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6年間待った甲斐が充分ある。新作が〈Brainfeeder〉からドロップ!

 フューチャー・ソウルと呼ばれるジャンルにおいて、その確固たる地位を確立したハイエイタス・カイヨーテ。これまでに2度グラミー賞にノミネートされ、世界中のフェスのメイン・ステージを席巻してきた。そんな彼らのアルバムが6年という期間をおいて、フライング・ロータスが主宰する〈Brainfeeder〉よりドロップされる。前作からの環境変化や本作への想いなどを“ネイ・パーム”・ザールフェルト (ギター/ヴォーカル)とポール・ベンダー(ベース)に語ってもらった。

HIATUS KAIYOTE 『Mood Valiant』 Brainfeeder/BEAT(2021)

 「(前作以降)注目されるようになったり観客が増えたりと、とにかくクレイジーな時期だった。オーストラリアのバンドがグラミー賞のR&B部門でノミネートされるっていうのはすごいことだしね。でも一番嬉しいのは自分がリスペクトしているアーティストが自分を知ってくれてるってことだな」

 このポールの言葉のようにハイエイタス・カイヨーテの音楽は数多くのシンガー/ラッパーにサンプリングされている。主なアーティストだけでもアンダーソン・パーク、ケンドリック・ラマー、ドレイクなど、枚挙に暇がない。そしてこの6年間についてネイ・パームは次のように語る。

 「確かにハイエイタスのレコードは出さなかったけど、その間も全員が作ってたし、それも全部バンドの物語の一部で、バンドにとっては重要なことだったのよ。それぞれがバンドから離れて、クリエイティヴに活動してクリエイティヴな果汁を絞り出して混ぜ合わせて、そしてすごく誇りが持てるものを作り出した。バンドとして進化した証としてこのアルバムがある」

 実際、各メンバーはそれぞれのソロ活動などを充実させ、数々のコラボ、プロデュース作品を残している。そして彼女自身はこの期間、乳癌という大病も患った。ただそのことについても前向きとらえ、いま自身のやるべきことを改めて認識し、そして音楽創作をする上で自由を手に入れたと語る。

 「かっこいいかどうかとか、素晴らしいかどうかとか、みんなが気に入るかどうかとか、そんなことはどうでもよくなって、私は今自分のためにこれをやっているんだと思ったわ。乳癌になって諸々経験したわけだけど、実は母を同じ病気で亡くしてるのよ。同じ経験をしたからには彼女に挨拶するようなタイトルにしたいと思って。聴く人がどんな気分でもこのアルバムが何かしらの栄養を与えられることを願ってる。たとえ暗い瞬間があっても勇気を持ってほしいっていう意味も込めていて」

 言葉の通り、このアルバムには様々な感情を包み込む器の大きさがある。それでいてサウンド的な上質感、先進性、攻撃性は前作を凌ぐ。6年間待った甲斐は充分あったと感じる作品だ。