ソング“Milionària”と、しっとりとしてメランコリックな“Dio$ No$ Libre Del Dinero”。どちらも〈お金〉がテーマなのでしょうか?」

田中「曲名の〈Dios Nos Libre Del Dinero〉は〈神は私たちをお金から解放する〉という意味だとか。2曲ともロザリオとエル・グインチョが制作、というのもポイントです。〈上半期ベスト・ソング10〉にも選んだ彼女の勢いをさらに印象付けるシングルでした」

 

Brooke Candy feat. Charli XCX & Maliibu Miitch “XXXTC”

天野グライムス“Genesis”のビデオ(2012年)に出演し、そのインパクトのある見た目で一躍有名になったファッション・アイコン、ブルック・キャンディ。シンガーとしても活躍する彼女が、先鋭的な音楽性で知られる歌手のチャーリー・XCXと、ブロンクスのラッパーであるマリブ・ミッチをフィーチャーした新曲がこの“XXXTC”です」

田中「削ぎ落とされたサウンド・プロダクションがセックスについてのリリックとあいまって、独特の緊張感を生んでいますね」

天野「ちなみに、ブルック、ミッチ、チャーリーの順で歌っています」

田中「へ~。声質や歌っていることの違いを聴き比べるのも、おもしろいですね。“XXXTC”は、リリース日未定のデビュー・アルバム『SEXORCISM』に収録予定です」

 

Mahalia feat. Burna Boy “Simmer”

天野「イギリスのR&Bシンガー、マヘリアが9月6日(金)にリリースするデビュー・アルバム『Love And Compromise』からシングル“Simmer”を発表しました」

田中「この曲でフィーチャーされているのはナイジェリアのシンガー、バーナ・ボーイです。彼はリリー・アレンやJ・ハス、デイヴといった英国のアーティストとの共演で世界的な知名度を上げたので、この共演にも納得ですね」

天野「2016年にアコースティック・サウンドを持ち味としてキャリアをスタートさせたマヘリアは、どんどんそこから脱却していきました。この曲ではバーナ・ボーイの音楽性に合わせたのか、アフロビーツに挑戦していますね」

田中「メタリックでインダストリアルなパーカッションの音は、UKアンダーグラウンドっぽいサウンドだと感じました。アフリカン・ポップスと英米の音楽との垣根がなくなっていることを感じさせる一曲ですね」

 

CupcakKe “Ayesha”

天野「4曲目はカップケイクの新曲“Ayesha”。カップケイクはセックスについての赤裸々でアグレッシヴな詞が魅力の、米シカゴの若手ラッパーです」

田中「2018年に発表した2作のアルバム『Ephorize』『Eden』は高い評価を受けました。また、複雑なパーソナリティーの持ち主で、今年1月にTwitterで自殺をほのめかして、病院に連れて強制的に行かれる、という騒動も……」

天野「その後、“Old Town Road”の替え歌のような“Old Town Hoe”を発表して話題になりましたね。そんな彼女の新曲は、NBA選手のステフィン・カリーの妻で、セレブなシェフとしてTVで活躍するアイーシャ・カリーの名を歌い込んだもの」

田中彼女の発言にインスパイアされて、〈売女どもが私の注意を引きたいみたいだけど、私は気にしない〉と攻撃的なことを歌っています。レゲトン~アフロビーツ的なプロダクションもかっこいい!」

 

Dominic Fike “Phone Numbers”

天野「今週の最後の一曲は、ドミニク・ファイクの“Phone Numbers”です。彼はフロリダを拠点に活動するラッパーですね」

田中「ファイクは、2017年のEP『Don't Forget About Me, Demos』に収録された“3 Nights”がブロックハンプトンによって紹介されたことで話題になりましたよね」

天野「そうでしたね。ジャック・ジョンソンのようなサーフ・ミュージックを思わせるオーガニックなサウンドと、そこに乗るメロディアスなラップが特徴的なファイク。新曲もその路線で、ケニー・ビーツによるビートも清涼感があって気持ちいい!」

田中「とはいえ、リリックはなかなかシリアスで、彼の成功にあやかろうとして電話をかけてくる昔の知人から受けたフラストレーションが基になっているとか。1分30秒付近からはじまる早口のラップに、怒りが滲み出ていますね」