(左から)内田怜央、長谷部悠生
 

KroiがニューEPを2021年11月17日にリリースした。その名も『nerd』。一般的に〈nerd〉と言えば〈オタク〉のような意味を持つスラングだが、どうやらKroiが唱えるnerd論はちょっと違うようだ。

そこで、内田怜央(ボーカル)、長谷部悠生(ギター)の2人にタワーレコード渋谷店6FのTOWER VINYLに来てもらい、Kroiの大ファンでもあり、自他共に認める音楽nerdでもあるタワーレコードスタッフの藤川祐介との座談会を実施。ニューEP『nerd』の話から、音楽nerdにオススメの音楽の聴き方まで、話題は多岐にわたった。

Kroi 『nerd』 ポニーキャニオン(2021)


音楽nerdな曲作り

――まずはここ、タワーレコード渋谷店6FのTOWER VINYLで、内田さん、長谷部さんそれぞれに〈音楽nerdにオススメのLP 1枚〉を選んでいただきましたので、その紹介と選盤の理由から聞かせてもらえますか。

長谷部悠生「僕はボビー・ウーマック(Bobby Womack)の『Understanding』(72年)ですね。このアルバムはストリーミングサービスに無くて、以前レコ屋に行った時に気になってて。ジャケもかわいいし、状態がいいものを探してたんです。これはボロボロですけど、これを機に買おうと(笑)」

藤川祐介「音は聴いてたんですか?」

長谷部「いや、聴いたことなくって。ボビー・ウーマック自体は知ってる人も多いと思いますけど、すごくファンキーで、シンガーとしてだけでなくギタリストとしてもすごい。nerdな音楽の入り口としてもいいし、そこから深堀りもしてもらいたいので、今回オススメします」

内田怜央「やっぱり聴いて楽しいのがいいよね」

長谷部「そうそう。ジャケもいいし、この盤の跡が付いてるのもいい」

藤川「これは名盤です。CDもすでに廃盤だし、すごくいい作品を選んだと思いますよ」

――では怜央さん。

内田「俺はババドゥ(Babadu『BABADU!』79年作)っすね。もうちょっと中身をちゃんと紹介できるものを探そうと思ったんだけど、普通に俺がめちゃめちゃ欲しいものを選んじゃいました(笑)。っていうのも、この前ツアー(〈Kroi Major 1st Album “LENS” Release Tour “凹凸”〉)に行ってた時に、PAとレコーディングエンジニアをやってくださってる柳田(亮二)さんと音楽の話をしてて、〈怜央くんは絶対アロハ・ガット・ソウルを好きだと思うよ〉って言われて。ホテルに帰ってすぐにYouTubeで探して聴きまくって、そしたら食らっちゃったんですよ。このアルバムもYouTubeで見付けて、ちょうどいい具合なんですよね」

藤川「これはCDが比較的最近リイシューされていて、手に取るにはすごくいいタイミングですね」

内田「これまで思い描いてたソウルミュージック像みたいなものを一新してくれる感覚があって、よりチルで、よりリゾート感のある雰囲気がすごくいいんです。安心する音楽ですね」

藤川「僕からも、そんなKroiのおふたりにめちゃくちゃオススメしたい盤があって今日持ってきたんですけど、それがこの『海や山の神様たち -ここでも今でもない話-』(オリジナルは75年リリース)というCDです。アナログだとレア化しているものを最近僕が復刻させたものなんですけど、六文銭というフォークユニットにいた及川恒平が作詞していて、作曲はなんと当時、芸大の院生だった今や教授の坂本龍一。さらに山下達郎さんとシュガー・ベイブが参加している、アイヌ伝承の民謡を歌っている作品です」

藤川祐介(タワーレコード)
 

内田長谷部「えー! ヤバい!」

――どういうところがKroiにオススメなんですか?

藤川「Kroiの魅力のひとつとして、まったく展開が読めないワクワク感があって、ここがイントロかな?と思って聴いてるとイントロ2が出てきて、さらにイントロ3が出てきたり、サビかと思ったらその次がサビだったり、〈そこ狙ってきますか!?〉みたいなものが多い。そういうところが通じると思ったんです。このアルバムもいきなり合唱が入ってきたり、拍子が不思議だったり、でも音は完全にシュガー・ベイブなんです」

内田「これはヤバい! どういうプロジェクトなんだ!?」

――Kroi的にはどうですか?

内田「実は一瞬いた大学時代にシュガー・ベイブのコピーバンドをやってたんですよ」

長谷部「千葉(大樹/キーボード)さんは達郎さん大好きだしね」

――意外な共通点がありましたね。Kroiの大ファンである藤川さんから見て、他にもKroiの魅力ってどういうところですか?

藤川「Kroiってダンサブルだし、それこそ『Head Hunters』(ハービー・ハンコック)とかウェザー・リポートみたいな70年代から、レッチリとかアンダーソン・パークとかも含めて、テン年代までの40~50年間のリズムミュージックを全部通過した上で成り立っていて、それって今までにない音楽だなって思うんです。特にライブを観るとやられちゃいますよね。そしてそれが今の若い人にもウケている。どうやって曲を作ってるんですか?」

長谷部「後から繋ぎ合わせたり、構成を変えたり、みんなでソロを回したりするんですけど、でも怜央が作るデモの時点でかなり曲は出来上がっているんですよね」

藤川「例えば今作で言うと“Juden”ってベースが特徴的ですけど、ああいうのはデモの段階からあれが入ってるんですか?」

内田「入ってますね。あの曲は身から出た錆のように作った曲で、関(将典/ベース)さんはグラハム型なんですけど、俺はデモの段階からフリー型でやったスラップを入れてます。それを関さんにフレージングしてもらって」

※スラップベースの弾き方。ラリー・グラハムは右手親指を弦に当てて振り下ろすのに対し、フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)は親指を弦に当ててはじくという違いがある

藤川「ギターもキーボードもデモの時点ですでに入ってる?」

長谷部「入ってますね。もちろん自分で付け足すところは付け足すんですけど」

内田「でもね、なぜか俺が作るデモは超暗いんですよね(笑)」