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師リヒテルを偲んで初の録音に挑む、円熟のピアニズム

 シューマンのピアノ協奏曲は、じつに若々しい。青春そのものといっていいパッションのほとばしりで開始、主題旋律にだって素朴なまでの初々しさがある。春の嵐が一瞬吹いたかと思えば、突き動かされるようにもたらされる高揚感。あの「アンヌ、僕はM78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」の告白シーンで流れていた音楽は、ディヌ・リパッティの弾いたみずみずしい演奏だった。

 そのシューマンが拠点としていたライプツィヒの音楽院に15歳で学んだグリーグ。彼が25歳で書いたピアノ協奏曲からは、いかにもシューマンに憧れつつ、そこに自らのエッセンスを取り込もうとした、青年ならではのバイタリティがうかがえる。これら〈若々しい〉2つの協奏曲は、併せて録音されるケースが多い。スヴャトスラフ・リヒテルにも1974年のレコーディングがあった。

 そのリヒテルに才能を見出され、共演も重ねたエリザーベト・レオンスカヤ。彼女が77歳になって、初めてこれらの協奏曲を録音した。

ELISABETH LEONSKAJA 『シューマン&グリーグ:ピアノ協奏曲』 Warner Classics/ワーナー(2024)

 アダルトな味わいが香り立つピアノだ。リヒテル譲りの明快さを保ちつつ、そのシューマンの演奏には、青春というより、どこか晩秋の気配が漂う。はっきりとした粒ぞろいの良さで旋律を繊細に歌わせ、和音を精妙に鳴らす。円熟のピアニズムそのものである。

 グリーグ演奏では、鮮やかな音色を示しつつ、穏やかに作品の奥行き感を出す。冒頭楽章、第1主題のなどで聴かせる落ち着き払ったたたずまい。終楽章のカデンツァからコーダにかけては、真っ盛りの紅葉が一斉に散り始めるような光景が目に浮かぶ。

 ミヒャエル・ザンデルリンクが指揮するルツェルン交響楽団は、しんみり落ち着いた響きを保ちつつ、それぞれの声部を柔らかに歌わせる。よく練れたバランス。ピアニストの音色にも、しっくりと馴染む。

 秋が深まって落葉が進むと、急に視界が開ける。作曲家が作品に込めた若い情熱も、その視線に遠くに、より明晰な形となって浮かび上がる。まさにそんな演奏だ。