アイコニックな容貌、ドープトロニックな音風景――その美を圧倒的に司るのは、かつて小枝として知られた女。いまの彼女は何者なのか、答えは『LP1』にある

流行りはよく知らない

  〈次のアリーヤ〉なる形容が濫用される様子には、語彙よりも記号が好まれる世のスマート化を見る思いだが……その際にアルーナやケレラと共に名を挙げられることも多いFKAツイッグス。この風変わりな名前は、昨年あたりから早耳なリスナーの間で言い交わされてきたものだろうし、BBCが選ぶ〈Sound Of 2014〉のロングリスト入りが話題となった折には、すでに違和感なく受け入れられていたものに違いない。業界の期待をあらかじめ背負っていたサム・スミスとエラ・エアはともかく……バンクスやサンファ、ケレラらが名を連ねた〈Sound Of 2014〉において、FKAもまたそうした〈傾向〉を形作った一人なわけだが、そうした顔ぶれと一括りにされる状況について当の本人は、「他のアーティストをよく知らないからわからないわ。あんまり最近の音楽を聴かないし、いまどういう音楽が流行っているかとか、そんなに知らないの」と用心深く語る。

 細かいあれこれがさほど明かされていないのは、その歩みがいかに性急だったかを示す証拠でもあるだろう。2つのEPだけで確たる期待をベットされたFKAツイッグスことターリア・バーネットは、ジャマイカ系とスペイン系の血を引く88年生まれの26歳。出身はイングランドの保養地としても知られるチェルトナムだ(ブライアン・ジョーンズの生地でもある)。

 6歳の頃にダンスを始め、10代後半にはもうプロのダンサーとして活動していた。例えばジェシーJ“Price Tag”(2011年)のMVにFKAの姿はあるが、徐々に音楽をやる側へと興味をフォーカスしていた彼女は、その頃にはもう楽曲制作に奮闘していたようだ。ダンスでの稼ぎはスタジオ代や機材に変わり、「音が自分の思い描いてるものと違うと感じるようになって」プログラミングから独学した結果、〈ツイッグス〉名義のエッジーな習作として自主盤『EP1』(2012年)が生まれたのだった。

2012年作『EP1』

 同作リリース後には無名ながらもi-D誌の表紙に抜擢され、フォトジェニックな外見で興味を引いたというが、「そういう話題性とかじゃなくて作品で評価されるように、音楽をがんばらなきゃってすごく思ったわ」という思いは強かったという。そして翌年には、カニエ・ウェスト『Yeezus』への抜擢やディーン・ブラント“The Redeemer”の制作で知られるアルカと共同作業を行い、4曲入りの『EP2』をヤング・タークスから発表。そのうち“Water Me”はレーベルのショウケース盤『Young Turks 2013』にサンファやコアレスと並んで収録されてもいたし、活動当初から意欲的にこだわってきたヴィジュアルの作り込みがエキセントリックな形で全開となった同曲のMVも話題を呼んだものだ。そして……インクとのシングル“FKA x Inc.”を経ていよいよ完成を見るのが、ここに紹介する初のフル・アルバム『LP1』である。

2013年作『EP2』

FKAツイッグスとインクによる2014年のシングル“FKA x inc.”