映画「ゴジラ-1.0」が2023年11月3日(金)より公開される。監督/脚本/VFXを務めたのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」「STAND BY ME ドラえもん」などを手がけた山崎貴。作品タイトルや時代設定が明かされる以前から「ゴジラ」新作のニュースが届くたび、往年のファンを中心にその動向が注目されていた。

「ゴジラ-1.0」は予告映像が解禁されるや否や、多くの人が〈人類の敵〉としてのゴジラを意識したはずだ。そんな「ゴジラ-1.0」と共鳴する過去の「ゴジラ」作品を、同シリーズをこよなく愛する桑原シローに紹介してもらった。「ゴジラ-1.0」の予習として、またゴジラそのものを深く理解するテキストとして活用してもらいたい。 *Mikiki編集部


 

初代「ゴジラ」を取り巻く現実の出来事

「ゴジラ-1.0」を楽しむにあたって重要な手がかりとなる「ゴジラ」シリーズの過去作について。差し当たってはもっとも近い輪郭を持った一作ということで、約70年前に制作された第1作目がそれに相応しいかと思う。

本多猪四郎, 宝田明 『ゴジラ(’54)4Kリマスター』 東宝(2023)

宣伝ポスターに〈水爆大怪獣映画〉と添えられた「ゴジラ」が公開されたのは、1954(昭和29)年11月3日。前年に日本公開された米ワーナー・ブラザーズ作品「原子怪獣現わる」と同じく、核実験によって目覚めた巨大怪獣が都市を襲撃して人類を恐怖に陥れる、という設定を持った空想科学映画であるが、核の脅威がもたらす苦しみと悲しみをどこの国の人間よりも深く知る日本人にとって、ゴジラの出現が突き付けた命題はけっして笑ってやり過ごせる類いのものではなかった。ここで公開当時の出来事や世相を少しばかり振り返ってみたい。

1951(昭和26)年:サンフランシスコ平和条約・日米安全保障条約に調印/黒渾明監督作品「羅生門」がベネチア国際映画祭でグランプリ(金獅子賞)受賞/名古屋に始まるパチンコブームが全国に広がる

1952(昭和27)年:GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)廃止/米国が初の水爆実験を含むアイビー作戦をマーシャル諸島のエニウェトク環礁にて、英国が初の原爆実験をオーストラリア北西部のモンテベロ島にて実施/白井義男がボクシング世界フライ級タイトルマッチで日本人初の王座を獲得

1953(昭和28)年:NHK、日本テレビがテレビ本放送開始/朝鮮戦争の休戦協定に調印/岸惠子主演映画「君の名は」のヒットでマチ子巻きが大ブーム

まだまだ第二次世界大戦の影が色濃く残っていた時代である。映画公開年にはマーシャル諸島のビキニ環礁で行われた水爆実験によってマグロ漁船の乗組員が被爆するという〈第五福竜丸事件〉が発生している。

人を簡単に死に至らしめる核の怖さだけでなく、食の汚染への不安も渦巻くなか、けたたましい咆哮と共にその姿を現したゴジラ。文明社会の脆さを突くように街を破壊しながら、わが物顔で闊歩する彼奴は悪魔の化身か? それとも神の使いか? そんなことを考える余裕もなく観客たちはスクリーンの前で狼狽え、ただただ逃げ惑うしかなかった。