こういう音楽の似合う夏が来れば――季節のモードを全開にした待望の新作が登場! エモーショナルな歌声と珠玉のメロディー、爽快なグルーヴが輝ける風景を描き出す!

 ジャンクフジヤマの新作と共に夏が迎えられるというシアワセ。『SHINE』というアルバム・タイトルからも伝わってくるが、HYBRID C-I-T-Y SOUND(2013年作『JUNK SCAPE』に添えられた宣伝文句)の担い手は、ここにきていっそう勢いづいている感がある。そんな彼がアルバム作りの起点に置いたのは「開放感」というテーマだったという。

 「車でドライヴしながらでもいいし、このアルバムをポケットに入れて外に持ち出してもらいたいという気持ちで作りました。〈こういう音楽が似合う夏が来ればいいな〉という希望もあったかもしれませんね。ちょっと前まではライヴしたくても先の状況がわからないから予定が立たなかったり、けっこう鬱屈としていましたから」。

ジャンクフジヤマ 『SHINE』 Mil Music/Pヴァイン(2022)

 つまりは明るい未来への希望を反映した〈夏向き〉だってこと。そういう目線を働かせつつ、みずからを鼓舞しながら作られた楽曲群の印象はきわめてカラフル。前作『Happiness』(2020年)と同じく神谷樹との共同プロデュース体制もすこぶる順調で、新妻由佳子のペンによる風格漂うバラード“僕らのサマー・デイズ-Our Summer Days-”、天野清継の作曲したメロウ・フォーキーな“Precious Moments”など新たな定番となり得る佳曲揃いだし、牧歌的な雰囲気を湛えた“Walk about”をはじめ、新味もそこかしこに。歌い手としての度量をはかるため、外部からの知見を積極的に取り入れていく姿勢は従来通りで、まな板の上の鯉になることを堪能する様子も窺える。

 「そこは変わらないですね。まな板に乗せてくれる人が見当たらない場合は自分でやるだけ。乗せてくれるなら、どうぞ好きに料理してください、っていう(笑)。出はじめた頃は自作曲も多かったから〈シンガー・ソングライター〉という位置付けになることも多いけど、こだわりはなくて。自分が常にフォーカスしているのは〈歌〉の部分で、そこさえ思い通りになれば大丈夫。だからふだん話しているときと同じキーで歌った“Precious Moments”にも対応できる」。

 AOR~シティ・ポップと呼ばれる世界をトレンドとは関係なく追求してきた人だけあって、伝統への意識とフレキシブルな姿勢が程良く溶け合ったサウンドの妙味はやはり格別だ。

 「そもそもシティ・ポップという音楽自体が、フロントに立つひとりのミュージシャンと後ろの演奏家による兼ね合いによって作り出されてきたものなわけです。良いものは良い兼ね合いのなかから生まれる。そう信じているから、絶対に曲げない部分と柔軟な部分のバランスは強く意識してますね」。

 ライヴの場に徹底してこだわり、いつも「再現性こそ最重要課題」と口にする彼だが、そこにも先の発言と同様の価値観を見出すことができよう。そんな主張を誰よりも理解し、支持した存在こそ、昨年逝去した村上“ポンタ”秀一だった。

 「彼はドラマーですし、師匠と弟子という関係ではなかった。影響を受けたのは彼のセンス。バラードをやるときのポンタさんは最高でしたが、歌い手に寄り添う感じを彼は〈人情〉と表現するんです。ライヴでやる音源を聴きながら〈きっとこれは人情入っちゃうなぁ〉って言ってたり。とにかくポンタさんなしの状況で、生のバンド・サウンドを構築していく作業をいままでやったことがなかったので。喪失感は大きいです」。

 そんな彼との密なる交流の一端は今作のボーナストラックに収録されている。2011年のライヴ・テイクで、山下達郎の名曲“LOVE SPACE”(77年)のカヴァーだ。

 「オリジナルが世に出たとき、私はまだこの世に存在してないんですよね(笑)。そんな曲を、実際にレコーディングに参加したポンタさんとやれたというね……それは感慨深いものがありますよ。ポンタさんの演奏からは、〈この時代のサウンドを作ってきたのは俺たちなんだ〉って自負がすごく感じられる。それに対して生半可なアプローチでは太刀打ちできない。絶えず〈自分のオリジナリティーを出せ!〉と訴えかけてくるから、いつも覚悟を持って臨まなければいけなかった」。

 そんなツワモノたちとの貴重な経験を糧にしてきた彼も、もうすぐ40代。「歳を重ねたことによる声の変化を受け入れつつ、その時々に合った響きを求めていきたい。それに長く歌っていきたいので、歌により幅を持たせたい」ということだが、王道でありながら新鮮さも兼ね備えた『SHINE』を聴いていると、明るい未来を思い描くことができるのだ。

参加アーティストの作品を一部紹介。
左から、神谷樹の2021年の配信シングル“SEASIDE”(Mil Music)、新妻由佳子の2016年作『対岸の人』(Honeysuckle)、天野清継の2020年『MASKINFABRIK』(天野清継)、村上“ポンタ”秀一の2012年作『リズム・モンスター』(ユニバーサル)

 

ジャンクフジヤマの作品を一部紹介。
左から、2011年作『JUNKWAVE』(Mil Music)、2013年作『JUNK SCAPE』(ビクター)、2018年作『ROMANTIC SONGS ~MY FOOLISH HEART』(TheGLEE)、2020年作『Happiness』(Mil Music/Pヴァイン)