角銅真実の4年ぶりとなるメジャー2作目『Contact』の開巻をかざる“i o e o”は、まず彼女が水に潜るシーンから始まる。あぶくの愉快な響きと入れ代わるようにして現れるのはフランシス・レイの“白い恋人たち”の旋律をなぞる天真爛漫なスキャットだったりして、古川麦や光永渉らバンドの面々が丹念に泡立てた奔放かつ有機的なグルーヴと共振しながら不可思議な模様を浮かび上がらせていく。まさに順風満帆な滑り出し。これぞ角銅真実!と膝を打ちたくなる天晴れな自由闊達さ。聴き進めてすぐに気づいたのは、作品全体にこれまでになくほのかな明るさが宿っていること。

 「前作は歌そのものに興味があって、頭の中に浮かぶ言葉を形にするにあたり、半分寝ながら夢の内容を喋っているのに近い状態だったというか。うまく言えないけど。あれから4年、様々な場所で演奏する機会を得て、演奏の行為と音を奏でる場所との共鳴というテーマが生まれ、目を開いて身体で空間を感じることの楽しみを感じるようになった。より身体性を意識したことが作品の〈陽〉な印象につながっていることはたしかです」

角銅真実 『Contact』 ユニバーサル(2024)

 2年前、かねてより文化や芸術に惹かれていたアルゼンチンを初めて訪れ、様々な作品や音楽に触れながら、それらに共通して宿る〈明るい嘆き〉というべきものを発見、大きな感銘を受けたことも新曲制作に少なからず影響があったと彼女は話す。生きるぞ!というひたむきな姿勢を自身の音楽にも投影させると同時に、尊敬する藤子・F・不二雄が提唱した〈SF=すこしふしぎ〉感覚をさらに追求していった結果、ポップさとミステリアスさがいい塩梅に同居する多面的なアルバムに昇華したということだ。

 古い小唄や民謡のレコードを採集する道すがらに出会った“長崎ぶらぶら節”のカヴァーでは自身のルーツの見直し作業に加えて(彼女は長崎出身)、ノスタルジアを未知の音響空間として生成させる試みを実践しているのも興味深い。またサム・アミドンとの共演曲“外は小雨”では高い鎮静効果のあるエキゾティカを培養する研究にも取り組んでいてみごとな成果を挙げている。とにかく随所にハッとさせるような仕掛けが隠されており、聴くたびに模様がガラリと変化するよく出来たカレイドスコープのような作品なのだが、ラストに登場するあっけらかんとした風情のフォーキー・チューン“人攫い”(彼女の幼少期の心模様が歌詞に描かれている)がこれまたいい意味での掴みどころのなさを助長するのだ。これこそまさしく人攫いの音楽。好奇心旺盛なリスナーはしっかり警戒するべし。

 未知のものと出会いたい、という飽くなき好奇心。手の鳴るほうへ。