日本移住後の生活から生まれた、豊かで彩り溢れるテリー・スタンダーズ

 音源が送られてくる。最初のトラックをクリックする。

 指をこうした配置で、和音でありつつ、和音を構成する音たちがそれぞれべつの色あいを持っている。テリー・ライリー(以下T.R.)のピアノだ。

 しばらく聴いていて、たしかに、これはT.R.の、と実感しながら、どこかで、ちょっと違うんじゃないか、もしかしたら、送られてきたデータはべつの音源なんじゃないか、との疑念が。だって――T.R.の楽曲ではない、とわかったから。じゃあ、これは?

 性格の粗雑さいがいのなにものでもない。大抵の場合、先入観はもたずに音楽にふれたいがため、何が演奏され収録されているのか、はじめはわざとみない(わずかに視界にはいることはあっても、みなおすのはあとにする)から。今回もそうだ。T.R.、新譜、でわかった気になり、あとは聴けばいい、とおもいこんだのだったから。

TERRY RILEY 『Terry Riley STANDARDⓈAND -Kobuchizawa Sessions #1-』 STAR/RAINBOW RECORDS 星と虹レコード(2023)

 収録されている楽曲の多くは、ジャズの、というか、スタンダード・ナンバーと、T.R.のオリジナル。前者が6曲、後者が4曲。計10曲。

 あらためて、T.R.が弾く〈スタンダード〉と認識する。こんどは、スタンダードがあまりにT.R.、であることに驚く。どこがどうして、というのは難しい。はじめに記したように、音の配置と音そのものの色あい、また、音がつむぎだす線のかたち、とでも言ったらいいか。

 スタンダード曲とT.R.のオリジナル曲がならぶ。ピアノが主で、シンセサイザーも。さいごにはひとの声も。それでいて、どれがオリジナルでどれがスタンダードかを気にする意味は、ほぼ、ない。これらはひとつの時空のなかに。T.R.という音楽家の発する音として、おなじ、か。

 反復音型のT.R.をもとめるなら、きかなくてもいいんじゃないか、勧める必要はないか。そうおもっていた。だが、そうじゃない。T.R.という音楽家、その音楽の、音楽家のありようにふれるためには、既存の楽曲があり、それを演奏することもまた、オリジナル楽曲の演奏とおなじ、そう言わなくちゃいけない。

 わたしは、いま、ここにいるのだ、きっと。

 


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MUSIC FUTURE

2023年10月31日(火)、11月1日(水)東京・紀尾井ホール
https://joehisaishi-concert.com/mf-vol10/