傑作『No Beginning No End』(2013年)をリリースして以来、長らくブルーノート・レーベルを背負って立つシンガーとして、あるいはロバート・グラスパー以降の現代ジャズを象徴するミュージシャンの一人として、目覚ましい活躍を見せてきたホセ・ジェイムズ。

転機が訪れたのは2018年だった。彼はシンガー・ソングライターのターリ、およびプロデューサー/エンジニアのブライアン・ベンダーとともにインディペンデント・レーベル〈レインボー・ブロンド〉を立ち上げ、まずは自らのデビュー作である『The Dreamer』(2008年)の10周年記念盤をリリース。翌2019年にはターリのデビュー作『I Am Here』を世に送り出すとともに彼女とプライヴェートでも結ばれ、レーベルを本格的に始動させた。

このままブルーノートに所属し続け安定した地位を確保しつつ、レインボー・ブロンドを同時並行的に運営していくという手段もあり得たはずである。だが彼はジャズの歴史を築いてきたこの名門レーベルから独立し、このたび『No Beginning No End 2』を発表することで新たなスタートを切ることとなった。

ある意味では大きな賭けに出たともいえる独立だが、今回本人から話を伺っていくなかで、むしろインディペンデントな活動の必然性が色濃く浮かび上がってきた。彼はブルーノート時代からデザイナーやフォトグラファー、あるいはエンジニア等々、現在につながるメンバーと共同体=コレクティヴのようなかたちで音楽制作を行ってきたという。

突飛に思われるかもしれないが、このことは60年代からいわゆるアヴァンギャルドなジャズ・シーンで活躍し、現代のミュージシャンにも多大なる影響を与え続けているアンソニー・ブラクストンの周辺の状況を想起させる。たとえばブラクストンのもとで学んだテイラー・ホー・バイナムがニック・ロイドとともに創設した〈Firehouse 12 Records〉というインディペンデント・レーベルがある。そこではミーガン・クレイグのシンプルでファニーなアートワークのもと、ブラクストンに師事したメアリー・ハルヴァーソンやタイショーン・ソーリーらの作品を発表するなど、彼らは巨大な音楽産業に絡め取られることのない活動を、ある種のコミュニティーのなかで行ってきた。むろんコミュニティーと言うならば、ブラクストンの支援団体〈Tri-Centric Foundation〉による、ときに70人近くものミュージシャンを巻き込むプロジェクト〈Sonic Genome〉のように、トランスナショナルで大規模な自主イベントがつながりを生み出してきたことも見落とせない。

突出した才能を持つ一人のミュージシャンがシーンを牽引するのではなく、それぞれに異なる才能を秘めたミュージシャン/アーティストたちが協働することによって新たな価値を創出すること。こうしたコレクティヴのあり方はおそらく、複数の才能による持続可能なコラボレーションをいかにして行うかという点に、現代ジャズのモードが移行してきたことを意味しているのだろう。少なくともホセ・ジェイムズはそのような道行きを進んでいるように見える。

今回のインタビューでは、そうした彼にレインボー・ブロンドの話をはじめ、自作曲からビリー・ジョエルの名曲“Just The Way You Are”のカヴァーまで収録した『No Beginning No End 2』におけるコラボレーションの内実、さらにメアリー・ハルヴァーソンのことまでを伺った。

JOSÉ JAMES No Beginning No End 2 Rainbow Blonde/ユニバーサル(2020)