INTERVIEW

FKA TWIGS 『LP1』Part.1

アイコニックな容貌、ドープトロニックな音風景——その美を圧倒的に司るのは、かつて小枝として知られた女。いまの彼女は何者なのか、答えは『LP1』にある

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  • 2014.08.20
FKA TWIGS 『LP1』Part.1

流行りはよく知らない

  〈次のアリーヤ〉なる形容が濫用される様子には、語彙よりも記号が好まれる世のスマート化を見る思いだが……その際にアルーナケレラと共に名を挙げられることも多いFKAツイッグス。この風変わりな名前は、昨年あたりから早耳なリスナーの間で言い交わされてきたものだろうし、BBCが選ぶ〈Sound Of 2014〉のロングリスト入りが話題となった折には、すでに違和感なく受け入れられていたものに違いない。業界の期待をあらかじめ背負っていたサム・スミスエラ・エアはともかく……バンクスサンファ、ケレラらが名を連ねた〈Sound Of 2014〉において、FKAもまたそうした〈傾向〉を形作った一人なわけだが、そうした顔ぶれと一括りにされる状況について当の本人は、「他のアーティストをよく知らないからわからないわ。あんまり最近の音楽を聴かないし、いまどういう音楽が流行っているかとか、そんなに知らないの」と用心深く語る。

 細かいあれこれがさほど明かされていないのは、その歩みがいかに性急だったかを示す証拠でもあるだろう。2つのEPだけで確たる期待をベットされたFKAツイッグスことターリア・バーネットは、ジャマイカ系とスペイン系の血を引く88年生まれの26歳。出身はイングランドの保養地としても知られるチェルトナムだ(ブライアン・ジョーンズの生地でもある)。

 6歳の頃にダンスを始め、10代後半にはもうプロのダンサーとして活動していた。例えばジェシーJ“Price Tag”(2011年)のMVにFKAの姿はあるが、徐々に音楽をやる側へと興味をフォーカスしていた彼女は、その頃にはもう楽曲制作に奮闘していたようだ。ダンスでの稼ぎはスタジオ代や機材に変わり、「音が自分の思い描いてるものと違うと感じるようになって」プログラミングから独学した結果、〈ツイッグス〉名義のエッジーな習作として自主盤『EP1』(2012年)が生まれたのだった。

【参考動画】FKAツイッグスの2012年作『EP1』

 

 同作リリース後には無名ながらもi-D誌の表紙に抜擢され、フォトジェニックな外見で興味を引いたというが、「そういう話題性とかじゃなくて作品で評価されるように、音楽をがんばらなきゃってすごく思ったわ」という思いは強かったという。そして翌年には、カニエ・ウェスト『Yeezus』への抜擢やディーン・ブラント“The Redeemer”の制作で知られるアルカと共同作業を行い、4曲入りの『EP2』をヤング・タークスから発表。そのうち“Water Me”はレーベルのショウケース盤『Young Turks 2013』にサンファやコアレスと並んで収録されてもいたし、活動当初から意欲的にこだわってきたヴィジュアルの作り込みがエキセントリックな形で全開となった同曲のMVも話題を呼んだものだ。そして……インクとのシングル“FKA x Inc.”を経ていよいよ完成を見るのが、ここに紹介する初のフル・アルバム『LP1』である。

【参考動画】FKAツイッグスの2013年作『EP2』
【参考動画】FKAツイッグスとインクによる2014年のシングル“FKA x inc.”

 

 

抽象的な見方のほうが好き

FKA TWIGS LP1 Young Turks/HOSTESS(2014)

※日本盤には『EP1』を全曲ボーナス収録! 

 

 重いものをゆっくり動くように明滅するディープなベースと緻密なビートと、声楽の素養も窺わせる歌唱が浮遊する様は、シアラビョークの間を行くような(語彙が貧困!)フロウも相まって現代版トリップ・ホップとも呼べるようなアトモスフィアを湛えている。もっとも、そう形容されるものがインディーR&Bという言葉に集約されたフォーマット自体は珍しくないが、世評に対する本人の弁はこうだ。

  「曲のいくつかはR&Bっぽいけど、他の曲にはそれよりパンクっぽい、凄くラウドなものもあると思うし。どちらかというと自分ではクラフトワークとかディーヴォとかに近いと感じる。あとはB52'sとかもね。昔からパンク・バンドで歌いたかったんだけど、それに合う歌い方ができなかった。(自曲の)ビートをちょっと変えて、シャウトすればパンク・ソングになるんじゃないかと思うわ。共感するってことが具体的なサウンドの選び方だけとは限らないし、そういうふうに抽象的な見方をするほうが私は好き」。

 今回の『LP1』は引き続きアルカとの共同作業を中心にしつつ、意外にもポール・エプワースとの手合わせが実現している。

  「正直言うと最初はすごくやりたくなかったの。彼はポップスターと仕事してる人だし、私はアデルフローレンスみたいに歌いたくなんてないのに、何でこんなことしてるんだろう……と思って。スタジオに入る当日もグズグズしていて、予定から2時間も遅刻したの。やっと近くの駅に着いたら、彼にメールしてランチに誘ったわ。もっと遅い時間になったらスタジオに行かなくて済むかも、って思って(笑)。それでランチに行ったら、席に座って彼が開口一番〈正直に言わなきゃいけないんだけど、今回のセッションは想像がつかなくて不安で、本音では気が進まなかったんだ〉って言ってきたの。で、〈実は私も!〉って、2人とも笑い出しちゃったわ。それで一気に緊張が解けて、彼みたいに才能があって業界でも尊敬されているような人でもそんな繊細な感情が創造的なプロセスにおいて生じるんだ、って感じたのは素晴らしい体験だった」。

 その成果は素晴らしい“Pendulum”に実を結んでいるが、余白の多いカンヴァスを細やかな音色の滴がノックするようなサウンドスケープは、いずれの曲にも共通する彼女自身のヴィジョンを体現したものなのだろう。プロダクション面はEPから大きく変わった印象はないものの、アルバムの尺を得たことで結果的にアレンジごとの多様さは見えやすくなり、レコーディング環境の変化から言葉の響き方に注意を払うようになった結果、歌の輪郭も際立ってきたように思える(彼女いわく今回のコンセプトのひとつは「歌詞がよく聴こえるようにすること」だったという)。

 なお、ツイッグス(小枝)とは、関節をポキポキ鳴らす癖から付いた呼称だという。それがFKAネームだとしたら、現在の彼女はいったい何なのだろう? 恐るべき傑作となった『LP1』に圧倒されれば、聴き手の各々が彼女に新しい名前を与えることができるかもしれない。

 

▼関連作品

左から、FKAツイッグスの2013年のEP『EP2』、2013年のコンピ『Young Turks 2013』、サンファの2013年のEP『Dual』(すべてYoung Turks)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

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