©Sara Miyamoto

現在日本在住、現代音楽やミニマルミュージックの巨匠として知られる作曲家・音楽家のテリー・ライリーが、ついにニューアルバム『Terry Riley STANDARDⓈAND -Kobuchizawa Sessions #1-』をリリースする。タイトルどおり山梨・小淵沢で録音された本作は、ジャズのスタンダードナンバーとオリジナル曲で構成された一枚。ここに刻まれた大らかで穏やかな音楽は、御年88にして保ち続けているオープンマインドな姿勢と懐の深さ、即興演奏や音楽そのものへの愛を強く感じさせる、とても雄大で柔和なものだ(録音当時は84歳)。〈現代音楽やミニマルミュージックの巨匠〉というパブリックイメージからまったく自由な瑞々しい新作を作り上げたテリー・ライリーに、ライターの松永良平(リズム&ペンシル)がインタビューを行った。 *Mikiki編集部

TERRY RILEY 『Terry Riley STANDARDⓈAND -Kobuchizawa Sessions #1-』 STAR/RAINBOW RECORDS 星と虹レコード(2023)

 

©Tadashi MIyamoto

すべては偶然の流れ

──まず、今回のアルバム『Terry Riley STANDARDⓈAND -Kobuchizawa Sessions #1-』にはとても驚き、そして計り知れない感動を覚えました。ご自身もCDの解説で書かれていますが、2020年初頭に1週間程度の来日だったはずが、コロナ禍による長期滞在となりました。そんな時期のレコーディングだし、精神的にもスケジュール的にも混乱があっておかしくないのに、そんな様子はまったくありません。あらためて、当時このレコーディングに臨まれたときの心境を振り返っていただけますか?

「あのセッションをしたのは、私が日本にやって来て2〜3週間ほど後だったと思います。あの時点では、私は日本に長期滞在できるビザも所持していませんでした。つまり、いつまで日本にいられるのかもわかっていなかったのです。

とはいえ、私は混乱していたわけではありません。日本に長期滞在できることを楽しんでいたと言えます。何しろもともとの予定では芸術祭のための視察をして、せいぜい1、2週間ほどの滞在予定でしたから。そのスケジュールが延びたことをうれしく感じていました。

また、レコーディングをするにあたってもいい環境だったと言えます。ああいう時期に何かクリエイティブなことができるというのは良かったです」

──テリーさんにとっては、ある意味良い流れでもあったんですね。当初は〈非公開で行われた友人たちのためのセッション〉だったと聞いています。

「セッションをしたらどうかと話していたんだと思います。でも、いつ演奏を始めたのかもよく覚えていませんし、レコーディングすることになるとも思っていなかったんです。すべては私が演奏を始めようとしたまさにその瞬間に、私の知らないところで定められていたような感じでした。

何を弾こうかと考えて私のなかで浮かんだアイデアがありました。長いこと演奏していなかった曲をいくつか弾いてみようと思ったんです。私にとってはとても新鮮でした」

──つまり、テリーさんはこの演奏が将来リリースされるとは知らなかったんですね。

「すべては偶然の流れでした。小淵沢に良いスタジオがあって、そこを所有している人たちと家族ぐるみの付き合いがあり、私にとってとてもやりやすい環境だったのです。私たちは、ただ〈やろう!〉と思っただけなんですね。そして、この3年間というもの、あまり深く現状を考えすぎずにあちこちで演奏を続けてきました。とはいうものの、あのときのレコーディングがこうしてリリースされるとは思ってもいませんでしたけどね」