INTERVIEW

TENDREが考える〈印象屋〉としての芸術家の仕事

『IN SIGHT - EP』は信念を突き通すための大事な一歩

TENDREが考える〈印象屋〉としての芸術家の仕事

今この時代に必要な音楽とはなにか? 消費の速度がますます高まっていくなかで、アーティストはこの先にどんな作品を残せばいい? TENDREこと河原太朗はそんな課題と真摯に向き合い続けている。

そんなTENDREの最新作となるのが『IN SIGHT - EP』。BPM 115のイーヴン・キックと流麗なハープの音色で幕を開ける本作は、シンセ・ブギー~ファンクを基調としながら現在進行形のビート・ミュージックと共振してみせた、まさにアップ・トゥ・デイトな仕上がり。一方で河原の甘い歌声から紡がれる歌詞はきわめて抽象的で、そこには様々な解釈の余地が残されている。

誰もが身を委ねたくなるようなビートで聴く者を惹きつけ、さらにそこで思考と想像を促すこと――どうやら河原はそこにポップスの在るべき姿を見出しているようだ。では、早速その『IN SIGHT - EP』について、本人に話を訊いてみよう。

TENDRE IN SIGHT - EP RALLYE/SPACE SHOWER(2019)

 

人との出会いって意図的に作るものでもないし、自然発生でつながっていけるのが心地いい

――『IN SIGHT - EP』はこれまでのホーム・レコーディング的な音作りを踏襲しつつ、非常にバンド感があるサウンドに仕上がっていますね。数名のゲスト・プレイヤーを招聘しているところも重要なポイントだと感じました。

「そうですね。いわゆるルーム・ミュージックというか、DTM的な音楽は大好きだし、もちろんこれからも作っていきたいと思ってるんですけど、一方で僕にはその空間から一回出てみたいという思いもあって。要は自分以外の要素を作品に取り入れてみたいなと思ったんです」

――ゲスト・ミュージシャンの人選はどのように行われたのでしょう?

「普段から近しい人たちというか、これまでの活動を通してつながれた人たちに集まってもらいました。人との出会いって意図的に作るものでもないと思うし、やっぱり自然発生でつながっていけるのが僕としては心地よくて。

それこそドラマーの松浦大樹は普段のライヴから僕のイメージを共有してくれているし、AAAMYYYもそうですね。元々その声をよく知ってるし、波長が合うから変な遠慮もいらないというか。 YeYeちゃんはレーベルの先輩でもあるし、前々から〈いつか一緒にやりたいね〉と話してたので、そのタイミングが今回ようやくきたって感じですね」

『IN SIGHT - EP』収録曲“VARIETY”

――1曲目の“SIGN”では、んoonのYuko Uesuさんのハープが大々的にフィーチャーされてますね。

「ミゲル・アトウッド・ファーガソンの音源に入っていたハープの音色がすごく良くて、ああいう音色を取り入れたビート・ミュージックを作ってみたいなと思ったんです。とはいえ、ナマのハープを操れる方ってそうはいないし、ましてやポップスに参入できる方となると限られてくるんですけど、そんなときにふと思い立ったのがUesuさんで。音楽の造詣も深い方ですし、これは是非お願いできないかなと」

※米LAのミュージシャン。フライング・ロータスやサンダーキャット、シネマティック・オーケストラ、ハイエイタス・カイヨーテ、マカヤ・マクレイヴンらの作品に参加し、ストリングス・アレンジなどを担当。TENDREが言及しているのはミゲル・アトウッド・ファーガソン&カルロス・ニーニョの2009年作『Suite For Ma Dukes』収録曲“Fall In Love”

ミゲル・アトウッド・ファーガソン&カルロス・ニーニョの2009年作『Suite For Ma Dukes』収録曲“Fall In Love”。J・ディラのトリビュート作品で、トム・ミッシュもサンプリングした

――“SIGN”という楽曲を作るにあたって、ハープが鳴っているイメージがまず先にあったと。

「なんというか、ハープの音色って非現実に連れていってくれるんですよ。それでまずナマの音を聴いてみたくなって、早速Uesuさんに大きなハープを持ってきていただいたんですけど、それがもう、本当に素晴らしかったんですよ。心が洗われる音っていうのは、こういうことなんだなと。やっぱりナマだからこそ得られる感動って大きくて、これは絶対にナマで入れなきゃと思いましたね」

『IN SIGHT - EP』収録曲“SIGN”。ミュージック・ビデオの監督はVIDEOTAPEMUSIC

 

見た人に驚きを示してもらえるようなアートワークがいいなって。そういうのが芸術の醍醐味だと思っている

――その非現実性というのは、今作のアートワークにも込められているように感じました。

「そうですね。『Red Focus』(2017年)の絵画にしても、『NOT IN ALMIGHTY』(2018年)の像にしても、 TENDREがこれまでに発表してきたアートワークは、どれも〈美術館のなかにある作品〉をイメージしていて。しかも、これまでのアートワークは自分の顔をモチーフにすることが多かったんです。でも、今回はそうじゃないものを中心に置きたいなと。

つまり、美術館を巡っていたのは自分自身で、その辿り着いた先には謎の生き物がいた――ざっくり言うと、今作のアートワークはそういうイメージから生まれたんです」

『IN SIGHT - EP』ジャケット

――この頭部が覆われた生き物は何を象徴しているのでしょうか?

「この生き物はTENDREを始める前の僕を象徴しているんです。美術館を回っていたら昔の自分がいて、その自分はなにかに視界を遮られていた。で、その遮るものを今の自分が外しに行くというイメージですね」

――ちいさな入り口から光が射しているような描写もありますね。これは?

「これは美術館の出口なんです。過去の自分の視界を遮っていたものをを外した自分が、そこからまた違うところに向かっていく。この先にまた次があるということの象徴というか」

――なるほど。どの描写にもなにかしらの意味が込められているんですね。

「ええ。パッと見た時に〈一体これは何だろう?〉と思ってもらえたり、見た人になにかしらの驚きを示してもらえるようなアートワークがいいなって。そういうのが芸術の醍醐味だと僕は思っているし、僕がTENDREで突き詰めていきたいのもそこだから、あえて抽象的なジャケットを作ったんです」

 

感動を自分のなかにとどめて、落とし込んだら、今度は自分の色を見せていく――芸術家の仕事にはそういう側面があるんじゃないかな

――あえて抽象的にしているというのは、もしかすると今作のリリックにおいても言えることですか?

「そうですね。言葉の綾とか言い回しから、そこで歌われている心象、心模様を汲み取ること――それが歌詞を読む楽しさだし、それこそ僕自身もはっぴいえんどとかの歌詞をそういうふうに楽しんでいたので。どういう言い回しにすれば、相手により深く伝わるのか――そういう言葉を探すのが僕は好きだし、たしかにそれはアートワークとも共通しているところですね」

――抽象的に表現することで、受け手に多様な解釈を促したいということ?

「ええ。音楽もアートも消費されていくじゃないですか。それ自体は悪いことじゃないんですけど、やっぱりこうして作品を世に出す以上は、なにかしら意味のあるものを残すべきだし、それが音楽家の仕事だと僕は思っているので。僕はそれを時々〈印象屋〉と呼んでるんですけど」

――〈印象屋〉というのは?

「要はいろんなもの見ては、そこで感動したことを自分のなかにとどめて、それをしっかりと自分のなかに落とし込んだら、今度は自分の色を見せていく――すくなくとも芸術家の仕事にはそういう側面があるんじゃないかなって。『IN SIGHT - EP』はそういう自分の信念を突き通すための大事な一歩になったかなと思ってます」

『IN SIGHT - EP』収録曲“ANYWAY”。Hondaの二輪市場活性化プロジェクト〈HondaGO〉に書き下ろした、YeYeとのコラボレーション・ソング

――では、各曲のリリックはどんなことを念頭に置きながら書き進めたのでしょうか?

「僕は誰もがその曲の主人公になってもいいと思ってて。しかも、その主人公は聴いた人自身じゃなくて、他の誰かでもいい。誰がそこにいても違和感がないような世界観を描きたいなと思っていたので、なるべく〈僕〉とか〈私〉みたいな言葉は使わないようにしました」

――曲中のキャラクターを固定させないように、あえて人称を使わなかったと。

「ええ。もちろんその先には〈あなた〉〈君〉という対象がいるんですけど、なるべくそこも限定しすぎないように書きたいなと。誰もがその曲の主人公になれるからこそ、そこでイメージを限定したくなかった。そういうことは今回けっこう意識していたかもしれません」

――特定のシチュエーションを想像させるような固有名詞もあまり使われていないように感じたのですが、そういうことは意識していましたか?

「ああ、それはありますね。もちろんそういう固有名詞を使うのが有効なときもあるんですけど、それこそ残すものとして音楽を作っていく中で、あまりにも一定の時代観を匂わせるワードを入れてしまうと、イメージがそこにとどまってしまいそうだなって。

もし自分の音楽を100年後に誰かが聴いたとき、特定の時代性を匂わせることで楽曲のイメージを固定させたくないというか。そもそも時代性って音像がおのずと語るものでもあるし、別に言葉でそれを主張しなくてもいいかなって」

――たしかに、サウンドにはその時代の雰囲気がわかりやすく表れますよね。だからこそ、言葉でそこを強調しなくてもいいじゃないかと。

「たとえば、最近の曲だと〈スマホ〉とか〈SNS〉みたいなワードがでてくる歌詞ってけっこう多いじゃないですか。単純にこれって好みの話でもあるとは思うんですけど、僕が個人的に思うのは、そこまで具体的な言葉を入れてしまうと、結局その言葉が頭のなかに残りすぎちゃうというか、〈ああ、あのスマートフォンの曲ね〉みたいな印象になってしまうんじゃないかなって。

……でも、わからないですね。そのほうがイメージがわかりやすく伝わるっていう考え方もあるわけだし。なので、とりあえず歌詞については今のところ、僕は僕なりのやり方でいこうっていうスタンスかな」

 

僕はこういう曲の意志を継いでいるんだってことを伝えたい

――先ほど〈時代性は音像がおのずと語るものだ〉という話もありましたが、たしかに『IN SIGHT - EP』からは現行のビート・ミュージックとの共振が感じ取れます。

「そうですね。今回のEPでは近年のビート・ミュージックに対する自分なりの答えを出したかった。実際、今作は曲ごとにリファレンスがちゃんとあるんです。ある意味、そこにはいちリスナーとしての僕の〈こういう曲で踊りたい、浸りたい〉という思いも投影されているんじゃないかな。聴いてくれる人に〈こういうビートも楽しいよ〉ってことを曲ごとに提示したかったというか。

やっぱり自分がリスナーであることを忘れずにいたいんですよね。そのあたりのバランス感覚は大切にしたいなと常々思ってて」

――そういえば、TENDREは昨日(2019年9月1日)の〈SWEET LOVE SHOWER〉にクロージングDJとしても出演されたそうですね。

「ああ、そうなんですよ。DJへの憧れはずっとあったんですけど、まさか初陣があんな大舞台になるとは(笑)」

――そのときのセットリストを拝見したんですが、TENDREの楽曲がトム・ミッシュやトロ・イ・モア、レジー・スノウあたりと並べられていて。まさに作家としての河原さんとリスナーとしての河原さんの気分をシームレスにつなげたような選曲だと思いました。

「たしかにあの日の選曲は、自分の曲と、そのリファレンスになったものをつなげてみたりすることで〈僕はこういう曲の意志を継いでいるんだってことを伝えたい〉というのが裏テーマでした。僕、リファレンスを披露するのって別に恥ずかしいことだと思ってなくて。

もちろんあまりにも似通っていてはダメだし、唯一無二のものを作るのが僕らの使命だとは思ってるんですけど、やっぱり誰が聴いても気持ちいいビートってあると思うので、まずはそれを共有してもらえたらいいなと」

 

その瞬間を大切にしながら、素直に生きていきたい

――ちょっと気の早い話かもしれませんが、現時点で次作の展望はどの程度見えているのでしょうか。それこそアートワークに次の展開を匂わせるような描写もあったので。

「全貌はまだまだ見えないですけど、次のイメージはどんどん広がってるところです。それこそビートのストックも常に作ってますし、言葉のメモもたくさん書きためているので。〈次にこういう曲を出したら、どんな反応がくるかな?〉みたいな妄想は常にしてますね」

――普段からビートのストックを増やしているんですね。つまり、TENDREの楽曲は基本的にビートから曲を組み立てているってことですか?

「もちろん曲にもよるんですけど、そういうケースがわりと多いかもしれませんね。語弊があるかもしれないけど、言ってしまえばビートっていつでも作れるんですよ。でも、メロディーとかは閃きが重要なので、閃いたらその瞬間にすぐ作業を始めなきゃいけない。なので、言葉やビートをストックしていく作業はその下準備に近いのかもしれないですね。

アートワークに出口をつけたのもそう。これから先の自分自身に対して、何かしらの余地をあらかじめ作っておくのが大事かなって。日常的な作業のなかで自分の気持ちを確認しながら、次の作品に向かっていきたいなと思ってて」

――なるほど。今日こうしてお話を聞いていて思ったのが、河原さんは音楽家としてこうありたいという哲学が明確にある方なんだなと。

「真面目ですみません(笑)。とはいえ、僕も人間なので。気分にムラはありますし、その時々でやってみたいことや行ってみたいところって変わるものだから、そこはもう、あるがままに進んでいけばいいかなと思ってます。今年見る景色と来年見る景色はきっと違うだろうし、だからこそ、どんなときも自分らしくあれるかどうかが大事だなって。その瞬間を大切にしながら、素直に生きていきたいというか。人として喜怒哀楽を自然に示せるような存在であれたらいいなっていう思いはありますね」

 


INFORMATION

〈未来ノ和モノ〉第14弾キャンペーン
TENDRE

1.〈未来ノ和モノ〉コラボ・ポスター掲出
掲出店舗:タワーレコード、TOWERmini全店(全国75店舗)
※TOWERminiもりのみやキューズモール店を除く
掲出期間:10月1日(火)~14日(月)

2.〈未来ノ和モノ〉フリーペーパー:TENDRE特集
配布店舗:タワーレコード、TOWERmini全店(全国75店舗)
※TOWERminiもりのみやキューズモール店を除く
配布開始日:10月1日(火)
※先着でお渡し、なくなり次第終了

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『IN SIGHT - EP』(DDCR-7108)をタワーレコードおよびTOWERmini全店、タワーレコード オンラインにてご購入いただいた方にTENDRE直筆サイン入り〈未来ノ和モノ〉コラボポスターが抽選で当たる応募抽選付ポストカードを先着で差し上げます。
応募締め切り:2019年11月3日(日)
※PC、スマートフォンからのご応募が必須です
※ご応募にはタワーレコードメンバーズへの登録およびレシート番号の入力が必要です
https://tower.jp/article/feature_item/2019/09/19/0701

 


LIVE INFORMATION
「IN SIGHT - EP」release tour

10月13日(日)北海道・札幌 BESSIE HALL ※SOLD OUT
10月15日(火)宮城・仙台 LIVE HOUSE enn 2nd ※SOLD OUT
10月20日(日)福岡 the voodoo lounge ※SOLD OUT
11月4日(月)大阪・梅田 Shangri-La ※SOLD OUT
11月5日(火)愛知・池下 CLUB UPSET ※SOLD OUT
11月15日(金)東京・恵比寿 LIQUIDROOM ※SOLD OUT
11月18日(月)東京・恵比寿 LIQUIDROOM(追加公演)
11月20日(水)大阪・梅田 Shangri-La(追加公演)
https://smash-jpn.com/live/?id=3184

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