奥深き歌謡曼荼羅に長らく潜んでいた筒美京平と橋本淳の未発表曲がビート演歌として日の目を見ることになった。それを歌うのは――

橋本淳 × 筒美京平の世界

 筒美京平が作曲した“ホテル砂漠”という曲をご存知だろうか? 耳馴染みがなくても当たり前。同曲は諸事情からお蔵入りだった未発表曲で、このたび初めて日の目を見たのだから。しかもそれが、筒美とのコンビで、いしだあゆみ“ブルー・ライト・ヨコハマ”(68年)や平山三紀“真夏の出来事”(71年)といった都会的でファッショナブル、随所に洋楽的センスを纏いながら日本人の心の琴線に触れる情緒も湛えるヒットを量産した橋本淳の作詞と聞けば、興味をそそられずにはいられないだろう。岡田ユミの編曲も相まって、楽曲にはチェンバロの魅惑的な響きや甘くソフトなメロディーといった往年の筒美作品を想起させる要素が点在しており、堺正章の“ベィビー、勇気をだして”(72年)を彷彿とさせるゴキゲンなノリのコーラスなども登場。イナタいブレイクビーツもハマっていて、〈これがビート演歌だ!〉という惹句にも素直に頷いた次第である。

 刹那的でエロティックな香りが柔らかなヴェールとなって全体を覆ってはいるが、その中心には乾いた哀愁が転がっていて……というイメージを喚起するあたりもまさしく橋本 × 筒美作品ならでは。そんな注目曲を授かってこのたびデビューしてきたのが、夏海姉妹なる女性デュオである。昭和歌謡に精通したリード・ヴォーカルの夏海ジュンと、演劇界にも身を置くコーラスの夏海愛は、ずっと離れ離れの状態だったが縁あって再会を果たし、手を取り合ってスポットライトに照らされた舞台に立つことを決意……という香ばしいエピソードも用意されていてとにかく準備は万端。今回はプロデュースを務めた大久保ノブオ(ポカスカジャン)も同席した形で話を訊いた。

夏海ジュン「筒美先生の未発表曲を歌わせていただくなんて、最初は新手の詐欺じゃないかと思いました(笑)。実際に曲と対面して思ったのは、いろんな経験をしてきたいまの私じゃないと歌えないだろうなってこと。10代、20代の子が歌ってもきっとピンと来ないはずで、いいタイミングで出会えたことに感謝です」

夏海 愛「平成生まれで平成のど真ん中を歩いてきた私としては、このコッテリした雰囲気は何だ!?って最初思いました。ふだん馴染みのない世界なので、ジュンちゃんに寄り添うようにコーラスをつけて、徐々に曲の世界に染まっていけるよう教育してもらったんです。昭和と平成を足して令和、っていうニュアンスを出せるように意識しましたね」