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PEDROだからこそ歌える

――じゃあ、具体的に中身について窺いますが、さっき話に出た“猫背矯正中”ともう一曲、“NIGHT NIGHT”がMVもあるリード曲ということですね。

アユニ「はい、“NIGHT NIGHT”のMVは全部演奏シーンのみで、だからBiSHとはたぶん全然まったく違う新しい雰囲気だと思います。バンドって感じ」

――曲としても前のPEDROにない軽快な感じというか、アユニさんのパッて開けたモードが出てるなって。

アユニ「確かに他の曲がけっこうクセが強いので、だから“NIGHT NIGHT”はわりと聴きやすいですよね」

――この曲だけJxSxK(WACK代表の渡辺淳之介)さんが作詞に関わってますね。

アユニ「あ、そうです。たぶん渡辺さんが“NIGHT NIGHT”のサウンドがいちばん気に入ったみたいで。PEDROの前作の時から、渡辺さんは文字とか合ってなくても私が書く歌詞を変えないんですよ。私の考え方、世界観が〈わかんないから手は出さない〉って言われてたんですけど、“NIGHT NIGHT”は手直ししたいってなって」

――その“NIGHT NIGHT”もですし、“玄関物語”とか“おちこぼれブルース”とかラヴソング的な意味に限らず、人との関わりが背景にある曲が増えたのかなって。

アユニ「そうですね。前まで〈人間、近寄んな〉みたいな歌詞しか書いたことなかったんですけど(笑)。音楽を通じて人と関わったりして、何でしょうね、人のいろんな感情がやっとわかるようになって、やっと自分の中での普通の人間に近付けたので、何かその感覚を出してみたのもあります」

――そういう作詞はもちろんですけど、今回も作曲されてて。特に“EDGE OF NINETEEN”は一人で書かれてるんですね。

アユニ「あ、そうですね。歌メロを書いただけなんですけど、そういう作曲の術っていうか、知識が皆無でして、ホントに自分がただ思うようにメロディーを入れ込んだものです」

松隈「これは衝撃作で。僕のアイデアは1mmも入ってませんね。歌もワンテイクで録ったよね?」

アユニ「うん、そうですね。私がいちばん聴いてるタイ・セガールを完全にリスペクトした曲になってます」

松隈「トラックは僕らで最初に作ってたんですけど、アユニのメロディーが入っても、どんな方向でミックスしてどういう位置付けの曲にしていいのか検討もつかなかったんですよ。で、改めて〈これはタイ・セガールみたいにしたい〉って言うんで、スタジオでアユニが歌う前にミックス変えて、グジュグジュに歪ませて。だからヴォーカル録りのその場でミックスもしたもんね、そういえば」

アユニ「そうでした」

松隈「それで終わりましたね。レコーディングとミックスを同時にやって」

――曲も詞もエキセントリックでいいですね。〈まぐわいなのでした〉とか、何を言ってんの、みたいな(笑)。

アユニ「いや、そこはテキトーに言ってます(笑)。これは、10代からずっと売れないバンドをやり続けてるけど、好きな伝説のロック・バンドのライヴとかを観て、続けることは無意味じゃないなって感じてる男の人になりきって、妄想して書きました」

――そうやって何かの設定になりきって書いてみた歌詞は他にもありますか?

アユニ「“SKYFISH GIRL”では、一人の女の子を凄い好きだけど何も言えない、頭のおかしいストーカーみたいな男の人を演じました。これは松隈さんのデモの時点で仮歌詞が入ってて、その一部から広げて書いたもので、たぶんその場で考えたんですかね?」

松隈「うんうん。ほとんどね」

――これはなかなか狂ってますね(笑)。

松隈「僕の仮タイトルが“千切られる妄想”で、もうサビの1行目以外はほとんどアユニなんですけど、みんなでビックリしましたね。〈そこのお嬢ちゃん スカイフィッシュ捕らないかい〉ってヤバイね」

アユニ「もう意味わかんないんですよ(笑)」

松隈「BiSHの歌詞はメンバーも淳之介も、けっこう僕の仮歌にインスパイアされて、自分の世界を書くことが多い気がするんですよ。PEDROは僕の作った言葉からもう一人の主人公をアユニが作り出して、まったく別の世界になる感じ。何かドラマを作ってても言いたいことがわかるというか、そこが出しやすいですよね、PEDROの場合は」

――アユニさん個人だから出しやすいし、聴く側も受け取りやすいっていうか。

松隈「BiSHの時は、BiSHっていうものの中にただでさえ6人もいて、淳之介もいれば何か俺の顔もみんな見えてて、そのなかに別の主人公が出てきたらストーリーがわけわかんなくなる(笑)」

――グループじゃないからこそ歌える内容でもありますね。

アユニ「ホントそれです。そういう歌詞をメンバーに歌われたら、何か恥ずかしくなりそうなんで(笑)」

――アユニさんの〈これ〉っていうイメージがあって、みんなでそこに近付けていくっていうのがあるからいいんでしょうね。

松隈「うんうん」

アユニ「ホントに好き勝手やらせていただいてるんで、ありがたいです。私の意見を忠実に再現してくださるんで、チームの方々が」

――“おちこぼれブルース”あたりからの後半がグッときて凄い好きなんですよね。

アユニ「えっ、ホントですか?」

――ひねくれててストレートな人間味があって入り込みやすいっていうか。

アユニ「うんうん、“おちこぼれブルース”の〈今更会えないよね〉とかも松隈さんの仮歌詞に引っ張られて書けたんですけど、自分もやっぱ人と喧嘩した時とか、そう思うことが凄いあるんで」

――そうですね、そうやって関係性を書いた曲が多いので、いまのアユニさんの、人として開かれたモードが後半は濃いというか。楽しそうな感じがします。

アユニ「ンフフフ、楽しそうですね」

――前作のラストがシリアスな“うた”だったのに対し、今回は“ラブというソング”で盛り上がって終わるのも象徴的というか。

アユニ「“ラブというソング”はポップですよね、サウンドが、うん」

松隈「〈軽薄ラブソング〉ってね」

アユニ「まさにいま言った、流行り歌とかって、ありきたりの言葉とか使っちゃうのに何で流行るのか理解できなかったんですけど、それが人間の性質なのかなと思って」

――めっちゃ素直じゃないですか? そういう歌も沁みるようになってしまって(笑)。

アユニ「はい、それが自分で気持ち悪いなと思って(笑)」