©Shun Itaba

没頭するように聴いて次の音を紡いでゆく――3人の対話を楽しむようなバンドサウンド

 『MASKS』は、バンクシア・トリオの3作目となるアルバムだ。これがリリースされる少し前に、南青山のBAROOMでライヴを観た。観客がステージを取り囲むユニークな円形劇場での、須川崇志(ベース)、林正樹(ピアノ)、石若駿(ドラムス)の演奏は本当に素晴らしかった。お互いが向かい合うように配置されたセットから出される音は、その一つ一つが対等な響きとして存在していた。ピアノ・トリオ然とした演奏からは離れて、三者の対話を楽しめる空間が出来上がっていた。

須川崇志バンクシアトリオ 『MASKS』 TSGW(2023)

 このアルバムは、そのライヴの記憶を蘇らせる。ライヴと同様の、とても繊細で、生々しい動きの音が記録されている。そして、これまでのバンクシア・トリオのアルバムとは異なるフィールドに踏み込んでいる。菊地雅章の“Drizzling Rain”でスタートして、ポール・モチアンの“Abacus”も演奏されるが、それらは感傷的なものを排除して自分たちの世界観に組み込んでいき、ニック・ドレイクの“Bird Flew By”も必要以上にメロディックな展開に持ち込まない。

 だが、これは単にストイックであったり、抑制が効いているというものではない。分かり易さや親しみ易さというものとトレードオフで成立する表現を突き詰めているというべきだろう。アナログテープで録音され、デジタルによる高解像のプロセッシングも経て音源化されたアルバムは、楽器の倍音成分からスタジオの残響や空気感まで丁寧に扱われている。リリースに寄せての須川のコメント(〈たった1音が持つ音響現象そのものにフォーカスして、音が消えてゆくまでのディケイの海にダイブする〉)通りの録音だ。だから、出来るだけ良い環境で、適切なヴォリュームで聴くと、より伝わってくるものがある。少しだけ特別な聴取体験を強いるかもしれないが、そういう作品が今の日本から生まれた意義は大きい。これは今後も長く聴かれ、発見されていくアルバムになると思う。

 


INFORMATION
須川崇志の情報ページはこちら→https://www.tsgw.net/
林正樹の情報ページはこちら→http://www.c-a-s-net.co.jp/masaki/
石若駿の情報ページはこちら→https://www.shun-ishiwaka.com/home